第26話 デューク、ピンチヒッターになる
通常業務に復帰したデュークはいつもの様にダンジョン【バゼアル】に潜る冒険者の荷物持ちである。盾の新調に時間が掛かったが、その間にもデュークの予約が次々に舞い込んでいたのである。今回の冒険者はローナイトのS級パーティーで『双頭の蛇』の二人、魔法剣士で大剣使いである『剛剣』のダミアンとマジックアーチャーでローナイトの【六魔弓】の一人『神速』のジャンである。
本来は『白猫』のベテランメンバーのナオキが『双頭の蛇』担当であるのだが、母が急死の為に二人のサポートに回れなくなってしまったのだ。それで急遽デュークに白羽の矢が立った訳である。
『双頭の蛇』の二人は有名な超攻撃的パーティーで、とにかくガンガン魔獣をぶっ倒していくスタイルである。その為に手馴れた『白猫』じゃ無いと彼等について行けない。その中でもナオキの仕事振りは素晴らしく専属の様に指名されていた。
「急に母ちゃん亡くなったんだから仕方ねぇさ…それより向こうは大丈夫か?無理すんなよ」
ナオキは『双頭の蛇』の二人に詫びと一緒にデュークの紹介をする為に実家の村からわざわざ出て来たのである。ダミアンはその気遣いに感謝していた。
「はい、向こうは何とか…ただ、ウチの子はお婆ちゃん子だったのでそちらの方が…」
「あ~分かる。オレもバーちゃん大好きだったからさあ。ショックだよなあ」
「ホントに申し訳無い…」
「ナオキの旦那、頭を上げてくれよ。オレらは大丈夫。分かってるからさ」
「今回はウチの若手のホープを連れて来たんで…面倒見てやって下さい」
「デュークです。御二人の噂はナオキさんから聞いてました。ご一緒出来てホントに光栄です。よろしくお願いします」
「コッチもナガトから話しは聞いてるよ。『黄昏』のメンバーと【ディスティニー】に潜ったってな」
「オレもラフレシアから聞いてるよ。テイムしたメタスラの事もね」
ダミアンとジャンは『黄昏旅団』のメンバーと親交がある様だ。
「はい、『黄昏旅団』の皆さんにはお世話になりました」
「噂のボックステイマーを付けてくれたんだから、ナオキの旦那には感謝しないとなあ。アハハ!」
「そんな…それじゃあよろしくお願いします。デュークも頼んだよ」
こうして『双頭の蛇』の二人と顔合せをしたデュークはしばらく三人と打ち合わせの後で別れたのである。
翌日、【バゼアル】の入り口前で『双頭の蛇』の二人と待ち合わせて早速潜る事にする。
二人は上層はパスして中層から始める。準備運動だとダミアンがもの凄い勢いで魔獣を倒していく。ダミアンは大剣使いで師匠の形見だと言う迷宮アイテムの魔剣をブン回す。
メタはその大きな魔剣を見るとダミアンの肩に乗ってこう言った。
『このまけんはすごくかたいの』
「うおお!ビックリした!ホントに喋んだな!」
「コラ!メタ!邪魔しないの!」
「へぇ~魔獣が喋るのは珍しいよな」
メタは魔剣が気に入った様子で魔獣を斬る度に喜んでいた。
「メタ公!魔剣の斬れ味はどうだ?凄えだろ?」
『まけんよくきれるの。ダミアンもっときるの』
「フハハハ!よし!バンバン斬ってやるからな!」
中層の戦闘はダミアンが魔獣を全部倒してジャンは矢が勿体無いと戦闘には参加しなかった。ダミアンが倒した魔獣やドロップアイテムをデュークが回収していたのだが中層の魔獣はフロアボス以外はドロップアイテムだけで良いと言われ要望通りに魔獣は置いていく。
中層を突破し、いよいよ下層に入るとジャンが弓を手に取り準備を始める。
「さて、そろそろヲイラの時間だね」
と言うとジャンは魔獣に矢を放つ。
魔獣に当たった矢が爆発し魔獣の頭を吹き飛ばしていく。
ジャンは基本的に弓の強化と矢に付帯効果を付ける魔法を扱う。そして『神速』の二つ名の通り矢を連射する速さはマジックアーチャーとしてはトップである。魔法を付帯しながら射る訳なので簡単では無いのだが、彼はそのスピードが異常に速いのだ。彼の矢筒はマジックバッグを縫い付けてあるので矢が数百単位で収納されている。もちろん数千本はデュークが持ってはいるのだが…。デュークはジャンが倒した魔獣とダミアンの倒した魔獣を【キューブ】に入れて行く。倒す数が多いので収納もスピードが要求される。デュークは持ち前のスピードを活かしてどんどん収納してゆく。
48階のフロアで狩っている最中に突然異様な気配がした。
「何か居ますね…」
「だな。希少種かも知れないな」
デュークとジャンが話しているとダミアンが魔獣を斬りながら
「オレが突っ込むから援護ヨロシク!」
「アイヨ」
と二人が同時に飛び出しジャンが横に跳んで弓を構える。ダミアンが前行くと大きな影が動き出す…黄金の翼のグリフィンであった。
ダミアンは迷わずに突っ込み大剣を振るう!
ジャンは次々に矢を射り当たった矢が翼を石化してゆく…飛ばさせない為だ。その間も攻撃を緩めない二人。ダミアンはグリフィンの攻撃を避けながらどんどん斬り刻んでゆく。
(す、凄い…こんな攻撃初めて見た…)
デュークは二人の凄まじい攻撃のコンビネーションに驚きを隠せない。この二人の戦闘には「守る」と言う概念が無い。攻めながら敵の攻撃の手を摘むという超攻撃的スタイルである。
これだけの猛攻を食らうと流石のグリフィンも耐えきれずに体勢を崩す…そこを待っていた様にダミアン渾身の一撃が首に入るとグリフィンの首が吹っ飛んだ。
「ヨッシャー!!」
『まけんつよいの。ダミアンつよいの』
メタもダミアンの肩で喜んでいた。
「あ~メタはオレ褒めてくれねぇのな…」
何故かジャンはガッカリしていた…
順調に戦闘をこなして行き最終60階のフロアボスの部屋の前まで行くとダミアンが話し始める。
「よーし、ここが最終だ。もう何度も来てるけどこの部屋だけは緊張するぜ」
「あの昔のアレの…トラウマって奴かな」
「何か有ったんですか?」
「昔さあ、この部屋の主に殺されかけた事が有ってな…若かったからよぉ…」
ココのフロアボスはアークデーモンである。魔法攻撃のレベルが高い。本来だとマジックバリアを使い攻略するのが基本だが、どうやらそのまま突っ込んで魔法攻撃をマトモに食らったらしい…それでも押し切ったのだからそれも凄いのだが。
「それじゃあ行くぜ」
「アイヨ」
それから30分後…アークデーモンの首を落とした二人はレベルも上がって大喜びしていたのである。
冒険者ギルドに戻って来た『双頭の蛇』の二人とデュークは倉庫に獲物とアイテムを出し終えてデュークは御役御免となる。
「今日は有難う御座いました!」
「いやいや、コッチこそ助かったぜ」
「コレはメタにヤルヨ…」
ジャンは魔石をメタに差し出す。
「あっ、そんな…申し訳ありません」
『ジャンいいやつなの』
「やっと褒めて貰ったヨ…」
ジャンが小さなガッツポーズをしていた…
それを見たダミアンは大笑いしたのだった。
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