第49話 デューク、失踪事件を推理する

その後、何がキッカケだったかレイナとロキが酒飲み勝負の展開になっていた。デュークはオロオロするばかりでイレイザはいつもの事の様にチビチビと飲みながら料理をオカワリしている。


「おいっ!ロキ!まだまだ飲みが足りねぇぞ!!」


「何だゴルぁ!オマエこそ全然酒が減って無いぞ!」


「イレイザさ〜ん…止めて下さいよぉ〜」


「放っときなさい。その内どっちか倒れたら終わりだから」


イレイザの読み通り38杯目でロキが落ちた。レイナもフラフラだが意識は有った…まあ、すぐ忘れるだろうが…


「ハッハッハ!ロキ敗れたりぃ!!ヒック…」


勝負付けが済んたのでイレイザは会計を済ませてフラフラのレイナを肩で支えながら宿屋に向かった。デュークは潰れてるロキを何とか背中でおぶって屋敷に連れ帰った。


「や、やっと着いた…ハアハア」


『あるじ、おかえりなの』


「た、ただいま…」


『…ロキしんでるの…』


「残念じゃが死んどらんわい。こやつは1回くらい死んだ方が良いがのう」


ロキを応接室のソファーに寝かせてから、デュークはメタと風呂に入って、その後やっと寝る事が出来たので有る。


その二日後にレイナとイレイザは業務開始となった。二人は王都と東の商業都市アルメイダ間の定期便として働く為である。この王都~アルメイダ間には途中にカセロとバスティックという接続の街があり、『白猫』の重要な定期便なのである。元来、レイナがこの便の担当であるが、イレイザをここに加えて走らせる事となった。


「レイナさん、イレイザさん道中お気をつけて」


「デューク、ありがとね。行って来るよ」


「またね!デューク君」


『さみしくなるの…』


「また戻るよ!待っててねメタ」


「そう言えばロキ様は…」


「次の日に冒険者ギルドの方々が連行して行きました。その後は行方知れずです」


「あ〜、そーなんだ…」


「さあ、そろそろ行くよ!!」


「行ってらっしゃい!!」


『はやくかえるの』


こうしてレイナとイレイザは旅立って行った。

メタと屋敷に帰るとザグスが紅茶を飲みながら待っていた。


「帰ったか。すぐに始めるか?メタ」


『すぐにはじめるの』


「じゃあ飲み終えたら中庭で始めるぞい」


『はいなの』


ザグスとメタはいつもの稽古を中庭で始める。最近ではドラゴンブレスを完全にモノにしたようだ。炎というよりレーザーに近い感じの威力抜群の攻撃魔法である。

後は伸縮のスキルだけであるが相変わらず3廻りほどしか大きくならない。ついこの間一緒にお風呂に入った時に何故伸縮のスキルに拘るのか聞くと、何でもデュークを乗せられるくらい大きくなって一緒に旅をしたいらしい。馬車で王都を目指す旅が随分と気に入った様で、自分がデュークを乗せられたら馬車を借りずに済むと考えた様である。まあ、乗せれたとしても振り落とされそうだが。


修行も一段落ついた頃にザグスに声を掛けた。


「ザグス様にお聞きしたい事がありまして…」


「ん?例の【ダークアウト】の件かのう?」


「えっ…鋭いですね…その件です。人為的に【ダークアウト】と言うよりは『疑似ダークアウト』を出来るのでしょうか?」


「一言で言うと可能では有るのう」


「可能『では』有る…ですか…」


「うむ。もし行なうならば高位の転移魔法、複数の魔法陣構築、獲物を引きずり込む為の重力魔法、そして…迷宮に自由に出入り出来る能力者…という事になるのう」


「そんな…難しいと思いますね…」


「そう鑑みて出来るとすれば、其れを使いこなすパーティーかもしくは…」


「もしくは??」


「魔族の者だろうのう…」


「ま、魔族!?」


「魔族ならば一人でもこの位は可能じゃ。じゃが…魔族が動く『理由』が無いのう」


「なるほど…って事は組織的な関与という事に…」


「だが、其れもレアな能力が要るからのう…」


「う〜ん…」


確かに出来ない事は無いがその二つの可能性では2つ共に難しい。どちらもかなりのレアケースであるし、とにかく『理由』が無い。何の為にそのような事をしたのかと言う『理由』だ。これを解明しない限りは机上の空論である。


「まあ、ともかくじゃ…お前達にとっては碌でも無い企みだろうのう」


「確かに…コレが大規模でやられたりすれば大変な事になりますね…」


「ほう!其れかも知れんぞ!」


「は?」


「大規模に行う為の試作かも知れんぞ。うんうん、其れならば『理由』になるからのう」


「何故大規模なら『理由』になるのですか?」


「戦略的に考えたら良い。もし強力な部隊がいきなり消えたら…どうじゃ?」


「なるほど!!コレなら『理由』になりますね!」


「早速ロキ様に知らせて来ます!!」


「ん?あやつは阿呆だから他の者が良いぞ」


「う〜〜〜」


デュークはザグスの言葉でどうしたら良いのか分からなくなった。が、もう一人頼りになる人が居た。


「パトリック総長に相談してきます!!」


デュークは急いで『白猫』ギルドに向かった。運良くパトリックは執務室で仕事をしていた。


「総長!!話がありますっ!!」


「おやおやデューク、何を慌てて居るんだい??」


パトリック総長にザグスとの話の内容を伝えると急に険しい表情になった。


「あり得る話だな…事が事だけに急を要するな!コレには味方につける人間が必要だな…」


「味方…ですか?」


「恐らくは国との交渉に発展するだろうからね。そうなると…やはりあの方の手を借りるしか無さそうだね…」


「それは??」


「フフフ…こんな事を頼めるのは…『魔王を殴った男』しかおるまいよ」


確かにパトリックが言う通り、国に意見を言える実力者でこの件で動いてくれる『最上の一手』は冒険者ギルド本部総長サガ…その人以外いない。


「デューク、行くよ。これからが忙しくなりそうだよ」


そう言ったパトリックの顔は言葉と裏腹に実に楽しげであった。

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