第12話 デューク、朝市に行く。

レイナとデュークはギルドの裏口からコッソリ脱出して宿屋に向かった。



ギルド専用の宿屋も有るのだが、そこだとまたひと騒ぎ起こりそうなので、冒険者が使っている宿屋に泊まるのがレイナの通常パターンである。



今回、冒険者ギルドからの仕事の依頼は海洋モンスター『カルナモン』の肉の運搬である。


『カルナモン』はレベル10の海洋モンスターでその肉は超が付く高級品で中々手に入らない。今回の獲物は50メートルを超える大物だった。



品物は既にレイナの【キューブ】に入っている。


基本的に【キューブ】の中では時間が進まない。その為、生ものも入れた時の鮮度を保ったままなので大量に運ぶ事もある。


今回はローナイトの商人ギルドから海洋モンスター『カルナモン』の肉の注文が入った為に、たまたまギルドにやって来たレイナに渡りに船で依頼したのである。



夕食を食べて宿屋に戻ったレイナとデュークはレイナの部屋でお茶を飲んでいた。



「依頼を受けたのに直ぐに運ばないで大丈夫なんですか?」


デュークは素朴な疑問をレイナに聞いた。



「今回の依頼品の『カルナモン』は中々獲れない海洋モンスターなの。だから商人ギルドからも『獲れた時で』の依頼だから多少遅れても平気なのよ」



「なるほど。じゃあ明後日まで居ても大丈夫なんですね」



「もし急ぎの依頼なら他に振ってるわ。コッチは頼んである魔獣の買い取り分を冒険者ギルドから貰わなきゃだし」


レイナが其処に拘るのは手持ちの資金の問題もあるからだ。


『白猫』からはデュークの教育の依頼料は貰えるが、正直多くは無い。だからギルドから頼まれても受けないギルメンも多い。仕事の依頼が多い高収入のテイマーで有れば尚更だ。


だが、レイナは積極的に受ける事にしていた。それは仲間を失いボロボロの精神状態だったレイナを立ち直らせてくれた『白猫』本部のグランドギルマスであるパトリック総長に恩義を感じていたからだ。


その為に立ち寄った街でギルドの仕事を受けたり、フィールドの魔獣を倒して買い取らせたりして旅を進めるのだ。



「今日はもう休みな。明日は朝市行くよ!」



「はい!おやすみなさい!」



部屋に帰ったデュークはメタと少し遊んでやる。「メタはボクと旅するの楽しい?」だの「メタはホントに凄いなあ」とか話し掛けながら遊ぶのである。


コレはレイナから言われてるテイムした魔獣と毎日必ずコミュニケーションを取れとの教えを守っているからであった。




朝市はまだ日が昇らない内からやっている。


獲れたばかりの小さい海洋モンスターが朝市に沢山並んでいる。それを買って食堂に持っていくと調理してくれるのである。



「美味しいーーー!!」


デュークは感動していた。こんなに美味しい物をこんなに安く(全部で300G)食べれるのだ。普通、食事1食分なら500G位だから二人で倍なのだが…



「何でこんなに安いのかなあ??」



「今食ってるヤツはほとんど今日中じゃないと食べれなくなる。だから安くても捌かないとダメなのさ」



「なるほど!じゃあ【キューブ】に入れてれば何時でも食べれますねー」


とデュークが言った。



するとレイナが


「デューク!お前は天才だ!」


「よし、沢山買うぞ!お前の【キューブ】に入れよう!!」



『ボックス』の能力者なら誰でも思い付きそうだが、意外と天然なレイナは感動していた。



デュークとアホほど買って意気揚々と朝市を後にする。





「レイナさん、鞄を買いたいんですけど…」



「はあ?鞄って…要らないでしょうに」


『ボックス』の能力者は鞄を買わないし持たない。必要が無いからである。【キューブ】に何でも入るので鞄という不便な道具は使えないのだ。



「メタを入れる鞄を欲しいんです。このままだと目立つから…」



レイナはナルホドと思った。レイナの相棒のガオは仕舞えるような大きさでは無いし、そのうち目立つのに慣れてしまったが、確かにメタルスライムは流石に目立つ。



レイナは革製品のお店に連れていきデュークとメタに鞄を選ばせた。


「そんなに高いのか??」


鞄を買ったことが無いレイナは値段を聞いてビックリしたが、メタがその鞄をお気に入りで他のを拒否したので買う羽目になった。



「デュークの出世払いな」



「しゅっせって何ですか??」



「一人前の『白猫さん』で稼げるようになってからな」






翌日は冒険者ギルドに朝早くから出掛けた。


買い取りのお金を貰いに行くのだ。



ギルドに行くと既に計算も終わっておりお金も用意しているとの事でランドウの部屋に通される。


「おう!待たせたな!コッチに用意してあるぞ」



テーブルの上に麻袋が1つ置いてある。



「明細は下に有るから確認してくれ。仕事も受けて貰ったから色は付けてるぜ」



ギガントレッドボアは基本的に1匹の値段は200万Gからである。捨てるものが無い為にかなり高価で引き取ってくれる。


今回の獲物はレッドボアの中でもかなりの大物だった事、皮の傷が少なかった事、牙が大きく長い事で買取金額が320万Gにもなった。その他にミノタウロスやジグガンティス、各階のフロアボスと色を付けたのも入れて600万Gで買い取りとなった。



「悪いわねランドウさん、色まで付けてもらって。ホントに有り難う」



「なあに、良い物も見せてもらったしな!」とデュークを見る。


「そういやあメタ公はどうした?」



すると鞄の中からメタが飛び出した。



「おっ!良い鞄買ってもらったな!メタ公!」



するとメタはぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。



「デューク、じゃあ行くよ。ランドウさん荷物はキチッとローナイトに届けます。ホントに世話掛けちゃったね」



「ギルマス!お世話になりました!」


とデュークが挨拶をする。



「気にすんな!気を付けてな!まあ、大丈夫だろうけどよ!」




冒険者ギルドを出てから土産物を購入して準備万端整った。



「さて、ローナイトに行こうか。皆も待ってるよ」



「はい!」



二人でガオに乗り出発した。


懐かしのローナイトに。



デュークは乗り物酔いをしなくなったようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る