第27話 デューク、最強の男と仕事をする(前編)

その依頼は少し変わった依頼だった。

『白猫』のギルマスのアレス直々に説明が有った。


「総長パトリックから直の依頼ってのも珍しいのだけどね」

とアレスは続ける。

「ローナイトの街にSSS級の冒険者がやって来る。その人の荷物持ちなのだけどね」


「SSS級!!初めてですよ!」


「まあ、ローナイトの街にSSS級の冒険者来る自体が十年振りかな…実はデュークにこの仕事を振るのは例の【ディスティニー】絡みだからさ」


「でも【ディスティニー】の調査はまだまだ先ですよね?」


「ああ、そっちはまだなの。コレは…大きな声じゃ言えないが、そのSSS級が単なる興味で来るだけなのさ。だからゼノは知らないって体で渋々許可を出してる」


「えっ、そう言うのアリなんですか?」


「本来なら絶対駄目だって。でも今回来る人は特別な冒険者でね…デュークは聞いた事有るかい?『時の覇王』の事を…」


「噂で少しだけ…詳しくは知りません」


「うむ…名前はロキ…『時の覇王』こと時空魔術師のロキだ。時空魔術師は世界広しと云えどロキ以外は一人も居ない…唯一無二の存在だ。その力は凄まじく《史上最強》とか《規格外》や《人外》だのと…まあ、話題には事欠かない人物だよ」


「そんな凄い人が…どうして【ディスティニー】に…」


「さあね…まあ何かしら理由は有るのだろうが…とにかく案内も兼ねて頼みたいらしい」


「まさか…一人じゃ無いですよね?」


「う~ん…そのまさか。彼はソロの冒険者だからね。と言うか彼と組める冒険者は存在しないからねぇ」


「大丈夫なんですかね…」


「あっ、その心配は無用だ。ガチの迷宮攻略組全員で立ち向かっても彼にはかすり傷ひとつ負わす事さえ出来ないよ。昔、彼を怒らせた辺境蛮族の城塞都市が1時間で落とされて全員の首を蛮族の王に送りつけたり、ドラゴンの巣で30匹以上のタイラントを半日で狩ったりとまあ数多くの伝説ホルダーだからねぇ」


「タイラント…アレを一人で30匹って…」


「まあ、デュークなら大丈夫だと思うけど…彼を絶対に怒らせないでね。確実に死ぬから」

とアレスはにこやかな顔で言うのだった。



数日後、ローナイトに『時の覇王』ロキがやって来た。冒険者ギルドには寄らずに『白猫』ギルドにやって来た。ゼノが関知していないと言う体になっている為である。


「ようこそロキ殿。私が『白猫』ローナイト支部ギルマスのアレスです」


「ロキだ。まあ堅苦しいのは無しで…今回は色々済まない。キミの事はパトリックから良く聞いてるよ。煮ても焼いても食えないってな」


「いやいや…パトリックにはやられっ放しですよ。向こうは海千山千ですからね」


「フフフ…まあ良いさ。さて、此方に来た目的を話さなければな…念の為に聞くが【ディスティニー】の階層が増えたのは間違いないのだな?」


「ええ、それは間違い有りません。『黄昏旅団』のメンバーとこちらのデュークが70階まで確認しています」


「君がデュークか?メタスラをテイムしたとパトリックからは聞いている」


「デュークです。よろしくお願いします。【ディスティニー】の階層は間違いなく増えていました」


『あるじはうそつかないの』


とイキナリメタが飛び出して来た。


「ほう!本当に喋るのだな。魔獣で喋るのはエンシェントドラゴンとデーモンロードは見た事があるが…珍しいな。この色は…ミスリル?」


「はい、この間進化しまして…」


『メタはミスリルなの。ロキはまほうつかいなの?』


「ん?何で分かったんだ?魔力の探知能力が有るのか?」


『ロキのまりょくのいろはね、ペインさんとおなじいろなの。ふたりはきょうだいみたいなの』


「!!!!」


「メタ!ちょっと黙って!」


「…いやはや…こりゃあ参ったな…実は…」


「そいつはアタシから話すよ」

ペインがドアを開けてコチラに来ながら続ける。

「アタシはね、ロキの不出来な姉なんだよ」


「ええええええ!!!」

アレスとデューク、後ろに控えていたガイルは椅子から転げ落ちる程驚いていた。


「不出来とか言うなよ…姉さん久しぶりだね」


「アンタも元気そうだね…色々怖い噂しか入って来ないが…」


『ペインさんとロキはやっぱりきょうだいなの』


「メタは魔力を色で見てるんだね…まさかそれで姉弟と見破るとわね…」


「まさかだったな…こりゃ本当に驚いたぜ…」


「いやいや…コッチが驚きですよ…」

皆が驚愕の事実に固まっている。



「スマン…脱線しちまったな…実は【ディスティニー】で階層が増えた事でダンジョン内に時空間の亀裂が有るのではと考えた。もしそうなら早めに修復しないと不味い事になる」


「崩壊の可能性かい?」


「ああ、まだ小さい亀裂なら簡単に復元出来るが、大きい場合はかなりヤバい。もう少し早く知っていたら良かったのだが…知ったのは最近でな。オレが迷宮に居たので遅れてしまったんだ」


「それならそうと何故ゼノに言わないんだい?何も物見遊山に来たみたいに言わなくたって…」


「ペインさん、それはゼノの為ですよ。違いますか?ロキ殿」


「…なるほど、お見通しって事か…パトリックが煮ても焼いても食えないと言うのは間違いなさそうだな」


「もし仮に時空間の亀裂が有ったなら、調査の前に空間魔法師に見てもらうという手もある。これをせずに調査をしたら…」


「そうか!調査団に被害が出る可能性かあるって事だね」


「その通り。今回はたまたま『黄昏旅団』のフルメンバーが集まらない事でまだ問題は起きてないが、もし集まってたら…って事です。この問題を指摘すれば当然ゼノの立場に傷がつく。それをさせない為に『時の覇王』のロキが物見遊山の振りをして【ディスティニー】に入る。何も無ければそれで良し。もし有るなら被害が出る前に対処出来る」


「それで無くても責任感が人一倍強いゼノがこの失態を有耶無耶にする訳がない…アレはそういう男だ。だからパトリックに相談してこの手を打ったのさ。コレならオレが悪者になれば良いだけだし、ゼノはオレがワガママ言ったくらいでオレを恨んだりしないからな」


「ゼノの旦那の為に…ホントにスイマセン…」

ガイルは心から礼を言った。


「当たり前の事だ。ローナイトの冒険者ギルドはアレがやってるから優秀な冒険者が多いのさ。本当なら王都の本部に行くべき人材だからな」


仲間の事を思い何も言わずに悪者になる。そんな想いを無駄にする訳にはいかない。デュークは決心する。


「是非、ボクを使って下さい。どんな事でもします」


「そうか…この事は口外無用だ分かってるな?」


「もちろんです!」


『メタもいわないの』


「そうか…ありがとう。じゃあ急ぎで用意を頼む。今日にでも動きたい」


こうしてデュークは『時の覇王』ロキと共に因縁の【ディスティニー】に潜る事になったのである。

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