第28話 デューク、最強の男と仕事をする(後編)

デュークは呆然としていた。


(これが『時の覇王』ロキの力…)


上層の魔獣達は彼を認識する間もなく切り裂かれていた。フロアボスも一撃で真っ二つにされていく…彼が使っているのは『次元斬り』の魔法攻撃のみだ。次元ごと斬り裂く為に受けての防御は不可能、更に彼は自身に時間を速める時間魔法『スピード』をかけている為に避ける事も出来ないのだ。

中層に来てからもそれは変わらない…『黄昏旅団』のメンバー達とあれ程苦労した道程をまるで散歩でもする様に次々と魔獣を倒していく。魔獣感知能力や空間探知、魔法探知と殆どデュークの出る幕が無い程に的確に把握していた。


(ボクは要らなかったんじゃ…イヤイヤ、何か役に立てる筈…)


ロキはフロアボス以外は持ち帰らないと言う事で、フロアボス以外の魔獣はドロップアイテムも好きにして構わないと言われていた。

その為、魔獣は入れずにドロップアイテムのみを拾い集めていた。


そして遂に70階フロアボスの部屋に来た。相手は勿論タイラントドラゴンである。


「ほう…本当にタイラントなのだな」


と言った瞬間タイラントが真っ二つになっていた…攻撃が全く見えなかったのだ。

何が起こったのか理解不能だったが、ロキに声を掛けられて急ぎタイラントを【キューブ】に格納する。


「デュークはこの下の階には行ってないのだな?」


「はい、探知しただけで…」


「ん?探知?下の階をか?」


「は、はい…メタのスキルで…」


「ほう…メタは階を跨いで探知出来るのか?」


『メタはたんちとくいなの』


「これは面白い。ならこの下の階でやって貰おう」


ロキはそう言って更に下に潜る。【ディスティニー】の下層は見た事の無い不思議な空間である。まるで古代遺跡の中に入った様な感じだ。


「確かに迷宮だな…南の迷宮群と近い感じだ…デュークは迷宮はまだ未経験だろう?」


「はい、まだ入った事は無いです。この様な感じなのですか?」


「魔力の具合なども似てる…魔獣もな」


ロキは近付いて来たダークドラゴンを斬り裂きながら言った。


「下層の魔獣は取って置いてくれ。少しは良い稼ぎになりそうだ」


そう言いながらバンバン斬り付けていく。デュークは魔獣を取り込みながらもロキの一挙手一投足に目を光らせていた…通常、これ程のレベル差が有ると諦めてしまいがちだが、見る事も修行の一つとレイナに叩き込まれているデュークにとっては、ロキとの仕事は宝の山だと言って良い。自分にほんの少しでも

使える事が有ればどんどん吸収するつもりだ。

フロアボスも格上になっており、迷宮と同じレベルである。

71階のフロアボスであったケルベロスは迷宮では常連の魔獣の様である。デュークは初めて見たのでその覇気に驚いていたが、ロキは3つの首を素早く斬り落として戦いを終わらせた。


「コイツはまだ小さいから余裕だな」


「コレで小さいんですか?…」


「ああ、デカいのは倍はある。厄介なのはコイツのデカいので眼の色がそれぞれ違う奴だな。そいつはヤバい…中々強いぞ」


「迷宮の魔獣はやはり別格なのですね…」


「さて、下の階を探知してもらおうかな」


「メタ、こっちへ…」


メタに触りながら見えた状況を伝える…とフロアボスの部屋の手前に異常な魔気が噴き出している。


「ほう、そこが本命かもな。急ぐぞ」


ロキとデュークは下の魔獣を倒しながら一気にその場所に向かう。すると其処には黒い亀裂の様なものが出現していた。コレが時空間の亀裂である。


「間違い無い。コレだな…しかし魔気の量が尋常じゃ無いな…」


「大丈夫なんでしょうか?…」


「何とかやってみる…離れて…」


デュークが離れるとロキは胸のネックレスを引き千切る。するとロキから爆発した様な魔力が放出された。あのネックレスはロキの魔力を封印していた様だ。ロキはそのまま呪文を詠唱し創り出した黒い魔力の玉を亀裂に向かって撃ち込んだ。

亀裂は形を色々変化させながら小さくなってゆく。そしてそのまま消えてしまったのである。


「ふう…何とか間に合ったな。コレで大丈夫だ」


とロキが言うとダンジョンの中が少し明るくなった。デュークが感じていた嫌な感じも消失したようだ。


「どうやら一箇所だけだった様だな。今のでダンジョンの崩壊も無くなって安定したのだろう」


「じゃあこれで終了ですね!」


「そうだな…取り敢えず少し遊んで行くかな」


「は?」


「行くぞ〜」


その後、ロキは80階まで潜り続けてフロアボスを倒してから地上に戻った。調査団が入るのでそれ以上はゼノが怒るからと打ち止めにしたのである。デュークは更にロキの凄い戦いを見る事が出来たのであった。



ロキとデュークは冒険者ギルドに向かう。倒した魔獣の引き取りをさせる為だ。ロキはゼノの部屋に向かい一人で中に入った。残ったデュークは倉庫で質問攻めにあっていた。


「どうだった?『時の覇王』は??」


「魔法とかどうなんだ??」


「強かったか?やっぱ半端ねえか?」


矢継ぎ早に質問されたがデュークが【キューブ】の中身を出すと皆は唖然として黙り込んだ。


「まあ…こんな感じです。言葉もありませんね…」


倉庫に居た沢山のギャラリー達はその魔獣を見ながら息を呑んだ。


小一時間待ってゼノの部屋からロキが出て来た。そして倉庫の魔獣の報酬は後で王都の冒険者ギルドに送ってくれと言い残してギルドを出る。


「ゼノさんどうでした?」


「エラい怒ってたがな、まあ今回だけで済みそうだ」

と苦笑しながら言った。


「くれぐれもあの件は内緒な」


と釘を差すのも忘れなかった。


そのまま『白猫』に戻ったロキはアレスとガイル、ペインの三人とギルマスの部屋で話をした。


「今回は色々助かった。礼を言わせてくれ」


「イヤイヤ、本当に良かったです。無事に時空間の亀裂も修復出来て…」


「結局ゼノには言わなかったんだろう?」


「もちろん。かなり怒られたが…まあ成功だな」


「ロキ殿…ゼノの旦那に代わって礼を言います…有難う御座いました」


ガイルが言うとロキは手を振って笑っていた。


「まぁ、調子に乗って80階まで潜ったのはオレの不徳の致す所って奴かな。『黄昏』の連中には悪い事しちまったぜ」


「まぁアンタらしいよ…それでこれからどうすんだい?」


「もちろん戻って迷宮に籠もるさ。面白いものも見れたしな」


ロキはデュークとメタを見てそう言った。


「ボクは…何にもしてませんけど…」


「アハハ、まあ良いよ。またこの近くにでも来たら次もデュークを指名しよう」


「えっ、ボクで良いのですか?」


「もちろんさ!良い仕事ぶりだった。一応キチンと見てたんだよ」

ロキは笑いながらそう言った。


『メタもロキとおしごとしたいの』


「もちろん、メタも一緒にな!」


ロキの言葉にぴょんぴょん跳ねながら喜ぶメタであった。

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