粉々の伊達眼鏡

それは突然起きた。


事の発端は、体育の新体力テストという筋力や持久力、柔軟性などを測るための種目を行い、

運動能力を数値化する授業日のことだった。


僕は、必需品の伊達眼鏡を、粉々にしてしまった。



____そして、園宮君と関わることになってしまったのだ。



そうなる経緯は……、


そう、女の子が、倒れてきたんだった。


今思えば、なぜ女の子が倒れてきたのか不思議で仕方がない。


____まるで、僕は、気づくことさえ不可能な罠に嵌められたかのように思えてしまった。



………………………………………………


その日は、まあまあ暑いくらいの日和だった。



クラス別で並んでいる途中、近くの女の子が、突然、僕の方へグラッと体勢を崩した。


僕は、急のことに対応できず、一緒になって倒れてしまった。


そのとき、僕のキーアイテムである眼鏡は、僕の顔から外れ、


人混みに紛れ…


ボキボキっというむごい音と共に砕け散った。



「大丈夫っ?」


掛けられた優しげな声に咄嗟とっさに、反応しようと、


「うん、大丈夫だよ、ありがとう」と微笑み、顔をあげると




真正面、近距離に、王子様の顔があった。




その顔は、気の所為せいではなく、




____やけに嬉しそうだった。口元は緩み、目は嬉々として細められている。



まるで…

まるで、獲物をまんまと仕留めた狩人のようだった。



僕は、ハッとして、乱れて顔をあらわにしてしまった前髪を元通りに戻し、下を向く。


「あっ、砂ついてる。」


チラリと一瞬、垣間かいま見えた顔には、


しめたとばかりに、ニヤリとした口角が貼り付けられてあった気がした。


…どうか気の所為だと思いたい。



間髪入れずにスっと何かが差し出された。


…なんだろう…というより、なんかやけに、近くないかな…?

まぁ、いいか。





躊躇ちゅうちょしていた僕は、


ふわりとのような匂いのする、


清潔そうな見た目の白いハンカチを頬に添えられた。


…いや、正確に言えば、に当てられた。




次の瞬間、


浮遊感が僕を突然襲った。


目の前が真っ暗になる。




そうして、僕もクラりと倒れてしまった。


…らしい。

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