第18話 おおぞらをとぶ



 もう一回手を突っ込んで、今度は一本の片刃の剣を引きずりだす。うちに向かって投げる。

「装備しとけ」

「あ、はい」

 うちはその天叢雲剣いう武器を装備した。

 めっちゃ切れ味よさそうな剣やった。


 うちらは酒場から商人さんを連れてきて、大陸の端っこの方にある未開の地に連れていって「ここで爺さんを手伝え」て言うて放置する。商人さんが「そんな、そんな殺生なこと言わんといてください」て言うたけど息子さんは聞く耳持たへんかった。

「ええんですか?」

「船に戻るぞ」

 うちらは「鬼!」、「悪魔!」、「くそ野郎! 地獄に落ちろ!」、「末代まで祟ってやる!」いう罵倒の言葉を背中で聴きながら船に戻る。死ぬほど後味悪い。

なにを思ったんか、息子さんはそのまま商人さんの方へ引き返した。

 さすがにひどいおもたんやろか。

 と、うちは目を疑った。さっきまで未開の荒野の中にぽつんと川が通っとったところに立派な建物がいっぱい立ち並んどった。

「な、なんなんですか、これ。幻!?」

 息子さんは奥にある一番立派な建物から、黄色いオーブを盗ってくる。

「これですべてのオーブが揃った」

 うちはそんなことより、一瞬で街が出来たいまの情景の方が信じられへんくて立ち尽くしとった。

いまいったいなにが起こったんや……!?

 この旅が始まってから一番びっくりしたかもしれへん。

 火山噴火したときより衝撃やった。




 と、ともかく、すべてのオーブを揃えたうちらは、船で地図の南端にある雪に包まれた聖域までやってくる。

 聖域は小さい祠で、なかには双子らしい小さい女の子がおった。

 双子の奥にはおっきな鳥の卵に似てる球体がある。

「わたしたちは」

「わたしたちは」

「ラ・ルミアの卵を護っています」

「ラ・ルミアの卵を護っています」

 双子はまったくおんなじ調子で喋る。出来の悪い立体音響みたいな感じで、長いこと聞いてるとちょっと気持ち悪くなりそう。

 息子さんが台座にオーブをささげていく。

 六つのオーブをささげ終わると、それぞれのオーブが強い光を放ってその光が卵の方へと移っていった。

「わたしたち」

「わたしたち」

「この日をどんなに」

「この日をどんなに」

「待ち望んでいたことでしょう」

「ああ、愛しいあなた」

「さあ、祈りましょう」

「さあ、祈りましょう」

「目覚めのときがきました」

「大空はあなたのもの」

「いまこそよみがえれ」

「いまこそよみがえれ」

「母なるルミアの翼よ」

「母なるルミアの翼よ」

 卵がひび割れて、虹色の光の宿った羽を持ったアホみたいにでっかい鳥が目覚めた。

 プテラノドンとか目やない。両翼広げたらお城くらいあるんちゃうやろか。

 これが、九つに分かたれた言われてる精霊ルミアの肉体の一つ、「翼」を与えられたもの。

 不死鳥ラ・ルミアらしい。


 息子さんがなにも言わんとルミアの翼によじ登る。

 うちらも息子さんに続く。ラ・ルミアは一度大きく羽ばたくとそのままほんまに大空へと浮かびあがった。

「うひゃあ」

 うちは空から見下ろす景色の途方もなさに驚く。

 広大な草原、森、街々、海、地平の彼方。

 冷たい風が頬を撫でていった。雲がうちの隣を泳いでる。

 上から見る世界は地上から見るのとまるで別物で、美しかった。

 同時に、めっちゃこわい。

 ここから落ちたらうちはぺちゃんこの真っ赤なトマトになるんやろう。

 ラ・ルミアが空を滑って地上に舞い降りる。視界の端っこにいつかの迷宮が見える。


 うちらはついに、魔王城に辿り着いた。


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