第3話 ジェロはごっつガッツある

 外に出て東の洞窟に向かう。途中で意味もなく祠の中に入ってすぐに出てきた。

「いまのなんですか?」

 訊いてみたら舌打ちしながら「エンカリセ」言うとった。

 演歌? 息子さん、演歌聞くんやろか? うち、海雪やったら歌える。ジェロは異国まで来てそこの歌勉強して歌おうやなんて、ごっつガッツあるなぁ。

 今度うちの海雪、披露してあげよ思う。

 洞窟の中に入ったら、中は行き止まりやった。息子さんが道塞いでる壁に魔法球を仕掛ける。それから壁から距離とった。うちらに「口開けて耳塞げ」いう。ようわからんけどこわいから言う通りにする。と、魔法球が爆発した。壁が吹っ飛ぶ。びっくりしすぎて心臓爆発するかとおもた。なにが魔法球やねん! ダイナマイトやないか! ああ、だからあのおじいちゃん、息子さんが「こいつが火炎呪文使う」言うたときにあんな慌てとってんね! こわすぎるわ! ほんまやめてくれへんか。

奥に進むと、洞窟の中は長いこと人が通ってないみたいでめっちゃ荒れ果てとった。道崩れてるし、魔物の巣窟なってる。なんやここ、こわい。舌長い毛まみれの魔物とか、ぶかぶかの法衣きたおっさんみたいな魔物とかめっちゃおる。うちらは基本全力で逃げるけど、ときどき見つかる。傷は逐一やくくさ使って治してくれるけど、何回も死にそうになる。どうでもええけど、このやくくさ、速攻で効いて切り傷でも打ち身でも火傷しててもすぐに治る。すごい。8円で売ってるもんやとはとてもじゃないけど思われへん。そのうちすごい副作用とかに襲われへんやろか? ちょっと心配なる。

 三叉になってる道あったんやけど勇者さんは速攻で一番左の道選ぶ。なんや、ぐるぐるの渦巻きみたいなんがあって、どうやらここが正解やったみたい。

 ここ来るまでもおもたけど、息子さん絶対に道、迷わへん。めっちゃ遠回りな気ぃするルート選んでるのに、よおみたらこっちに続いてそうな他の道、途中で崩れ取ったりでどこも通られへんかった。なんでこんなんできるんやろ。

 息子さんすごい。

 それはそうとうちらは渦巻のなか飛び込んだ。

 目ぇ回った。酔った。つらい。


 目ぇ開けたら後ろに海あった。息子さんはちょっといったとこにあるお城入ってすぐに出てくる。「エンカリセいうやつですか?」訊いてみたら今度は「ブクマ」帰ってきた。ぶくま? ぶんぶく茶釜とかの親戚やろか? それともぶさいくなクマのことやろか? 息子さん、意外と趣味かわいい。

 それから北の方向かう。途中であった村でまた「エンカリセ」と「ブクマ」して、今度は東の方へ歩き出す。最初の街から随分遠くまできた気ぃする。息子さんは河挟んだ橋の手前でうろうろする。

「なにしてはるんですか?」

「エンカ調整」

 魔物出てきて、うちらは速攻で逃げる。

 ほんまなんやったんやろ?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る