第50話 デューク、伝説の勇者に会う

冒険者ギルド本部に向かったパトリックとデュークの二人はサガの執務室に通される。


「どうしたパトリック?血相変えて来やがって」


「サガ総長、ちょっとお願いしたい事がありましてね…」


パトリックはデュークと話した件をサガに説明した。最初はあまり関心が無さそうだったが、聞くに連れ表情が険しくなってゆく。


「うむ…確かに話の辻褄は合ってる。かと言って推測の域は出ない…しかし計画的だとすれば放って置けない話だな」


「ウチのイレイザが被害を受けてから3年弱、我々はイレイザの救出だけに目を向けて来ました。しかし、この『疑似ダークアウト』が推測通りならこの連中…なのかは不明ですが…時間を与え過ぎています。しかも我々が知らない所で更に『疑似ダークアウト』が行われている可能性もあると言う事ですからね」


「そうなると…コレはオレ達がどうこうするレベルを超えてるな…」


「仰る通りです。その為のご相談ですから」


「この野郎!オレにぶん投げかよ!全く…食えねえ野郎だぜ…」


「まあまあ…しかしながらこの件は流石に正式な筋を通すには余りに証拠が足りませんし、この状況から国を動かす事は私には出来ません」


「確かにオレ達の関与するレベルでは無い以上は国に頼るしか無い訳だが…流石に陛下に進言するだけの具体的な証拠は無いからな」


「何か良い手は御座いませんか?」


「…ったく、人に聞いてるフリしやがって…そこもオマエの考えてる通りにすれば良いんだろ?」


「アハ。やっぱりバレてます?」


「ニヤニヤしながら良い手は?何て言えば分かるに決まってんだろうが!」


「では、その様に宜しくお願い申し上げます」


「おいおい、逃がすと思ってんのか?お前らも付いて来いよ!」


「えっ…私もですか?いやいや、サガ総長だけで宜しいのでは…」


「フザケるなよ!担いでても連れて行くからな!」


「参りましたね…まあ仕方ありませんね。お付き合い致します…」


「デューク、オマエも来い。会わせたい奴がいる」


「ホ、ボクもですか???って言うか話が全く見えてないんですけど…」


「そうか…分かり難かったね。この件は我々ではスケールが大き過ぎだから国にぶん投げたいのだけどね、推論だから正式な手順は踏めないの。其処で裏のルートで攻めるのさ」


「裏のルート??」


「そう。その為にサガ総長に御尽力賜りたいという事なのさ」


「何が御尽力だ!この野郎最初からこれを狙ってたクセに…」


「裏のルートって、誰に頼むのですか?」


「ああ、オレからのルートで国を動かすには二通りある。基本は国王陛下に正式な手順で依頼をする事。もう一つはオレの相棒にコッソリ相談するってやり方だ」


「相棒???」


「何だデューク、まだ分かんねえのか?オレの『相棒』…『魔王を殴った男』の相棒って言えば『大魔王を斬った男』しか居ねぇだろが…」


「そう、かの英雄『勇者アーバイン』のアーバイン=デュラム侯爵だよ」


『大魔王を斬った男』…50年前、サガ達とパーティーを組み、伝説の剛剣である『星破剣ガリオ=エクシャー』を手に、その強大な魔力で【魔王ザーク】を操り世界を滅ぼそうとした【大魔王ノア】を斬り倒した伝説の勇者『アーバイン=デュラム』はその功績により子爵の地位を賜り、現在は更に出世してデュラム侯爵として国政を担っている。その武力だけでは無く明晰な頭脳の類稀な策略家でもあり、内政に置いても優れた手腕を発揮し国王陛下の右腕として強い信頼を得ている。

因みに勇者のパーティーに居た『賢者タークライト』は現教皇になっており、『大魔導師ニュレム』は魔道省の魔道大臣であり国王陛下直属の魔道親衛隊の指揮官でもある。そして、ハイブロッカーとして活躍した『神盾ゴールドカーク』は北のプラクアティス領の辺境侯『ゴールドカーク=ライゼム』として北の守りを一手に引き受けている。

勇者のパーティーの出世にはアーバインの策略によるものが大きい。勿論、サガも軍閥としての打診は有ったのだが「向いてねぇ」と断り、冒険者として世界を周った後にアーバインに請われて冒険者ギルドの総長として招聘された経緯がある。


「なるほど…って事はあの『勇者アーバイン』に会う事が出来るのですね!!」


「そうだね。滅多に会う事の無い方だから失礼の無い様にね」


「あ~、そう言うのは大丈夫だ。アイツは若い頃から堅苦しいのは嫌いでな。いつも気を張ってるからプライベートはかなりフランクだぜ」


「では御連絡の方お願いします」


「うむ、ヤツも忙しいからな。1週間位は見てくれ…なるべく早くとは言っておく」


「では、宜しくお願い致します」


冒険者ギルドの会談から4日後にデュラム侯爵との極秘会談が決まった。侯爵宅での会談となった。サガ総長からは何故かメタも連れて来る様にとの話であった。

デュラム侯爵邸は王都の貴族街に在るので塀を越えなければならない。勿論馬車に乗って侯爵宅に向かう。門番の騎士に「デュラム侯に会いに行く」とサガが顔を出すとすんなりと通される、所謂顔パスって奴である。凄い。

デュラム侯爵邸は流石に大きい建物で豪華絢爛である。爵位が上がると貴族間のパーティーなどを行わなければならない。その為にはそれなりの大きさと豪華さは持ち合わせなければならないのである。

到着すると門の奥から執事の様な初老の男性がやって来た。


「サガ様、お待ち申し上げておりました。閣下もお待ちでございます」


「おう、こっちがパトリックでそっちの坊主がデュークだ。鞄の中にはデュークのテイムしたはぐれメタルが入ってる。デューク、出してやれ」


「メタ、出ておいで」

鞄の中からメタがスルスルっとデュークの肩に移動した。


『メタなの』


「し、喋るのですな…コレは珍しい…」


「だろ?アイツも喜ぶと思ってな」


「流石はサガ様。閣下の好みもこ存じで…」


「フフフ、付き合いは長いからな。まあ、宜しく頼むわ」


「パトリック様、デューク様、当家の執事筆頭のトムで御座います。宜しくお願い申し上げます」


「パトリックです。本日は宜しくお願いしますね」


「デュークです…宜しくお願いします」


「では、此方へどうぞ」


屋敷の正門から入り口に入ると物凄い高さで大きいロビーである。ザ、権力者って感じのロビーである。その右横の入り口から暫く真っ直ぐ行った奥の部屋で待たされる事になった。


「広いお屋敷ですねぇ〜流石は侯爵家だわ~」


「アイツも偉くなっちまったからな…この位はやらないと箔が付かないからなあ」


「確かに…他の貴族も来ますしね。仕方無いですよ」


「ん?どうしたの?メタ」


『あそこからだれかみてるの』


「…あっ、ホントだ。メタ、やっぱりこういう一応監視が付くんだよ。偉い方のお屋敷だからね」


「ほう、やっぱ探知能力が凄えな。アレを索敵したかよ…中々分からねぇのにな」


「因みに私は全く…」


「それが普通なんだよ。初めてでアレに気付いたのは今迄にお前ら入れて三人くらいかな」


『あっ、すごいのがくるの』

メタが珍しく硬直している。扉の向こうからかなりのプレッシャーを感じる。


「ん?これは…」


ドアが勢い良く開くと一人の少女が入って来た。プレッシャーの原因は彼女だ。歳は12〜4歳くらいか?赤髪で眼も赤い。


「サガのおじ様!!勝負よ!!…アレ?…」


「フハハハ!!相変わらず元気だな!!殺気ダダ漏れだぞ!!」


「お、お客様とご、御一緒でしたのね…あの…」


「これ…メリッサ…もう少しお行儀良くしないか…サガ、いつもスマンな」

後からやって来た初老の穏やかだが心の強そうな感じの紳士だ。


「孫娘が失礼したね。パトリック君だね?認証式では何度か顔を見ているが、こうして会うのは初めてだね。アーバイン=デュラムだ。アーバインと呼んでくれ」


この紳士こそがデュラム侯爵『大魔王を斬った男』その人である。

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