第5話 とある師匠のプロローグ

「あと、もう少しか…」


赤い髪の女が呟くと隣の真っ赤な毛色のジャガーが彼女の頬に顔をくっつける。


「お前も懐かしいか?ローナイトの街は」


頷くようにジャガーが頭を下げる。


「昔の話だ…なのに…」


と思い返す様に空を見上げた…





「おい!その魔獣…ディープレッドジャガーの子どもじゃねーか??」


「あ?何だと!あの『紅い暴牙』だと?!」


冒険者らしいその二人組が赤い髪の少女に迫る。


「だったら何?」と一睨みしてこう言った。


「ネーチャン、ソイツは高く売れるんだぜ!知らねーのか?あ?」


「はあ??アタシにはレイナって名前が有るんだネーチャン呼ばわりするんじゃないよ!」


するともう一人が「やかましい!!さっさとソイツを寄越しな!!」と迫って来た。


するとレイナは「お前等にくれてやる訳無いだろ…失せな!」と啖呵を切った。


「このアマ…ギタギタにしてやんよ!」と殴ろうとした瞬間、赤く猫の様に小さな魔獣が少女を守る様に素早く跳び掛かる!


「ぐああ!!」と血だらけの男が唸る。魔獣の爪が男の額を切ったのだ。


「クッソー!もう手加減しねえぞ!」と二人の男が得物を手に持ち迫って来る!!



「待て、貴様等何をやっている…」



二人の男の後ろから静かだが途轍もない迫力の声が聞こえて来た。


「あ?何か文句でも…」と言って振り向くと凍り付いた様に黙る。


「ゼ、ゼノさん…」


声を掛けた男はこう言った。「ギルドで見たな…どっかの街から来たとか言うᎠクラスだったな」


「ま、魔獣を狩ろうとしただけですよ」


「狩ろうとした??その魔獣をか?クククッこれは面白い」


とゼノが笑いながらこう言った。


「その魔獣はそこのお嬢さんにテイムされてる。テイマーの使役魔獣を冒険者が殺したらどうなるか分かってんのか?」


「テ、テイム??このアマが『紅い暴牙』をだと…!?」


「そうよ、ウチの『ガオ』はアタシの相棒。舐めんじゃないわよ」



冒険者ギルドでは数少ないテイマーの使役魔獣を傷付けたり殺したりする事を禁じていた。その禁を犯すと冒険者ギルドから永久追放された上に賞金首となって狩られる側になるのだ。



「ギルドマスターの俺が見てる前で堂々とやりやがったら、この場でお前等に首と胴が別れるって素敵な体験をさせてやんよ。」


ゼノは恐ろしい程の殺気を放ちながら男二人に迫る。


「か、勘弁してくれ…して下さい…」


男二人は完全に戦意喪失、勝負あったようだ。


「失せな、三下」


男二人は脱兎の如く逃げる。



「お嬢さん、悪かったな。冒険者の不始末は俺の責任だ」


とゼノはレイナに謝った。


「ああ、良いのよ。どうせ負けないしね」


「おう、そうか!そいつは余計な事をしちまったな!アハハ!」


「ところでお嬢さん」


「レイナよ。レイナって呼んでね」


「そうかいレイナ、俺は冒険者ギルドのギルマスやってるゼノってもんだ。レイナは冒険者かい?」


「冒険者じゃ無いのだけど…」


「は?マジか??じゃあウチに登録してくれよ。レッドジャガーのテイマーなら仕事は唸るほど有るぜ!」


「うーん…お誘いはありがたいんだけどさ…」


「何か事情が有るなら力を貸すぜ。テイマーは冒険者の宝だからな」


「…実は…コレなのよね…アタシ」


と彼女の右手に【キューブ】が出現する。


「オイオイ…『ボックス』のテイマーかよ!!コイツは驚いた!」


「て訳で冒険者は無理かな」とレイナが言うと、ゼノは自信満々にこう言った。


「冒険者になりてえなら俺に任せな。立派な冒険者にしてやんよ」





冒険者ギルドに登録したレイナはゼノの手解きを受け着実に冒険者としてのスキルを上げていった。


足りない攻撃力と魔法力はガオの攻撃力と魔法で補う。ディープレッドジャガーはレベル7の魔獣で炎の魔法纒った牙や爪の攻撃力が恐ろしく強い。攻撃力だけならアースドラゴン(レベル8)に匹敵するといわれる。また、素早さにも定評が有るのだが、防御力が低いので防御しか出来ないレイナとガオは相性が良かった。



「レイナ!そろそろ行くぞー!」


Dクラスの冒険者チーム『暁の五芒星』のリーダー、魔剣のカイルが呼ぶ。


「慌てるんじゃないよ。ダンジョンは逃げないんだからさ」


レイナはカイルに言う。


「宝箱がオレを呼んでるぜ〜」とはチームのスティールであるレオ。


「肉でしょ?肉?」チームの暴食、ブロッカーのミンチ。


「あー面倒くせえ…」が口癖の回復魔術士のオリバー。


五人は冒険者ギルドでも期待のルーキーでありゼノの秘蔵っ子達だ。


Ꭰクラスになってはいるが実力はもうᏟクラスだと言われている。特にカイルは魔剣使いとしてかなりの腕前でクラスはᗷ。他のメンバーがᎠクラスなのでチームレベルは低い。


レイナはこのチームで腕を上げて来た。もう直ぐでᏟクラスと言う所までだ。


このチームでのレイナの役割は攻撃と荷物運び。レイナの身長を超えて2メートルになったガオはレイナを乗せて戦う。


レイナは盾で攻撃を防ぎながらガオを操る。ゼノに貰ったミスリルの盾は軽くて硬く魔法も防御出来るのでレイナにはベストの盾と言える。



この日も結構な量のアイテムと肉を手に入れて意気揚々で帰って来た。


「今日は大漁だったなあ」ミンチが呟く。「あ、肉貰うよ」


「しかしガオの探知能力には敵わねーな。罠に危なくハマるとこだったぜ」とオリバーが言った。


「怪我が無くて良かったわよ。急にガオがオリバーのトコに行くんだもの、振り落とされそうだったわ」


「すまねえ…お宝に目が眩んで探知し切れなかったよ」とレオが謝った。


「まあ、怪我が無くてホントに良かったぜ。この分ならもう少しでチームのクラスも上がりそうだ」


カイルは嬉しそうに続ける。


「レイナ、レベル上がっただろ?」


「気付いてたの?レベルの事」


「当たり前だろ。コレでレイナもᏟクラスじゃねーか!」


やったな!!と皆から言われて照れるレイナ。


カイルが他のメンバーに合図を送る。


「レイナ、明日は休むからよ。」


「そう?じゃあ、ゆっくり寝れるわね」


他のメンバーはニヤニヤ笑いを堪えている。


「何よ?」


「何でもねーよ!!」


「変なの…」


レイナは訳も分からず憮然とした。




次の日、レイナが昼頃に起きてウダウダしてると冒険者ギルドから慌てて副長のタレイがやって来た。


「レイナ!居るか!!」



「タレイ兄い、なーに??」


「良かった!レイナは行かなかったんだな!」


「何処に??何の話?」


レイナは嫌な予感がした。


「カイル達が…ダンジョンの死霊階に落ちた…」



死霊階とはダンジョンにある罠の階である。


ダンジョンの20階を過ぎた辺りから何ヶ所かに仕掛けられた魔法陣で転送される。


死霊階には100階を超えないと出て来ない筈のレベル12のモンスターが大量におり罠に掛かった冒険者達を襲うのである。


「ガオ!!」と声を掛けるとレイナはダンジョンへ走り出す。


「レイナ!!待て!!」


タレイの声が遠くなる。ガオに乗ったレイナはダンジョンに向かって行った。



ダンジョンに入ろうとしたレイナは中から出て来たゼノに叫ぶ。


「カイルは?!レオ!!??ミンチ!!オリバーは??」


血だらけのゼノ達ギルドの精鋭達が首を振る。


ゼノが右手に握りしめていたのはカイルの魔剣グラムだった。


「レイナ…すまねえ…助けられなかった…」



それから数日経った。


レイナは部屋に引きこもり出て来なかった。


ガオはレイナから離れない。


「何でアタシを置いてったのさ…」



「レイナ、話がある。そのままで良い聞いてくれ」



「カイルが最期まで離さなかったマジックバックの中に宝箱が入ってた。そいつを持って来た…ココに置いとくぜ」



ゼノが帰った後、レイナは扉を開けた。


小さな宝箱が置いてあった。


レイナは宝箱を開けた。中に手紙と赤い綺麗な魔石が入っていた。


(レイナ、Ꮯクラスおめでとう!!『暁の五芒星』より!)



レイナは叫ぶ様に泣いた。



「行くのか?寂しくなるな…」


ゼノはローナイトの城門の入り口に居た。


「もう、ダンジョンには戻れない…ごめんね…」


「分かってる、向こうでも元気に暮らせよ『白猫』のギルマスは俺の同郷で幼馴染みだ。きっと良くしてくれる」


「ありがとう…さよなら、ゼノ」


「またな」





(もう15年も経つのか…早いものだな)


空に4人の懐かしい顔が浮かぶ…お帰りレイナ。


「さて、行こうかガオ。可愛い弟子が待ってる」


ガオが声を出す。


「生意気ならボコボコにするけどな!」


レイナはガオに乗り旅路を進む。


懐かしいローナイトはもう直ぐだ。






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