第8話 勇者がはやすぎる


 おっさんはなんやどっかから盗んだらしい冠おいて逃げていった。息子さんは冠には目もくれんとキメイラの翼で陽気な村まで飛んでいく。そっから東の洞窟の中に入って、なかにおったホビットのおっちゃんの前で、息子さんが唐突に手紙読みだした。胡椒欲しい王様に書いてもらったやつで、なんか納得いったおっちゃんが道開けてくれた。

 どうでもええけどおっちゃん、道開けるために壁掘るときに「こんぼう返せ!」とか「けえこぎ返せ!」とか絶叫しながら体当たりしてた。あの、うちらあちこちからいろいろ盗ってるけど、これは盗ってないやんな? さすがに濡れ衣やんな……?

 うちらはさらに南東の方角へと歩を進める。

 道中で魔物も出てくるけど、鋼のムチムチで武装して防具もしっかり手に入れたまのうちらの敵やない。

 その先の小さい街きたら、なんや人が攫われたいう話を聞いた。どうも若い娘さんで、そのことを話してた若い男が助けにいった。けっ。リア充なんか諸共に爆発したらええやん。ほっといたらええやん。でも息子さんが助けにいくいうたからうちらは街の近くの洞窟に向かう。なんや、息子さんもこわいばっかりじゃなくてええとこあるやんとうちは息子さんをちょっとだけ見直した。

 洞窟の奥まで進んでいくと、鎧の集団がテーブル囲んで遊んでるのを見つける。構わず突撃していく。息子さんと盗賊さんの持ってる鞭が鎧の集団をしばく。うちも陰ながら新しく覚えた氷刃呪文で三人を援護する。ようやっと人助けっぽいことができてちょっとテンション上がる。てか鎧の上からダメージ与えれる鞭てすごすぎん? あ、鎧の破片散ってる。砕いた。

 あと、この鎧共、見覚えある。

 あの神田さんの手下や。

 どうでもええけど、うちら相当急いでここまできたはずやけどこいつらどうやってうちらより先回りしたんやろか? あ、キメイラの翼か。にしても娘さん誘拐する余裕まであったのはすごい。神田さん、ごっつ手際いい。同じ盗賊団として見習った方がええかもしれん。さすが先輩や。

 手下倒してもうちょい奥までいったら、娘さんとさっきイキっとった若い男が牢屋に閉じ込められとった。うちは速攻で捕まったこの人のことをめっちゃださい思うけど、戦う力もないのに心配でいてもたってっもいられんくて恋人助けにいったのはなんや尊(たっと)いことのような気もする。うちも捕まったら助けにきてほしい。誰にとかはまだないけど。リア充爆発せーへんかな。

 レバー押して牢屋開けたら、二人が出てきて抱き合って踊っとる。

 めっちゃ元気やん。あと三日ぐらいほっといたらよかったわ。

 ところであのさ、めっちゃ恐ろしいこと言うてもええ?


 ……冒険出てからまだ一時間経ってないねん。


 だいたい四十分くらいやろか。

 塔登ってぐるぐるの渦巻に飛び込んで砂漠歩いてピラミッドからカギとってきていろんなお城の宝物庫から金目のもん盗み出して変態のおっさん鞭でしばいて誘拐された男と女助けて。

 それでまだ一時間も経ってないねん。

 人生のなかでこんな濃い一時間、もうあらへんと思うわ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る