第19話 ブラック企業は怖いところや
魔王城でも息子さんの千里眼は健在で、うちらは魔神の大斧を宝箱から手に入れて戦士さんが装備する。電撃が通った床を境界面歩行呪文を使って乗り越えていく。
玉座の間らしきところには、王冠とマントを纏ってる、人間の白骨化した死体があった。肋骨に剣が突き刺さったままになってる。
たぶんなんかの皮肉なんやと思う。
このお城は作りこそ複雑やけど、元はごっつうきれいやったのがわかる。
装飾品のセンスとかも洗練されてる。
元々は人間の作った城やったのを攻め滅ぼして魔物が使ってるんやろう。
息子さんは玉座の間から表に出て離れの方へ向かった。
離れの地下に、そいつはおった。
それは、ものごっついデカい、二足歩行のカバやった。
人間の三周りぐらいデカい。強力な魔法力に満ちてるのがわかる。
緑の法衣服と紫のマントを纏ってる。
言われんでもわかった。
これが魔王や。
「手筈通りに」
息子さんが言う。
ラ・ルミアの背中の上でこれからの作戦は聞いとった。
うちらは頷く。
「ついにこ…」
「睡眠呪文」
「睡眠呪文」
「居眠りの杖」
「居眠りの杖」
睡眠呪文の連打を食らってカバさんは眠りについた。
「封印呪文」
「封印の杖」
カバの呪文が封じられる。
息子さんが言うにはカバさんは極大爆裂呪文や、極大火炎呪文を使うから呪文を封印せーへんかったらうちらは秒で蹴散らされるらしい。
「加撃呪文」
「軟化呪文」
息子さんの剣が光を纏う。軟化呪文が魔王の皮膚や装飾品の強度を下げる。
カバさんが目を覚ます。敵が強いからか睡眠呪文の効果時間が短い。
「こまでやってき…」
「睡眠呪文」
「睡眠呪文」
「居眠りの杖」
スヤァ。
カバさんがまた眠る。
「加撃呪文」
うちが今度は戦士さんに呪文を掛ける。
「いくぞ」
息子さんが言うた。
その言葉を合図に、うちらは攻撃を開始する。
息子さんと戦士さんがカバさんに斬りかかる。うちと賢者さんは原則として居眠りの杖を振ったり、睡眠呪文を唱える。カバさんは攻撃の痛みで目を覚ました直後に、睡眠呪文を食らってまたぱたんと倒れて夢の世界にいく。よっぽど寝不足やったらしい。きっとブラック企業に勤めてるんやろうな、普段はろくに睡眠時間がとられへんねやろう。がんばってるねんな。
カバさんはどうにか眠りに抗って、口からものすごい勢いで火を吐く。
竜鱗の盾がうちらを守ってくれるけど、それでもものすごい熱がうちらを襲う。
賢者さんが回復呪文で傷を癒す。カバさんが寝てるときには攻撃に参加する戦士さんも、起きたら直後に居眠りの杖を使ってカバさんを寝かすことに専念する。正直、起きててまとも戦ったらとてもじゃないけどうちらの手には負えへんことがわかる。
ほっといたらカバさんの傷はずんずん治っていく。
さっき戦士さんがつけた傷がもうなくなってる。息子さんだけがカバさんを回復させへんように攻撃に専念する。雷の剣がカバさんの腹を深くえぐる。
「はらわたを食らい…」
「睡眠呪文」
カバさんが再び眠りに落ちる。
「“か”、戦え!」
「はい!」
うちは居眠りの杖を掲げかけたけど、息子さんに言われて天叢雲剣を構える。
息子さん、戦士さんの攻撃の次に、うちの剣がカバの喉を切り裂いた。
なぁ、カバさん。
あんた、がんばっててんな。魔物の親玉として寝る間もないくらい働いててんな。
あんたはうちらからしたら悪やけど、あんたにはそこまでするあんたなりの言い分があるんやろ。
でももうええで。うちらが眠り与えたる。
永遠に覚めへん死いう安息の眠りを。
うちらは魔王を倒した。
……およそ2時間で。
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