第30話 魔王と御剣兄妹の再会

☆☆☆☆☆



「さぁミレイユ様~、横にお成りになってくださいね~」


「な、何故じゃ?」


「あら~、私の目を誤魔化せるとお思いですか~」


「うっ……」


「さぁ、HPの消費を少しでも、抑えましょうね~」


「う、うむ、分かったのじゃ……」


 そう言って、ベッドに横になるミレイユ。

 そう、召喚の代償は、今も払い続けていた。


「素直じゃないですねぇ~ミレイユ様は~」


「五月蠅いのぅローズ……。妾とて、テリーの気持ちは嬉しい。じゃが……あ奴には大切な妹が、元の世界に居るのじゃ。こちらの世界に残ると言ってくれた時は、涙が出るくらい嬉しかったがの……それでも、断腸の思いだったはずじゃ……あ奴は、優しいからの……」


 そう言うミレイユに、スラリンは優しく微笑む。


「最終的に、どうなさるかはミレイユ様にお任せします~。でも、もしテリヤ様が~……本当の意味で、こちらに残られる場合……楽しくなりそうですよねぇ~」


「フ……ありえぬよ。テリーも頭が冷えれば、きっとな。先程は冷静さを欠いていたのじゃ。勢いというものじゃろう……一生に関わる大事な事を、勢いで決めさせるわけにはゆかぬ……」


 スラリンは、溜息をついた。


「はぁ~、ミレイユ様はもっと、テリヤ様を信じてみては如何ですか~?」


 人間を全く信じていない自分が言うなと思いつつも、スラリンは口にしていた。


「テリヤ様は、決して勢いだけで決めたわけではないと思います~」


「むぅ、いやにテリーの肩を持つの?」


 口を尖らせ、スラリンに言うミレイユ。

 くすくすと笑い、スラリンも言った。


「はい~、私にとって、第二の主様ですからね~」


「フ……そうじゃったな。やれやれ、これでは妾はHPを無駄に減らしている気がするのじゃ」


「はい~、だから、もう良いと思いますよ~?」


「いや……それでも、な。残しておいてやりたいのじゃ、テリーの希望を」


「ミレイユ様……」



☆☆☆☆☆



 小型のスラリンを追いかけ、城下町へ辿り着く。

 そこには、誰も居ない。

 魔物達で溢れかえっていた城下町が、今は見渡す限り、誰も居なかった。

 もしかして、『勇者』にもう!?

 そう思ったけど、屋台に一人、居た。

 いつも通り、焼きとりのような物を焼いている。


「アスタロトさんっ!無事だったんですね!!」


「おやおや、これはテリー殿。ご機嫌麗しゅう。一本、如何ですか?」


「あ、ありがとうございます……ってそうじゃなくて!?なんでいつもどおり焼いてるんですか!?」


「いえいえ、私はこれでもミレイユ様の近衛隊長をしておりまして。もしここを『勇者』が通る場合は、相手をせねばなりませんからな。ここを通らないのであれば、スルーなのですが。いやいや、情けない『役割』でございます」


 アスタロトさんは、少し悔しそうに見えた。

 『役割』……つまり、ボス的な立場で、迎え撃つことしかできない、という事なんだろうか。


「アスタロトさん、俺に任せてください。必ず、ミレイユを守ります」


「テリー殿、貴方はまさか……。ふふ、成程、これは失礼を致しました。貴方は魔王を守る勇者、なのですね」


「え?」


「テリー殿、いえテリー様。もし遅れを取りそうであれば、後退しながら、ここへ。その際は、このアスタロト、僭越ながらテリー様のお力になれますので」


「アスタロトさん……ありがとう!それじゃ、行ってくるよ!」


「はい、ご武運をテリー様」


 そう言って敬礼してくれるアスタロトさんに、笑顔で手を振ってから、小型のスラリンの後に続く。

 あ、結局なんで皆居ないのか聞いてなかった!

 ま、まぁ避難してるんだろうな。

 そして、小型のスラリンを追いかけていると、急に立ち止まった。

 俺も習って立ち止まる。

 すると木々の隙間から、先導する巫女服をきた女性と、顔は見えないけど、あれが『勇者』なんだろう……姿を確認できた。

 よし、やるぞ……。

 先手必勝だ。

 スラリンから受け取った剣を構える。

 いつのまにか、スキルで覚えていた技。

 それを、出会い頭にお見舞いしてやるっ!


「『勇者』!覚悟ぉっ!!『ギガントブレイク』!!」


「隠れてるつもりだったン?お見通しなンだよっ!『ギガストラッシュ』!」


 ガギィィィィィン!!


 凄まじい衝撃が手を震わせる。

 剣と剣がクロスし、ギギギギッと金切り音が鳴り響く。

 くっ!流石に強いっ!!

 そう思って相手の顔を見る。


「へ?」


「え?」


 言葉が出たのは、多分同時。

 俺はすぐに剣を投げ捨てる。

 相手も、それは同じだった。

 だって、そこには。

 この世界には、居ないはずの……大切な、妹が……居たから。


「れ……玲於奈っ!?」


「にい……ちゃン?兄ちゃんなンかっ!?」


「ああ!ああ!そうだよ玲於奈!兄ちゃんだ!」


「『魔王』の使う幻惑とかじゃ、ないンだよな!?」


「あはは、正真正銘、俺は御剣 照矢だよ。玲於奈!」


「兄ちゃンっ……!」


 玲於奈が、抱きついてきた。

 俺は玲於奈を抱きしめ返す。


「心配、かけたよな。まさか玲於奈までこっちの世界に来てるなんて、ビックリしたよ」


「こンの馬鹿兄ぃ……突然帰ってこなくて、心配したンだかンなっ!馬鹿兄ぃぃ!!」


 ぎゅぅぅぅっ!と力強く抱きしめてくる玲於奈を、俺も抱きしめる。

 大切な宝物が、すぐ傍に居た。



 それから少し経って、気恥ずかしくて離れた後、お互いの状況を報告しあった。


「成程。ハルコさんには、随分と妹がお世話になったみたいで……ありがとうございます、ハルコさん」


 頭を下げる。

 きっと玲於奈だけだったら、こんなに早く、ここに辿り着けていなかっただろう。


「い、いえー!?あ、頭をあげてくださいー!?お姉様にぶっ飛ばされてしまいますぅ!!」


「え?」


 見たら、玲於奈が凄い表情でハルコさんを睨んでいた。

 俺はポンと玲於奈の頭に手を置いて、笑う。


「こら玲於奈、そんな顔しない。綺麗な顔が台無しだぞ?」


「うぅ、ごめン兄ちゃン……」


 そう言って微笑む玲於奈は、いつも通りの天使だった。


「はうぅ!?お、お姉様が!あのお姉様が!?ばたんきゅぅ~」


 ドサッ


「ちょっとぉ!?なんでこの人倒れたの!?玲於奈!?」


「はぁ……。ちょっと待ってて兄ちゃン。ほら、起きろケイ」


「ぎにゃぁぁぁっ!?お姉様、搾っちゃだめぇぇぇ!!」


 凄まじい、光景を見た。

 倒れたハルコさんのお、おっぱ……胸を、玲於奈が両手で鷲掴みして、そのまま握った。

 そういえば玲於奈は、胸にコンプレックスを持ってたんだよね。

 別に、小さくても良いのに。

 大きいのも小さいのも、等しく正義だよ?


「はい、起こしたよ兄ちゃン」


「あうう、お姉様の愛が痛いですう……」


「愛じゃねぇンだよ!?兄ちゃンに誤解されるような事を言うンじゃねぇ!!」


「ひんひん!」


「はは、ははははっ!」


「兄ちゃン?」


 思わず、笑ってしまった。

 玲於奈が、仲良くしてる人が居て。

 決死の覚悟できたのに、『勇者』は妹で。

 もう、何が何だか。

 感情の整理ができなくて。

 でも、嬉しい、それだけは分かる。


「玲於奈、会って欲しい人が居るんだ。いや人じゃないんだけど……」


「さっき話した『魔王』だっけ?ン、兄ちゃンが言うなら。それに、私も召喚された国の奴らが言う話、疑ってたし」


 流石は玲於奈だ。

 聞いた話を鵜呑みにせずに、ちゃんと自分の考えを持って、行動していたんだな。


「あ!そうだ玲於奈、その召喚された国では、元の世界へ帰れるとか、言ってた?」


 もし帰れると言ってたなら、俺はもう帰れない事を、伝えなければならない。

 でも、もう会えないと思った玲於奈と、こうして会って、話せた。

 神様が居るんだとしたら、その事に感謝したい。


「あー、帰れるって言ってたけど、怪しンだよね。多分帰れないっしょ」


「お姉様軽いですね!?」


 ハルコさんが突っ込んだ。

 俺もそう思う。


「あン?だって、もう帰れなくても良いし」


 え?


「なンでそこで意外そうな顔すンの?兄ちゃン」


「い、いやだって、元の世界には、友達とかたくさん……」


「そりゃいンけど。だけど、友達だって、私の事は友達の中の一人ってだけっしょ。友達と兄ちゃン選べって言われたら、迷う事なく兄ちゃン選ぶかンな」


 玲於奈の言葉に、俺は泣きそうになった。


「くっ……!歳を取ると涙腺が脆くなって……!」


「兄ちゃン、私と二つしか変わンねぇじゃン……」


 ゴシゴシと目を服で拭っていると、呆れたように玲於奈が言う。

 気がつけば、小型のスラリンが居なくなっていた。

 本物のスラリンに、敵は居ないって伝えに行ってくれたんだろう。


「それじゃ、行こう玲於奈。それにハルコさん。皆に、紹介するよ」


「ン……」


「はいー!よ、よろしくお願いしますねー!」


「いや、ケイは知ってンじゃねぇの……」


 そう突っ込む玲於奈に、俺は笑ってしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る