嵐の前の静けさ

……すごいなー、王子様は。

学校が始まって、早1週間。


女の子は、王子様こと、園宮 そのみや こうにメロメロだった。

女子が群れをなしては、彼に近づき、ハーレムをつくる。


だが、男子には敵対心は持たれていないようだ。

むしろ、尊敬、憧れの眼差しが向けられている。



僕はといえば、円満に高校生ライフを楽しんでいた。

話せる相手もでき、提出物も出し、特にヘマをしたことは無かった。


そんな、日常の帰り道。僕は、いつも通り翔と帰っていた。


「そーえば、結斗ー?」


「んー?」


「王子様と同じクラスなんだって~?」


………。ちらりと翔の方を見るとニヤニヤとした顔があった。


「………。」


「は、ははっ、そ、そんな、嫌そうな顔すんなよっ!

翔もそういう感情とか持つんだなー!」


僕は、翔が引くくらいに酷い顔をしていたのか。

というより、そういう感情とは…?

別に嫌っているつもりはないのだが、僕には、

キラキラしている人間を避ける傾向にあるのかもしれない。


「ああ。確かに同じクラスだったよ。」



「…ねーねー?




____俺とソイツ、どっちがヤバい奴なの?」



翔が少し、いや、翔にしては珍しいくらいにぎこちなく言葉を紡いだ。

表情を伺おうとするが、読み取れない。

緊迫したような顔だが、僕に向ける目はどこか切なそうな訴えを伝える。



人影などほとんどないような小さな小道。

あるのは、生暖かい風が吹くのみ。

ジワリと汗をかくような、そんな天気。



なぜかしばし、僕と翔の時がゆっくりと流れる。


この友人は、いつからこんなに大人びた顔をするようになったのか。

思春期真っ只中の僕たちは、これから大きな変化が起きていくのだろう。

そんなことを思った。


ふと、翔の腕が伸びる。


僕の額に張り付いた、長い前髪に触れ、さらりと指先で流してくれる。


はっきりと翔と目が合う。



突然、翔の腕が僕の背中に回り、グイッと引き寄せられる。

予想もしていなかったことに、バランスが崩れた僕は、体重を翔に預ける形になってしまう。


「ごめっ…。」


僕は、友人のこんな行動に耐性はない。とりあえず、謝るしかなかった。


どうしても、翔の表情が見たくて、ゆっくりと顔を見る。


やっぱり、読み取れないような複雑な顔。

目尻は下がり、穏やかで嬉しそうではあるが、どこか切なげだ。



僕は、先ほどの質問に答える。


「やばいの意味にもよるけど……


……翔の方かな。」


そう言うと、正解というように優しく微笑まれた。頭をふわりと撫でられた。

今日は、やけにスキンシップが多く感じる。



翔もやはり、イケメンであるからには、ライバルが気になるのだろうか?


「ふふっ、そっかぁー。」


何だか、ウキウキとしていた。





なるべく、目立たないように、地味系男子として生きていこうと決めていた。


ちゃんと眼鏡もして、第一ボタンまで止めて、必要最低限の会話はするようにして、

平凡として、

完璧だった。



……だが、その後、

王子様と交わることになったのは、

運命の悪戯だった。


はたまた、計画の内だったのだろうか……?

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