第18話 デューク、儲け話をぶん投げる。

翌日、何時もの様に夜が明けぬ早朝からデュークはメタをお供にダンジョンに潜る。



デュークは『白猫』の仕事が少な目の時に何日かレベリングを兼ねた調査を行う。師匠であるレイナの教えを愚直に守り続けているのだ。最近は50階層(【バゼアル】は60階層なので下層部になる)でレベリングしながら上に向かう。通常、冒険者は下に向かうのだがデュークの場合は調査を兼ねるので上を目指しながら歩くのである。逆を辿るのでフロアボスは出て来ない為、色々調査するには都合が良い。



その日も50階からスタート55階まで降りたら引き返して今回は35階まで調べる予定であった。



50階と51階は何時もの通りに問題なく突破したのたが、53階のフロアボスであるグレートキマイラに挑もうと部屋に入る…



(何か違う…この雰囲気は…)



そしてデュークの前に現れたのはホーリーキマイラであった。ホーリーキマイラはグレートキマイラの亜種で3つの頭の山羊の部分が回復再生を司る非常に厄介な相手で有る。



(なっ…どうしてホーリーキマイラになってるんだ??)



デュークは激しい攻撃を盾に受けながら考えていた。今までフロアボスが亜種や希少種に変わることは無かった訳じゃない。


しかし今回のは異常だった。とにかく魔力が半端じゃない、しかもその魔力は何か神聖な力を放っている。



「メタ!山羊の頭を狙って!跳弾!」



メタが瞬歩からの跳弾で山羊の頭を狙う。がドラゴンの頭に弾き飛ばされる。ドラゴンは火を吹きメタを攻撃するが素早くかわされる。その間、獅子の頭はデュークに毒霧を吹きかけるが【スキル 状態異常無効化】によりデュークには通じない。



「メタ!魔炎!」



魔炎で熱せられたメタが山羊の頭に体当たりするが、山羊の頭を庇ったドラゴンの頭が吹き飛ぶ!しかし山羊の眼が白く光るとドラゴンの頭が再生してゆく。



(再生魔法なのか?厄介だな…さてどうするか)



その間もデュークに鋭い爪や尻尾の蛇が牙で攻撃するが、当たる寸前に瞬間移動の様に避ける。



「メタ!ファイヤーボールからの魔炎跳弾!!」



ファイヤーボールを数発打ち込みそれぞれの目を眩ませる、死角から跳弾で山羊の頭にヒット!!山羊の頭が吹き飛んだ。そのまま跳弾で獅子とドラゴンの頭に体当たり連続ヒット!



(よし!これなら…バ、バカな!)



何と頭か再生しようとしている!こんなのは初めてだ。デュークは心を落ち着かせる…「焦りこそ最大の敵」…師匠が何度も言っていたじゃないか!…冷静になれ…すると尻尾の蛇の眼が光っている!



「メタ!尻尾の蛇だ!」



声と同時にメタが蛇の頭を粉砕!ようやく再生も止まりキマイラの身体がドスンと倒れる。



「終わったああああ!!」



倒れ込んたデュークの胸に飛んで来たメタがどんなもんだい!と胸を張る(ように見える)。



(しかしこんなのは初めてだ…あの異常な魔力と再生スピード…何なんだ??)


デュークは倒れたキマイラに近寄っていく。


するとキマイラはダンジョンに取り込まれる様に消えて行く…普通は何時間かしないと取り込まれる事はない。だから持ち帰り出来るのだ。キマイラが消えた跡にサッカーボールを2周り程大きくした位の虹色に輝く丸い石が出現していた…隣には薄青色の牙だ。



「何だろう…見た事無い石だなぁ…でも不思議な感じの石だな~。こっちは牙か…あれ?コレってミスリルじゃ??」



とりあえず【キューブ】に仕舞い上へと戻る。少しでも変わった事があれば深入りしない…コレも師匠の教えだった。






「おいおい…コレは『神養石』じゃないか??しかもこんなデカいのは初めて見るよ…マジか…」


ライアンが【スキル 鑑定の神眼】を使い石を調べている。



「ハア??『神養石』って水に入れておくと高級回復薬になるってアレか?でもアレは小さい小石くらいだろ?」


ガイルも興味津々である。



「アタシもこんなにデカいのがあるとは初めて聞いたねぇ~。しかも魔力の強さが半端ないわね」


石の魔力を感知して部屋から出て来たペインも唸っている。



「そうだ!あのデカい桶に水入れてこの石入れちゃおうよ!」


アレスは面白がっている。





デュークはダンジョン捜索を早々に打ち切り、『白猫』に石を運び込んだ。石の鑑定をライアンにお願いして、ダンジョンの異変を冒険者ギルドのゼノに報告に向かっていた。



「話は分かった。早速見に行かせるよ」



「ボクも行きましょうか?」



「いや、丁度良い連中が居るからソイツ等に行かせるよ。それよりその石ってのが気になるな…」


ゼノは色々思いを巡らせているようだ。



「今はライアンさんに鑑定してもらってます。変なモノじゃ無いと良いのだけど…」



「昔から『百聞くよりも一回の見るに敵わず』というからね。一緒に見に行こう。何か有ればその場で解呪なりするし」



「じゃあ行きましょう!」


とデュークは言うと、小声でゼノにこう言った。


「そのままガイルさんと飲み行けますもんね」



「そ、そういう訳じやねえよ!ば、バカ言うな!」


ゼノは動揺してる。


「全く…変なトコだけ師匠に似やがって…」





デュークとゼノがギルド行くと水の張られた大きな桶に『神養石』が鎮座していた。



「お前ら何やってんだ?」



「おっ!ゼノのダンナも来たのかい?」


ガイルはニヤニヤしている。



「コレはギルマス直々の御出とは…さてはウチの副長と何やら怪し気な会合にいらっしゃるのかな?」


アレスもニヤニヤしている。



「どうやら巨大な『神養石』の様なので今は実験的に水に浸けている状況です」


とライアンが言う。



「『神養石』って…確か水を回復薬にするとかってアレですか?」


デュークは昔、本で読んだのを思い出す。



「こりゃあデカいな。昔、迷宮に篭った時にドロップしたのが飴玉位だったがソックリだな。間違いねえよ」


ゼノは驚きながら言った。



「へえ~ゼノも見た事有るんだ!流石はローナイトが誇るレジェンド冒険者だねぇ!!」


アレスか何故かテンション上がっている。



「持ち上げても何も出ねえぞ。しかしデカいし魔力がパネェな」



「そのドロップしたのも魔力はこんなだったのかい?」


ペインが聞く。



「似たような魔力だが強さがこの石とは比べ物にならねえな。そうだ何時間浸けてる?俺の記憶だと確か2時間くらいで手桶の水が高級回復薬になったぜ」



「さっき浸けたばかりですよ。20分くらいですかね…」


ライアンがゼノの問に答える。


「ちなみにゼノさんの『神養石』はどうしたんですか?」



「アレは高く売れたぜ。確か一人の取り分が1億2000万Gだったかな…」



「い、1億2000万!!!」


皆がビックリしたように合唱する。



「商人にしてみればこの先ずーっと高級回復薬が造り続けられるからな。俺達はそんなメンドクセエ事はしねえし出来ねえよ」


ゼノは首を竦めた。



「あっ、コレってもう薬になってませんか??」


とデュークが水を見ている。



「えっ、まさか…ふむふむ…」


ライアンは水を鑑定する…するとライアンは変な笑い顔をしながらこう続けた。


「で、出来てますね…エ、エリクポーションが…」



「ハア???エリクポーションだと!!!」


ガイルが驚く!!



「こりゃ驚いた…大きさによって時間も質も変わるのか。こりゃあ凄えぞデューク」


ゼノも目を見開いている。



「売ったらデュークは大金持ちだよ!凄いなあ!いくら位かなあ??」


アレスは能天気な事を言っている。



「ちょっと…デューク、何か途轍もなくヤバい品を持って帰って来ちまったね…」


流石のペインもお手上げである。



「エリクポーションかあ!じゃあウチのギルドで安く売り出しましょう!1万Gくらいで!きっと名産品になりますよ!」


デュークの答えに皆がビックリしたように口を開ける。無理もない、エリクポーションは超高級万能薬で怪我や病気はおろか切れた手足の再生や死んで直ぐなら生き返らせる事も可能なのだ。その為に相場では一本500万Gほどで売られている。



「あのね…デュークのモノだよ…コレは」


アレスはようやく口に出した。


「多分一生食っていけるよ。何もしないで…」



「えー何もしないなんてきっと面白くないですよ!」


デュークは続けた。


「そんな良い薬なら皆に安く提供出来たら助かる人も多いと思うんです!だからギルドで管理して下さい!」



「こりゃ参ったね。世の中が変わるよ」


ペインが苦笑する。



「ウチとすりゃあ大助かりさ。今まで死んでた生命も助かるかもしれねえ」


ゼノは言った。



「分かった。デュークの意を酌んでギルド預かりとして安く売り出すよ。良い名産品しちゃおう」



「しかし、商人ギルドが黙っちゃいないですよ。潰しにかかって来るかも知れない」


ライアンが言うとゼノも頷く。



「うーむ、やっぱりソコだよな…じゃあどうするかだな…」


ガイルが唸る。



するとアレスがもう一つ桶を持って来た。


水を張って『神養石』を浸ける。10分間浸けた水をライアンに鑑定させる。するとライアンがこう言った。



「エリポーションが出来てます…嘘でしょ…」


エリポーションは再生や生き返らせまでは出来ない、所謂劣化版である。



「劣化版かよ…時間で変わるのか…」


とゼノが呟く。



「まずはエリポーションを商人ギルドにハイポーション位の格安で売る。その後、コチラでもエリポーションをハイポーションの倍の値段で売る。すると安く仕入れている商人ギルドは値段を下げざる負えない。」


アレスは更に続けた。


「それが成功したら時期を見て次はエリクポーションだ。同じ様にやれば商人ギルドは文句は言えない。自分は格安で仕入れているからね」



「じゃあその為の仕込みの工場とか要りますね」


ライアンが続ける。


「ゼノさんにも協力してもらえば助かるのですが…」



「ウチは願ったりだ。工場の警備はウチの奴らに任せな」



「こりゃ大仕事になりそうだな!ガハハ!」


ガイルが笑っている。



すると空気を切るようにデュークが言った。



「じゃあ後は全部お任せします!!ボクお腹空いたんで食事して来ますね!じゃあ明日!メタ!行くよ!」


デュークは走って外に出てしまう。



「オイオイ…全部ぶん投げかよ…凄えヤツだな…」


ゼノが唖然としている。



「まあ…師匠がアレだからねぇ…」


とペインが呟くと皆が「あーーそうだなーー」と納得した。




それから数年後、ローナイト名産となった格安のエリポーションとエリクポーションは『白猫』が各都市に運び込み皆の万能薬として人気を博す事になった。



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