第47話 デューク、伝説の拳聖に会う

ロキによって開示されたダンジョンにおける『ダークアウト』の件は冒険者ギルドに衝撃を持って瞬く間に各支部に伝えられる事となった。反論も少なからず有ったようだが、情報元があの【終焉のザグス】との事で信憑性はかなり高いと冒険者ギルド上層部は判断した。

一方の『白猫』ギルドにおいてもパトリック他上層部が信憑性の高さを指摘し、各支部への通達が成された。また、誰が何の為に行ったのかも調査の必要有りとの事で冒険者ギルドと相談する事になった。

こうしてイレイザ失踪及び救出の件は後味が悪いながらも解決に至ったのである。


レイナとイレイザは共にフィールドテイマーとしての仕事に復帰、暫くはペアとして共に行動する事となった。


「やっと元の仕事に戻れるよ…ホッとしたわ」


「本当にお世話かけ…」


「もう、それは止めなさいって言ってるでしょ!」

とレイナは凄い目でイレイザを睨む。真面目な性格のイレイザに負い目を負わせない様にのレイナの配慮なのだろう。


「暫くは二人で動くのですよね?楽しくなりますね!」


「イレイザの小言が無きゃ良いのだけどねぇ…」


「レイナさんがちゃんとしてくれれば何も言いませんが…」

と何か二人でバチバチやってる。デュークは若干引き気味である。


『みんないなくなるのさびしいの…』

メタはガオと仲良くなったユニと別れるのが寂しそうである。


「メタ、また戻るからね。良い子にしててね」


『まってるの』


「仕事に復帰出来るのかぁ…羨ましいなぁ…」


「デュークはもう少し休みなさい。総長の少しゆっくりさせようって親心なんだからね」


「うぅぅ…」


「デューク君は仕事の虫なのですね。どこかの師匠と大違いですねっ」


「イーレーイーザーーーー」


「なーにーかー??」


『なんかとってもこわいの…』


「ところでいつ頃の出発なんですか?」


「明後日には出るわよ。それで、今日の晩に食事でもしない?」


「はい!喜んで!」


「それで…デューク君…ロキ様を誘えないかな〜って…」


「ロキ様ですか?多分喜んで来ますよ。ギルドの仕事サボりたい一心で。後でギルド行ってきますよ」


「あ、ありがとね…」


「大丈夫ですよ!任しておいて下さい!」


レイナとイレイザが準備も兼ねて商店街に行くと屋敷を出た後で、デュークは冒険者ギルドへ行く事にした。メタとザグスは特訓中である。

冒険者ギルドに行くと何故かロキが入り口で仁王立ちしていた。


「デューク、遅いぞ」


「えっ!来るの知ってたんですか?」


「来るのはさっき感知スキルで分かったからな」


「そんなにサボりたかったんですか?…」


「そんな事は当たり前だろ」


「ロキ…何が当たり前だって??」

ロキの後ろに顔を真っ赤にした大男が立っている。


「そ、総長…」

その大男こそ冒険者ギルドの総長で『破壊の拳』と呼ばれたサガである。伝説の勇者のパーティー『神撃の刃』の中心メンバーで武闘家の上級の【拳聖】である。その破天荒な冒険談を本にした『魔王を殴った男』は劇にされるほど人気である。


「初めまして、『白猫』ローナイト支部のデュークです。大変お世話になっております」


「おお、君がデューク君か!噂は聞いてるぞ!どうだ?冒険者ギルドに入らんか??」


「えっ?イヤイヤ…」


「総長、オレが勧誘の為に話しようとわざわざ呼び出したんですから」


「ほぉ…オレはまたオマエがサボりたい一心で呼び出したのかと思ってよ…」


「アハハハ…そんな訳無いですよ…」

余計な事を言ってしまったので、更にやぶ蛇になった模様だ。


「サガ総長、今度我が師レイナが王都を離れるにつきまして、『この度は私の弟子が二人もロキ様に大変お世話になりました、御礼に食事でも』と師匠から言付けを受けました。お忙しい所大変恐縮なのですがロキ様をお借りしても宜しいでしょうか?」

デュークは精一杯丁寧に食事の件を堂々とサガに話してみせた。サガ総長は第一現場主義の人だろうからこう言うのが苦手と見たのだ。


「そ、そうか。そういう事なら無下には断れんな…ロキ、行って来い。但し、くれぐれも失礼の無い様にな」


「御意に…」


「やかましい!お前はやらんで良いんだゴルぁ!」


「では、用意など色々と有りますのでこの辺で…」


「いやいや、なに出て行こうとしてんだ?…オマエは招待された方だろ?何の用意が居るんだ?あぁ?まだ日も出てんだから仕事はやってけよ。わ、か、る、よ、な??」


「でぃ、デューク…は、早めに迎えにな。分かるよな?」


「…善処しますね…」

ロキはギルド職員に囲まれてそのまま連行されて行く。


「ところでデューク君…」


「あっ、デュークとお呼び下さい」


「そうか?じゃあ、デューク…ザグスの方はどうだ?」


「ザグス様はメタに付きっ切りで…最近は完全にお祖父ちゃんと孫みたいですね…」


「う〜ん、そうか…じゃあ早急に離れそうも無いな?」


「メタの覚えがイマイチなので…」


「まあ、その話だと暴れたりはしそうもないな」


「恐らくですが…ザグス様は魔竜や邪竜と言う類いでは無く、神竜あるいはその上の存在じゃ無いかと思っています」


「それはロキからも同じ様な話を聞いている。デュークも同じ様に感じるのか…しかしながら三厄竜と呼ばれておる以上は警戒はせんとな…」


「此方から何か仕掛けない限りは…あまり人間に興味は無さそうですしね…」


「なるほど…まあ、この件は限られた者しか知らんし、襲うような輩は居ない筈だ。それに隠密理に護衛も付けてるからな」


「恐らく護衛の件は分かってると思います…迷宮から【ディスティニー】を見てたくらいですからね…」


「うむ…まあ、それでも護衛は付けないと。万が一って事もあるからな」

「そうですね…ところでサガ総長、その…お聞きしたい事が有りますが宜しいでしょうか?」


「聞きたい事??俺にか?何だ?」


「あの…魔王を殴り飛ばしたってホントなんですか?」

サガはポカーンとした後で苦笑いしながら自分の執務室にデュークを案内した。ゆっくり話そうと言う事なのだろう。

それは劇にもなった伝説の男に会ったのだから誰でも聞くに決まっている。デュークも当然にミーハーなのであった。

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