第30話 デューク、史上最大のピンチ(中編)

休憩が終わり、下の階層に向かうが、その前に【深淵の魔眼】で下調べが終わっている為、後はトレースしながら魔獣を倒してゆくだけで有る。魔獣も何が出るか分かって居るのでその魔獣に合わせたアタックを仕掛けるだけの簡単なお仕事である。但し、フロアボスだけは不明なので開けてからのお楽しみとなる。


ドラゴンが主体の階層の割にはフロアボスはドラゴン種では無いという階が続いていたのだが、89階のフロアボスはヒュドラーが出て来た。ヒュドラーは首を切られても再生し、強烈な毒を持っている厄介な相手でココではかなり苦戦を強いられた。

しかしココで活躍したのがデュークとメタで有る。デュークとメタは状態異常無効化のスキル持ちの為に自由に動き回り囮の役目を果たす事にした。交互にヘイトを巧みに入れ替えながらヒュドラーの毒を『黄昏』のメンバーに直撃させない様にしたのである。

『黄昏』のメンバーは一気に首を跳ねながら火魔法で傷口を焼いて再生を止める方法でヒュドラーの攻略に成功した。


「状態異常無効化は羨ましいスキルだよ。毒耐性までは何とかなるけど無効化は手に入れるのは難しいからな」

ジーザーはブロッカーとして数々の耐性は身につけていたが、無効化は持ち合わせてなかったのである。


「メタの金属の身体がスキルに関わってると思われますね」


『どくはきかないの』

メタは自慢気である。


「この調子でサクっと調査を終わらせたいわね。って言っても簡単じゃないと思うけどさ」

ミレーヌは希望的観測を口にしていた。


「正直、ココからがヤバそうな感じしかしないがな…」

ヤマトが不吉な事を言った。事実この先に待ち受ける想定外の相手によってパーティーは危機的状況に陥る事となる。



90階のフロアボスの部屋からは尋常で無い瘴気が発せられていた。グレードマンは一旦皆を休ませて慎重に準備をしてから扉を開ける。


「おいおい…嘘だろ…」

ナガトは其処に居る魔獣を見て思わず口にしていた。


其処にはドラゴンゾンビが瘴気を漂わせながら居たのだ。しかも大きさからドラゴンロードのゾンビ化したものと推察される。


「とにかく攻撃しかねぇぞ!」

グレードマンは皆に鼓舞する様に叫ぶ。


いち早く反応したのはドラゴンスレイヤーの二人である。それに合わせてミレーヌ率いる魔術師が極大の魔法攻撃を行う。がドラゴンゾンビにはあまり効果が無い様子である。それならばとラフレシアの回復魔法を撃つとドラゴンゾンビが嫌がる素振りを見せた。そこを勝機と見て更に攻撃を加えようとした瞬間、ドラゴンゾンビが反撃に転じラフレシアにドラゴンゾンビの爪が迫った。その刹那反射的にデュークは防御態勢でラフレシアの前に出てしまった。デュークは知らなかったのだ。ドラゴンゾンビの一撃の重さを…


ミスリルの盾が貫かれドラゴンゾンビの爪がデュークの胸に食い込む。メタは反射的にデュークを庇いドラゴンゾンビの手に体当たりをしたが庇い切れなかった。普通のミスリルの盾ならそのまま引き裂かれて即死だったに違いない。しかしながらゴードン作の盾は貫通は許したものの引き裂かれる事は無かったのでデュークは即死を免れたのだ。


デュークは衝撃と激痛により意識が飛んでいた。メタは何度も声を掛けたがデュークは反応しない。ラフレシアは直ぐに回復魔法を掛けたが傷口が塞がらない…その傷には毒は元より『太古の呪い』が掛けられていたのだ。毒は効かないデュークであったが、呪いに関しては耐性を持ってはいなかった。


「デューク!!クソッ…」


ラフレシアは極大の神聖魔法をドラゴンゾンビ叩き付ける。ドラゴンゾンビの瘴気と負の魔法力が落ちる。その時に一気に攻撃陣のアタックが加速、その間回復魔法師がデュークに回復魔法を掛け続ける。最後はヤマトがドラゴンゾンビの首を叩き斬り、コスモスが拳で頭をかち割るとドラゴンゾンビの身体にミレーヌ達渾身の極大炎魔法が放たれてドラゴンゾンビは倒された。


「傷が修復しない…何なのこれ??」


「呪いが掛かってる!解呪しないと傷口が塞がらない」


「とにかく上に運ぶぞ!エリクポーションはある分掛けまくれ!」


上に向かう魔法陣に乗り、直ぐに地上に出て来た。


「どうされました?こ、これは!!」

外に待っていた警備の主任がデュークを見て驚くように言った。


「直ぐにローナイトに運びたい。馬車の用意を!!」


グレードマンとラフレシア達回復魔法師が馬車に乗り込みローナイトに向かう。どんなに急いでも3日は掛かる。その間持ちうる回復薬とラフレシアと回復魔法師たちが交代で回復魔法を掛け続ける。しかし中々出血が止まらずデュークの容体は日に日に悪化していった。


ローナイトの『白猫』に運び込まれた時はかなり深刻な状態になっていた。


「マズいな…解呪の魔導師は本部にしか居ない…」

アレスは何かを考えている…が首を振った。


「とにかく大至急に呼び出せ!」

ガイルが怒鳴っている。魔法陣で特級の救難信号を送っていたペインが「もう、やってるよ!」とガイルに言う。


「解呪用の札を持って来ましたが効くかどうか…」

ライアンがデュークに札を掲げるが確かな効き目では無い。


そこに居た皆が最悪のシナリオを覚悟したその時、突然扉が開いてデュークに魔法が掛けられた。デュークは固まった様に動かない。


「アンタ…どうして…」

ペインが驚愕の眼差しで見ていたその男は静かにこう言った。


「何とか間に合った様だな…」


皆が驚くように見たその先には『時の覇王』時空魔術師のロキが居たのである。

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