第29話 デューク、史上最大のピンチ(前編)

ローナイトの冒険者ギルドによる【ディスティニー】の下層調査が再開される事になった。『黄昏旅団』フルメンバーが集まった為である。

尚、下層の80階までは『時の覇王』ロキとデュークのコンビで調査済みである。ロキが時空間の亀裂を修復した後で、そのまま80階を制覇する迄にデュークはロキの後を追い掛けながらマッピングをしっかりやっていたのだ。それでロキは「ちゃんと見てたよ」とデュークに言っていたのは其処の事である。


「まさかの『時の覇王』御出陣とはな」

グレードマンは笑いながらゼノに話し掛ける。


「全く…奴にも困ったものだ…最初は何か理由が有る筈と散々問い正したのだが…タダの気まぐれだのと…ついでに80階まで見て置いたからと涼しい顔で言いおって!全く!」

ゼノはまだ怒ってたが、ロキが時空間の亀裂を修復した事を知らないので怒るのも当然である。


(ううう…ロキ様、可哀想に…)

自分で悪人を演じてゼノの立場を守った事を知っているデュークはそう思わざる負えなかった。


「デュークには本当に迷惑かけたな」


「い、いえいえ、とんでも無いです」


「ロキ様はどうだった?凄かったろ?」


「凄いなんてものじゃ…あのタイラントを一瞬で真っ二つとか…」


「はぁ?マジか…やっぱり桁が違うな…」

グレードマンが呆れた様に言った。


その後、メンバーの紹介があり、今回の総勢14名が『黄昏旅団』のフルメンバーである。4名がハイスティールでジーザー、メノス、ミレーヌを含めた攻撃隊7名、ラフレシアが率いる回復隊3名で有る。デュークはラフレシアの方に入り付いて行く事になった。


先ずは他のメンバーの周回がまだの為に1階から70階まで一気に降りる必要がある。しかし、今回は攻撃陣フルメンバーなので恐ろしい程に強い。フロアボスもどんどんと倒してゆく。ハイウォーリアーのコスモスとソードマスターのヤマトはゴリゴリのファイターでドラゴンスレイヤーでもある。コスモスは両拳に装着した『ドラゴンナックル』で魔獣を殴り倒しその拳圧は鉱石も砕くという【拳王】であり、ヤマトは『常世の龍刀』という黒い刀身の根元にある赤い眼の様な魔石から赤い血管の様な紋様の有る長魔刀で魔獣を斬り倒してゆく。また、ミレーヌ率いる魔法使いの三人の尋常で無い火力は魔獣が可哀想に見える程の凄まじさである。


あっという間に上層を抜けて中層まで潜ったのだが『黄昏旅団』の進撃は止まらない。一気に60階まで制圧して行く。そしてそこで少しの休憩を取ったのである。


「どうだ?デューク、ロキの旦那の時より早いか?」

ナガトがニヤニヤしながらデュークに聞いてきた。


「いやぁ…この時間には下層で…あ、下層のフロアボスに…」

デュークは危なく時空間の修復を口走りそうになり慌ててフロアボスの話に切り替える。


「はあ??マジかよ!もう笑うしかねえな…」

ナガトだけで無く他のメンバーもお手上げの様子だ。


「オイオイ…あの『時の覇王』と比べる事自体がどうかしてるぞ。人数とかそんな話じゃないぜ、あの人の強さはよ…」

グレードマンは嘆く様に言った。



その後、70階まで少し時間は掛かったが何とか降りてきた。いよいよタイラントの部屋にやって来た。グレードマンは皆に声を掛けて直ぐに部屋の扉を開ける…タイラントは待ってましたとブレスを吹き掛けてくるがガッチリジーザーが受け止める。その後は待ってましたとばかりに攻撃陣が一気に畳み掛ける。今回は流石にメタも出番無し、そのままタイラントが崩れ落ちた。


「やっぱり火力が有ると違うなぁ」

ナガトがしみじみ言った。


「当たり前だ。誰が来てると思ってんだ」

コスモスは笑いながらナガトに言う。


「コレも一瞬で殺ったんだよな?ロキの旦那は」

グレードマンはデュークに聞く。


「はい、早過ぎて攻撃したのが見えませんでしたから…」


『黄昏』のメンバーも唖然としている…

コレだけの人数の火力で押し切ったタイラントを、たった一人でしかも目にも止まらぬ一撃で倒すという途轍もない話なので仕方の無いところで有る。


「さあ、この下からが下層だ。本番は此処からって事だからな」

グレードマンは静かにメンバーに声を掛けた。


下層はドラゴン祭りである。あっちもドラゴンこっちもドラゴンで、倒しても倒してもドラゴンで有る。しかしながら今回はドラゴンスレイヤーの二人、コスモスとヤマトが居る為に容易に進む事が出来る。

フロアボスはドラゴン種では無い魔獣である。しかしながら火力が圧倒的に強い為さほど苦戦はしない。回復隊のラフレシア達がまだまだ余裕が有るほどである。

デュークは倒れた魔獣やドロップアイテム等をメタと一緒に素早く集めていた。そして72階より下は案内係で効率良くフロアボスの部屋まで案内してゆく。そして80階のフロアボスの場所までやって来た。

80階のフロアボスは大きいケルベロスである。しかも頭によって魔法の種類が変わるのである。尻尾の蛇は強力な再生魔法を掛けて来るので中々タフな戦いとなる。

グレードマン達ハイスティール隊が蛇を潰しに攻撃を仕掛けて削って行く。その間ミレーヌ達の魔法で頭の部分を攻撃、ジーザーとメノスはガッチリとブロックしながらヘイトをかける。蛇を倒した瞬間に弾けるようにコスモスとヤマトが頭に飛び込んて攻撃!遂にケルベロスが倒れた。


「今日はここまでだ!ゆっくり休んで、次は未知の領域だぞ」

グレードマンがそう言って一息付くことになった。グレードマンとデュークは次の階の様子をメタの《ユニークスキル 深淵の魔眼》で探らせて作戦を練るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る