第41話 デューク、古の竜と対峙する(後編)

イレイザとユニはロキを先頭にレイナとシリウスに連れられて迷宮の外に出る事になったのだが、ザグスとメタが相変わらず迷宮内で修行中の為にデュークは残る事になった。


「デューク…大丈夫なの?」


「せっかくメタが頑張ってますから。それに師匠が厳しそうですから…」


「後で迎えに来るから大丈夫だ。さあ行くぞ!」


「デューク、後でね」


「はい!後でまた会いましょう!」


ロキはスピードの魔法を皆に掛けてそのまま皆を連れて出口に向かった。


『ほれ、どうした?大きくなっておらんぞ』


『ううう…なかなかむずかしいの…』


「メタ!頑張れ〜!!」


『お前の主も応援しておるぞ。早う大きくならんか』


『メタがんばるの』

メタは一生懸命にスキルを操ろうとするがなかなか上手く行かない。眷族によるスキル移譲は本来なら覚えられないスキルを扱える様になる為、その使い方の熟達にはかなり苦労するのが一般的である。利き腕で無い方で箸を扱うのと同じと考えると分かりやすいだろう。




一時間もしない内にロキだけが戻って来た。レイナはデュークを待つと言った様だが、シリウス達『花鳥風月』の調査隊は早く王都に戻り報告するのを優先した。その為にロキにデュークを頼み他のメンバーは王都に向かい出発してしまったのである。


「レイナは最後まで渋っていたがな」


「そうですか…でも仕方無いですよ。顔も見れたし元気そうで良かったです」


『レイナさんもガオもいっちゃったの…』


『また、よそ見しおって!しっかりやらんか!』


『ううう…ザグスじいきびしいの…』


「メタも形無しだな!アハハハ!」


『ロキもつめたいの…』


「冷たいとか言うな!また叱られるぞ!アハハハ」


「レイナさんとガオにはまた会えるよ。だから頑張れ」


『うん、がんばるの』


『ところでそっちの大きいの…お前はリピトに会った事があるな?』


「!!…何故分かった?」


『フフフ…ヤツの匂いがしたからのう』


「匂い?…オレは小便掛けられて無いぜ?」


『戯け、そういう事ではないわ。左手の甲を見るが良い…』

そう言うとザグスの眼が光りロキの手の甲に赤い印が浮かんで来た。


「こ、これは…」


『リピトはお前が気に入った様だのう。アレに喧嘩でも売ったか?生きて此処にいるという事は手加減はされてるのう』


「…まあ、そんな気はしていたがな…」


『その魔法は何百年か前に使う奴が居てな、しつこく我を狙って来てのう…結局は消し炭にしてやったが…懐かしいのう』


「オレはしつこく狙わねえよ。もう懲り懲りだ」


『フハハハ!それが長生きの秘訣じゃ』


『わらってないでおしえるの』


『う〜む…メタは下手だからのう…』


『あるじ〜ザグスじいがいじめるの』


「メタ…反復有るのみだよ。頑張って!」


『ううう…あるじもおになの…』


『このままでは埒が明かんのう…仕方無い、我も着いて行くとしよう』


『わーい、ザグスじいもくるの!』


「いやいや、その姿では…」


『安心せい。こうすれば…』

ザグスはそう言うと光りに包まれて更に小さくなりその後さっと変化した。


「こんなものでどうじゃ??」

其処には黒いローブを着て竜の形の杖を持った銀髪で長い顎髭の老人が立っていたのである。


『ザグスじいがじいさんになったの…』


「おいおい…何でも有りかよ…」


「これなら外でも大丈夫ですね!流石はエンシェントドラゴンだなあ」


「ホッホッホ。煽てても何も出ぬぞ」


こうして【終焉のザグス】はメタの教育係としてデューク達に暫く付いて来る事になった。迷宮を出る時は魔獣が出て来なかった。ロキが倒して来たのが原因かと思っていたが、どうやらザグスを恐れてなのか迷宮自体がザグス排除に魔獣を出さなかった事が原因の様だ。


入り口の守衛達はロキが出て来た事で緊張していた。


「お、お怪我は御座いませんか?」


「ああ、この程度なら怪我をする訳がない」


「し、失礼しました…ところでそちらの御老人は??」


「ん?ああ、オレの従者だ。気にするな」


「し、しかし…確かお一人だったかと…」


「気にするなと言ったが…何か問題でも?」


「は、はい!!ど、とうぞ」

守衛達はロキの脅しに屈してザグスを通してしまった。


「恐いヤツだのう…催眠術で簡単に通れたのにのう…」


「あ、その手があったか。アハハハ!」


『ロキはおどすのとくいなの』


「メタ、こういう大人にはなっちゃ駄目だよ」

デュークは小声で注意した。またメタが変な事を覚えないかと心配していたのである。



「ホッホッホ。便利な魔法じゃのう」

迷宮を出た後、デューク達とザグスは馬車に乗っていた。ロキの魔法で速くなっているヤツだ。最初は馬が恐がって大変だったがザグスが催眠術を掛けて馬を大人しくさせたのである。


暫く走るとレイナ達に追いついた。ロキは魔法を解いて皆に歩調を合わせた。


「デューク!!大丈夫だった?」


「レイナさん!ご心配お掛けしました。大丈夫です」


『メタもへいきなの』


「ところで…そちらの方は??」

レイナはザグスを見ながらデュークに聞いた。ガオとユニがかなり警戒していたのだ。シリウス達も怪訝そうに見ている。するとロキが澄ました顔でこう答えた。


「ザグスだよ。メタの教育係で着いて行くんだとさ」


「「「エエエエエ!!!」」」

皆一斉に驚くと同時に固まっている。


「仕方無いだろ。付いて行くって言うんだからな。それとも誰か力づくで止めさせんのか?」


「そ、それは無理でしょう…」


「じゃあ決まり。但し余計な心配掛けないようにこの事は内密に。良いな?」

全員仕方無く頷く。ここで揉めても何もならないし出来ないからだ。


「ところでロキ様、早く王都に行かないで大丈夫なのですか?」


「ああ、ゆっくりで良いさ。そんなに早く行く必要は無いからな」


「遅くなればギルドの仕事をやらなくて済みますからね!」


「まあな、良く分かってんな。流石はデュークだ」


「それよりも…ホントに大丈夫なの?」

レイナはザグスを見ながらデュークに言った。


「メタの教育係ですからね。多分大丈夫ですよ!」


「何か胃が痛くなってきたわ…」


レイナの心配を余所に馬車はのんびりと王都に向かい走って行ったのであった。 

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