第17話 おまえのどこが八岐大蛇やねん!
うちらは火山の麓までやってきた。険しい山が道を塞いでて歩いてはここまでしかいかれへんし、河はあるけどえらい浅くて船が進めるような水路はない。
「どうするんですか」
「えい」
息子さんは大地の剣を放り投げた。呪文の力を借りて山頂まで飛んでいった剣が、火口に落ちる。と、
火山が噴火した。
うちは悲鳴を上げた。ぎゃあぎゃあと叫びながら賢者さんと一緒に氷刃呪文を使って溶岩が流れてくるを食い止める。火山の爆発は地形を変えた。河が干上がって溶岩が冷え固まって陸になる。氷刃呪文や境界面歩行呪文を使いながらやったら進めんこともないと思うけど。
「なんてことを。なんてことしはるんですか!?」
息子さんはうちの抗議を全然無視して、いま出来たばっかりの、溶岩が冷え固まった道を進んでいった。
この人になんか言うてもしゃーないことを、うちもようやくわかってきたから黙ってついていくしかない。世知辛い。なんや、うちもいよいよ息子さんの手下として染まってきたような気がする。
火山の先にはごっつい迷宮があった。
ネクラゴッドの迷宮やいう場所やそうや。めっちゃネクラな神さんがその昔ひきこもるために使ってた迷宮なんやろう。すごい複雑なつくりの洞窟みたいやけど、こんなもん千里眼を持ってる息子さんの敵やなかった。重要そうな宝箱だけさっさと開ける。雷の剣いう武器とリフレクトメイルいう鎧を手に入れて、剣は息子さんが、鎧は戦士さんが装備する。迷宮の中の魔物はなかなかに強いけど、うちらは居眠りの杖をつこうたり、昇天呪文で消し去ったり、全力疾走で逃げたりあの手この手を使って戦闘を避ける。
そうこうしてるうちに、出口に辿り着いた。
その先にはちっさい祠があるけど、洞窟を出て真っ先に目に入ったのは別のもんやった。
「息子さん、あれ」
川を挟んだ向こう側に、禍々しい気配に満ちたお城が聳え立っとった。
あれが……
「魔王城だな」
「ここからでは」
「行けない」
息子さんがもう城の方を見向きもせんと歩く。祠に向かう。祠におった隠居したおっちゃんが銀色のオーブをくれた。おっちゃんはここまでこれる実力がある者を待ってたんやそうや。でもこんな辺鄙なとこ、一生誰もこーへん確率のほうが高そうやけど。
だいたい火山爆発させてここまで来るなんてとんでも発想するのは息子さんくらいやと思う。おっちゃんは引きこもっとるうちにまともな感覚がなくなってしもたんやろうな。
引きこもりのおっちゃんとさよならして、今度は神殿から東にある島国の近くにやってくる。国の中には入らんと近くの洞窟にそのまま突入する。洞窟の中は溶岩だらけのこわいところやけど、火山の噴火を体験してきたからどってことないと思う。魔法力で簡単な結界を張って火傷するのを防ぎながら奥に進んでいくと、そこには竜がおった。
その竜は「八岐大蛇」て名乗った!
ふざけんなよ! とうちは思う。なにが八岐大蛇やねん! 八岐大蛇いうのは八本の首持っとる蛇やから八つの岐のある大蛇いう意味で八岐大蛇言われとったんや!
おまえ、首、五本しかないやないかい!!!
おまえのどこが八岐大蛇やねん! はったおすぞ、こら!
うちが加撃呪文をかけて、息子さんが雷の剣で斬りかかる。あの剣、めちゃめちゃ切れ味いい。戦士さんも十字架の剣で戦う。賢者さんが幻惑呪文をかけて竜の首が幻を叩く。さらに軟化呪文をかけて竜の鱗を柔らかくする。竜が火を噴くけど、竜鱗の盾が火炎を遮ってくれる。うちは居眠りの杖を振りかざして自称・八岐大蛇を眠らせる。
眠ってるうちに息子さんと戦士さんの剣が竜の肉をえぐり取る。
竜は悲鳴を上げて後ずさりして、背後にあったぐるぐるの中に飛び込んだ。
「追うぞ!」
息子さんがそれを追いかけてぐるぐるに飛び込む。
うちらも続く。
そしたら見知らん社のなかに出てきた。
巫女さんがひどい傷負って倒れてる。
うちはやくくさ使ってあげよと思うて前に出ようとしたら、息子さんがうちを止めた。
雷の剣を巫女さんに向ける。敵意に満ちた瞳で巫女さんを見る。
「ふ、ふふっ」
巫女さんが不気味に笑って、さっき八岐大蛇の姿に変身した。
でもやっぱり傷だらけや。最後の力を振り絞って竜が暴れる。火炎の息を吐いて社を火で包む。賢者さんが氷刃呪文で火炎を相殺して、息子さんが剣を振りかざした。うちの加撃呪文が息子さんの剣を包む。賢者さんの軟化呪文が竜の鱗の硬度を引き下げる。八岐大蛇は首の一つを息子さんに向かって走らせたけど、戦士さんが盾を掲げて首の一撃を受け止めた。さらに剣で切り裂く。うちも走って息子さんに向かった首を盾で受け止めた。ものすごい衝撃がうちを襲うけど、戦士に転職して頑強になったうちの体はそれを受け止めて殺しきる。
息子さんが振り下ろした剣が首の根本から入って、竜の心臓を断ち切った。
竜は真っ赤な血をぶちまけて、断末魔の声をあげて自分の血の中に倒れ伏した。
えらい悲しい声やった。
息子さんは死体の中に手を突っ込んで、紫色のオーブを引きずりだした。
うちは改めて、躊躇なくそういうことができる息子さんを怖い人やなと思た。
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