第19話 デューク、調査団に同行する(前編)

「やっぱり前と大分変わってますね…」



デュークはその階層の変貌ぶりに驚いていた。



「このダンジョンは不定期にその姿を変えているのかもしれんな」


そう言ったのはローナイト冒険者ギルドのSS級パーティー『黄昏旅団』のリーダーでSS級ハイスティールのグレードマンである。



今回はゼノの依頼…つまり冒険者ギルドの特級依頼でダンジョン【ディスティニー】の調査への同行であった。二年前より閉鎖措置になっていたこのダンジョンも最近になり度々魔獣によるスタンピードを起こす様になり周辺の村々に壊滅的な被害を出していた。


その為に領主からの特別任務としてローナイトの冒険者ギルドに【ディスティニー】の調査依頼が入ったのである。ゼノはローナイト冒険者ギルドの中でもダンジョン調査に関して超一流のSS級パーティーである『黄昏旅団』に依頼を任せる事にした。その同伴者『白猫』としてデュークに依頼が来たのである。本来だとダンジョン専門のベテランを出すのが普通である、しかしデュークは閉鎖措置が取られる前の【ディスティニー】の10階層以降から生きて帰ってきた最後のメンバーであり、また『白猫』今一番の若手として選ばれて来ていたのだが、まさかこれだけの変貌を遂げているとは予想外だった。



「イヤイヤ、大規模ダンジョンなら聞いた事あるけどさ、このクラスでは聞いた事ないよ」


『黄昏旅団』のS級魔導師ミレーヌが言った。



「グアアア!!!」



前から赤いミノタウロスが物凄い勢いでやって来た。前に倒したフロアボスより遥かにデカい。




「ジーザー!!ブロックを!!」



「あいよ!任せなっ!」


SS級ハイブロッカーであるジーザーがアダマンタイトの大盾を構え、ヘイトをかける。


ミノタウロスはジーザーに突撃!!がジーザーにガッチリブロックされて動けない。


両脇からグレードマンとS級ハイスティールのナガトが目にも止まらぬ動きで切り付ける。ナガトは逆手のスキニー二刀流、グレードマンはククリナイフの二刀流である。



「行くよ!」



三人がミノタウロスから素早く離れた瞬間ミレーヌの高強度雷撃魔法が直撃!!


赤いミノタウロスはそのまま倒れた。


素早くデュークはミノタウロスを【キューブ】に仕舞い込むとパーティーの後ろに回る。



(流石のチームワーク…無駄が無い。ジーザーさんのブロック凄かったなぁ~大盾使いイイなぁ~)


デュークは羨望の眼差しで見ていた。


ハイブロッカーは大盾と重装備の超防御力と防御特化スキルだけの守備スペシャリストであり『白猫』のメンバーは誰もが憧れる職種である。



「赤いミノタウロスは西側の迷宮の何処かで見た以来か?」


グレードマンが聞くとSS級の聖女ラフレシアが答えた。



「西の迷宮【プルート】で何度か…普通のミノタウロスとは全てのスキルが上ですね」


聖女は高位回復魔法と支援魔法と呪解を使える回復系トップの魔法職の事である。



「ココの魔獣は殆どが上位種や希少種で構成されてると言う事か…迷宮に居た様なのが普通に出て来るとなるとS級パーティーでもしんどいなこりゃ」


とグレードマンがやれやれと言う感じで手を上げる。



「しかし、何でこんな上層で希少種やらがバンバン出て来るのかね?中層や下層はヤバいんじゃないのかね…」


今まで黙っていた聖剛騎士のメノスが口を開く。聖剛騎士は聖騎士の防御特化版で主に盾と回復魔法と支援魔法を操るが剣も扱う。因みに攻撃特化は聖撃騎士となる。



「アタシも同意見だね、こりゃあタダ事じゃないよ。まるで迷宮じゃないか」


ミレーヌが首を振る。



確かに【ディスティニー】の内部は異常だった。10階に到達するまででも中層のフロアボス級がバンバン出て来てたしフロアボスは希少種か上位種。現在潜っている20階に向かう上層下位でさえ迷宮で出て来る様な魔獣が普通に出て来る。因みに現在は15階でデュークがレイナと潜った最終地点である。


また、罠もかなりエグいものが多く、探知能力が低いパーティーは罠で削られたり希少種が出て来たりで相当素敵な思い出が出来る筈だ…生きていればだが…


ダンジョンの探知能力が抜群に優れているハイスティールが二人と魔法探知が恐ろしく高いミレーヌやラフレシアも居る調査専門の『黄昏旅団』のメンバー達でさえも呆れる仕様である。


デュークが一人で中に入ればこの階層までがギリギリのラインなのは間違いない。



「さて、何が出るかな?そう言えば『白猫さん』の時は何が出たんだっけか?」


フロアボスの部屋の前でミノスがデュークに聞く。



「ギカントレッドボアですね」



「なるぼど、それじゃあ引き返すわな。つうか良く戻って来れたな」



「師匠と一緒だったので…」



「その『白猫さん』はレイナの弟子だよ。あの『紅い暴風』のね」


ミレーヌはレイナを知っているようだ。



「おお、今は迷宮探索してるってな!そうか、それなら帰れる訳だ」


ミノスが納得したように話す。



「入るぞ!!」


グレードマンが扉を開く。



メンバー全員が息を呑む…其処に居たのはギカントレッドボアではなく巨大なサラマンダーだったのである。


その瞬間、ジーザーは前に出てヘイトをかける。とメノスが防御スタイルを取りジーザーを支援、ラフレシアが全員に支援魔法をかける。素早い動きでグレードマンとナガトが何度も斬り付けている。まるで息を合わせて踊っている様な美しい動きである。と、いきなり二人が両脇に逃げる。



「凍えろ!!ダイヤモンドダスト!!」



ミレーヌの高位氷結魔法が炸裂!!ダメージを与えると直ぐにジーザーがヘイト、グレードマンとナガトが再び斬り付けている。ラフレシアはミレーヌに攻撃用支援魔法をかける。その時サラマンダーが口からファイヤーブレスを吐きジーザーを直撃するがメノスの支援魔法を受けたジーザーはガッチリブロックしている。



「ダイヤモンドダスト!!」



再びミレーヌの氷結魔法が炸裂!先程よりもダメージが深い。その後も直ぐにハイスティールの二人が素早い動きでガンガン斬り付けてライフを削って行く。そして3発目のダイヤモンドダストが放たれた直後にメノスがサラマンダーの深い傷に剣を突き立てる!!



サラマンダーはゆっくりと倒れてゆく。


あっという間のフロアボス攻略完了であった。



デュークはその間パーティーの後ろで防御態勢をしながらメタと食い入る様に見ていた。今回は調査なのでパーティーメンバーに入っては居るが攻撃参加はしない事になっている為だ。これだけのチームワークに入り込む事は出来ないし、邪魔になるだけである。と、メタはレベルが上がった様子だ。



「ジーザー大丈夫だったか?」


グレードマンが声を掛ける。



「楽勝楽勝。メノスが後ろで支援もしてるからな」



「しかしとんでもない。ダンジョンだね…まさかのサラマンダーとか…」


ミレーヌは苦笑している。



デュークは早速【キューブ】にサラマンダーを入れる。初めてサラマンダーを見たし狩った。まあ自分では無いけど。



「あれ?メタちゃんはレベル上がったみたいなのに『白猫さん』レベル上がらないね」


とラフレシアが言う。



「ボクはちょっと前に向こうのダンジョンで上がったばかりなので…でももうそろそろだと思うんですが」



「ほう、レベリングをしっかりやってるんだな、関心関心。なるほどゼノの旦那が推薦する訳だ」


ジーザーに褒められてデュークは嬉しそうである。



「探知スキルも悪くねえ。さっきも罠が見えてたろ?」


とナガトが言った。14階の罠を探知したのを見ていたようだ。



「さて、次に行くぞ。何処まで行けるか…だけどな」


グレードマンが言った。



そう、まだ15階を突破したばかりである。だが皆はこれからもっと驚く事になる。ダンジョン【ディスティニー】は二年間の間に途轍もない進化を遂げていたのである。そして、ここでデュークとメタにも大変な事が起こるのであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る