第31話 デューク、史上最大のピンチ(後編)

「デュークの時を止めた。取り敢えずはコレで容体悪化はしないだろう。後は解呪魔導師を待つだけだが…この魔法はべらぼうに魔力を喰うからマナポーションを沢山用意してくれよ」


「了解した。そっちは任せて」

アレスはライアンに指示してマナポーションを用意させる。


「しかし良いタイミングで此処に来たね」

ペインがロキに言うと、ロキは頭を掻きながら…


「実は…3日前に迷宮で狩りをしてたら、メタから『念話』が有ったのさ」




3日前…


「ショボいドロップしかしねぇな…」

ロキは嘆いていた。折角の迷宮だがレアが出ない…

「河岸を変えるかなあ…」

と独り言を言いながら歩いていると…


(ロキ…たすけてなの…)


!?ロキはいきなり声を掛けられ驚いていた。


(あるじのけががなおらないの…)


「…メタか??どうして??」


(ドラゴンのおばけにやられたの…)


ロキはデュークが【ディスティニー】の調査に入る事を知っている。其処で何かが有ったと推察する。


「お化け…ドラゴンゾンビか??」


(はやくたすけてなの…)


「…ドラゴンゾンビ…傷口…『太古の呪い』か!!」

ドラゴンゾンビの攻撃には毒と麻痺と付帯魔法『太古の呪い』が付くので厄介な相手で有る。デュークに状態異常無効化のスキルがある事を知っていたロキは呪いによってデュークの傷口が治らないと判断したのである。


(ペインさんのとこいくの…)


「直ぐ行く…」

ロキは自らに「スピード」の魔法を掛けて迷宮の出口に向かったのである。




「メタの『念話』って…そんなに距離を飛ばせるものなのかね?」

ペインも聞いた事のない事象だった。本来は近くに居る時に『念話』が遣えるというエリアが存在すると考えられていたからだ。


「まあ、基本的には念を遠くに飛ばせれば…って事になりますね。メタはそれをやったのでしょうね…デュークの為に」

アレスはメタを探したが見当たらない。


「あれ?メタは?」


「少し前はアタシの部屋に居たよ」




(あるじはけがしたの…メタのせいなの…)


メタは自分を責めていた。

攻撃の好きなメタはデュークを守るという事を疎かにしてしまった。速さに自信が有ったし、防御力にも自信が有った。だから守れると思い込んでいた。その過信の結果がデュークの瀕死の重傷である。


(もうぜったいあるじにケガさせないの…)


(『ぜったいなの…』)


メタの強い想いは再びメタの進化を呼び覚ます。メタは進化の為に動きを停止する。ケガをさせない為にはもっともっと硬くならなければ…もっともっと速く動けなきゃ…その一念で蛹の様に外皮を固めていく。静かにメタの進化は始まっていた。




所用で出掛けていたゼノが一報を聞いて『白猫』に来た時には既にロキが魔法を掛け続けている最中であった。


「ロ、ロキ…何でここに…」


「いや、オレのちっちゃい友達が助けてって頼んで来たからさ…友達の頼みは断らない方でな…」


「メタが『念話』を飛ばしたらしいよ」

アレスは説明を入れた。


「ゼノ、本当に済まない。今回の件は『白猫』の不始末だ。迷惑を掛けて申し訳無い」

アレスはゼノに詫びた。


《『白猫』は冒険者が全滅しても荷物を届ける為に生き残らなければならない》


此れがギルドの絶対方針である。『白猫』が守るのは自分の生命と預かった荷物で、それを届ける事に全力を尽くす事が重要なのだ。今回のデュークの行いは『白猫』として絶対にやってはいけない行為であった。『白猫』は荷物を届ける事だけに集中すべきで冒険者の様に動いてはならない。それを反射的にやってしまったデュークの行為は『白猫』の重大な規定義務違反で懲戒モノの失敗である。


「デュークを過信させたのは我々の責任…本当に申し訳無い…」


「いや、こちらにも非は有るよ…能力の高さに頼ってた事は否定出来んしな」


「お二人さん、取り敢えずその話はデュークが助かってからで頼む」

とロキはアレスとゼノに言った。





2日後、解呪魔導師が到着しないまま魔法を掛け続けるロキが居る部屋にペインがやって来た。


「メタが固まっちまったよ…これも呪いの影響なのかね?」


「いや、そんな影響は出ない筈だが…」


するとメタの身体にヒビが入っていく。驚く二人の目の前でメタの外皮が飛散する…


「こ、これって…まさか…」

驚くペインにメタの声が聞こえてくる。


『メタがあるじをなおすの』


「おいおい…その姿は…はぐれメタルじゃ…」


メタはもっと硬くもっと速い、はぐれメタル系に進化したのだ。


《ユニークスキル 呪詛無効化》を獲得しました。

《エクストラスキル 高分子ゲル化》から進化し《ユニークスキル 液状金属》を獲得しました。

《エクストラスキル 瞬歩》から進化し《エクストラスキル 神速》を獲得しました。

《エクストラスキル 嘆きの壁》を獲得しました。


『あるじののろいきえたの』


「はあ?マジか??」

ロキがデュークの傷口を調べると被っていた呪詛の魔力が消えている。魔法を解除して時を戻すと出血が止まり、更に傷口が塞がって来た。しばらくするとデュークの意識が戻る。


「ペインさん…ロキさん…どうして??」


「メタが呼んだのさ」


『あるじもどったの。メタうれしいの』


「メタ…何で溶けてるの?」


ロキは吹き出した。デュークははぐれメタルを知らなかったのである。その直後にドアが開きガイルが飛んできた。


「やっと解呪魔導師が到着した…はぁ??」


デュークが目を覚ましてるのを見てガイルは驚いていた。




「ん。間違い無く『太古の呪い』は消えておるのう」

解呪魔導師の御老体はデュークの傷口を丁寧に調べてこう言った。


「しかし、解呪には二日は掛かる筈なのにのう」


本来であれば呪いを「解除」するので時間か掛かる訳だが、メタの能力は「無効化」なのでそもそも呪いが掛かってない状態になるので時間が掛からないのだ。


『メタのほうがすごいの』


「コラ!メタ!謝りなさい!」


「フォフォフォ、そうじゃのう」


やはりメタは得意気であった。




「さて…今回の処分であるが…」

アレスは今度の事は重大な事案としての処分を考えていた。そうする事がデュークの為だと。しかしながら他の皆から度々釘を指される事となる。


「今日より百日の間は業務停止とします。良いね?デューク」


「はい‥分かりました…」


『あるじーぎょうむていしってなあに?』


「お仕事しちゃ駄目って事だよ」


『あるじおしごとないの?』


「そうだよ。お休みだよ」


『わーい、あるじとあそべるの』


「メタ…喜ぶとこと違う…」


「で、業務停止中なんだが、デュークには王都に行って貰いたい」


「お、王都?ですか?」


「総長パトリックがデュークとメタに会いたいらしいのさ…全く…こんな時に…」

アレスが珍しくぶつぶつ呟いている。


「総長が…分かりました…」


「ついでに例の工場で生産したエリクポーションとエリポーションも千ケースほど持って行ってくれ」


「あ、もう生産始まってるんでしたね」


「もう注文が物凄い事になってるからな。パトリックも心待ちにしてる」

ギルドの運営資金に強力な目玉商品が出来たのだ。販売網は整ってる訳だから莫大な利益が構築出来る。


「馬車の手配はしている。くれくれも寄り道はしない様にな」


「それギルマスが言いますかね…」

いつの間にか入って来たライアンが凄い目でアレスを睨み付けている。


「や、やぁ、ライアン…ね、念の為だよ…」


「デュークは真面目ですから大丈夫かと。何処かのギルマスは倍の時間も掛けて王都に行ったらしいからね。何処に寄り道したのやら…」

とライアンの顔が怖すぎる…噴き出してる負のオーラが半端ない。


「と、とにかく頼んだよ…アハハハ」


こうしてデュークとメタは王都に出向く事となった。旅をするのはレイナとの修行の旅以来の事である。

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