第16話 リア充が爆発した
うちらは妖精族の隠れ里に立ち寄って、変身の杖を使った。「けえこぎ返せ!」のおっちゃんとおんなじ姿(ホビット族いうらしい)になったうちらは、里の道具屋によって居眠りの杖と祈願の指輪いうアイテムを買って里を出る。
……あの杖、いろんなおもしろいことに使えそうやなとうちは思う。
ていうか、盗賊団的にはあんなおもしろいアイテム他にないんちゃうやろか? 他人の姿借りて盗賊したら誰もうちらのこと捕まえられへんやん。
腹の黒いこと考えてたうちとちごうて息子さんはあっさり変身の杖を「船乗りの羅針盤」と交換する。「これ、北向いてないですね?」と戦士さんが言う。うちも覗き込んで、その羅針盤が明後日の方向を指してるのを見る。
息子さんが舵を切って、うちらは針の指してる方にずっと進んでいく。
すると、一隻の船が海を漂ってた。
息子さんは船に横づけして、向こうの船に乗り込む。その船は波に揉まれてぼろぼろに破損してて、中ではいろんなもんが腐ってる嫌な臭いに満ちてる。船室の奥に進んでいって、うちらは腐乱死体を見つける。死体はえらいきれいな指輪を嵌めとった。ダイヤモンドに見える石がはめ込まれてる。値打ちもんかと思うたけど、裏にイニシャル(E・O)が彫られとって、結婚指輪やとわかる。売れんやろなとおもたけど、息子さんはそれを手元の袋に締まった。
うちらは船に戻って、今度は大陸の間の狭い海峡を通ろうとする。
霧が出てきて、急に視界が効かんくなる。「エドガーじゃない」ていう女の空恐ろしい声が聞こえた。水面が渦巻いてうちらの船は押し戻されそうになる。「ほらよ」息子さんは指輪を空に向かって放り投げた。水面に落ちていったはずの指輪は、不思議なことに水音を立てへんかった。
「ああ、エドガー」
「オルガ、やっと会えた」
「私、あなたが私を恨んでやしないかと」
「会いたかったよ。ああ、オルガ。会いたかった」
声だけが聞こえて、次第に霧が晴れていった。
水面も静かになって、船は普通に進みだす。
うちらは海峡を越える。
「……なんやったんですか、いまの」
「身分違いで恋人と別れさせられたのを悲観して身投げした女が恋人を探してたんだよ。相手の男は奴隷として船にぶち込まれたらしい。その船が本当はこの海峡を通るはずだったんだが、難破してな」
「そのまま海、さまよっとったんですか」
息子さんが頷く。
てことはあの腐乱死体が元恋人やいうことなんやろう。
「さみしいですね」
答えてくれへんかったけど、たぶん息子さんもそうおもとったんやと思う。
海峡を越えた先にはちっさい祠があって、そこでうちらはまた死体を見つける。
死体の隣には立派な剣が落ちてる。大地の剣いう剣らしい。死体の近くの壁には「無実の罪で捕らえられた」ことと、「国王の正体が本当は魔物である」ことが綴られとった。さぞかし無念やったやろと思う。
剣自体はなまくららしいけど、息子さんはそれを大事に仕舞う。
こうして旅を続けてたら、あちこちで魔物との争いの痕。傷痕に気づく。
魔王を倒さなあかんと、うちは強く思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます