第29話 魔王に認められし者

「成程のぅ……それは確かに盲点じゃった」


「ですねぇ~、私もそんな事考えた事もありませんでした~」


 まぁ、発想はゲームからだけど。


「ミレイユは、魔物を召喚とかできる?」


 ダンジョンには、罠と魔物も徘徊させておきたいからな。


「うむ、可能じゃぞ?」


「それってミレイユの強さに依存したり、するのか?」


「したら、最弱の魔物しか呼び出せぬな……」


 まさかミレイユ本人がそれを言うとは。

 スラリンも苦笑している。


「!!……ミレイユ様」


「……うむ。どんな手を使ったのじゃ……?」


 急に、二人が深刻な顔をする。


「ど、どうしたんだ?」


 その俺の問いに、ミレイユが答えてくれた。


「『勇者』が、ここにまっすぐ向かっている。もう少しで、ここに辿り着くと報告を受けたのじゃ」


「!!」


 この場所は、知られてないんじゃなかったのか!?


「その『勇者』の強さは、分かる?」


 あのスラリンが、珍しく悔しそうな顔で、答えた。


「今の、ミツルギ様では……勝てません」


 そう、下を向いて、唇を強く結び……本当に悔しそうな顔で。

 俺が、もっと魔王ダンジョンでレベルを上げていればっ……!

 でも、向かってくる以上、俺が出るしかない。


「スラリン、ミレイユを頼む。同じ『勇者』なら、もしかしたら時間を稼げるかもしれない」


「テリー……元の世界へ、帰れ」


「え!?」


「ミレイユ様!?」


 俺とスラリンが、同時に言った。

 今、何て!?


「元の世界へ、帰れ。召喚した場所を覚えておるな?あそこで、テリーを元の世界へ戻せる」


「な、何を言ってるんだよ!?俺は、ミレイユを守るって約束したろ!?」


「報告では、その『勇者』は『ステータス』を偽造しておったそうじゃが、妾の配下にはそれを暴く事に長けた者がおるでな、無駄じゃ。それだけ用心深い『勇者』でありながら、その『ステータス』は全て30万を超えているという事じゃ」


 なっ!?俺の、3倍以上の強さなのか!?


「更には、妾達の仲間であるケイが、道を先導させられておるようじゃ。用意周到、そんな『勇者』が相手では、今のテリーでは勝ち目はないのじゃ」


「っ!!」


 俺は、守れないのか?ミレイユを、見殺しにしろっていうのかっ……!

 スラリンも、それが分かっているのか、何も言わない。

 ただ、下を向いて悔しそうに、唇を噛んでいるのが見えた。


「俺は、帰らない」


「テリー!妾が勝手に呼んだ、それは謝る!じゃが、妾は無駄に命を散らしてほしいわけではないのじゃ!!」


「分かってる!だけど、俺はミレイユの事も、スラリンの事も好きになったんだよ!見殺しになんか、できるかよっ!」


「お主には大切な妹が居るのじゃろうっ!忘れるな!お主が死ねば、妹は一人になるのじゃぞ!!」


「っ!!」


 ミレイユは、自分の命が失われるかもしれないのに、そんな時にまで、俺と、俺の妹の事を考えて……!

 ……ごめん、玲於奈。

 俺、やっぱり、ミレイユを見捨てられないや。

 もう会えなくなるけど……幸せに、なってくれよ。


「ミレイユ、俺、決めたよ」


「そうか……では、ついてこい。すぐに帰……」


「俺は、この世界で生きていく」


「……え?」


「ミツルギ、様!?」


「もう、召喚の維持に体力を使わなくて良い。俺は、この世界で、ミレイユ達と、生きていくよ」


「テリー……」


 ミレイユの瞳から、涙が零れ落ちる。

 怖かったろう、不安だったろう。

 だから俺は、そんなミレイユを抱きしめた。


「死ぬ時は、一緒に死んでやるよ。だから、最後まで諦めんな、ミレイユ!」


「……っ!……ふぅ、馬鹿は死んでも治らぬと、書物で読んだ事があるのじゃが……実在するようじゃな?」


「はは、かもしれないね。スラリン、ミレイユを頼むよ。俺は、『勇者』の元へ行く」


「いいえ、それは聞けません」


「え?」


「ミツルギ様、いえ……テリヤ様。貴方様の御覚悟、しかと見届けました。スラリン……いえ、このローズが、貴方様を認めます」


 スラリンがそう言った瞬間、俺の体が輝きだした。

 な、なんだぁ!?


「!?て、テリー、お主、ステータスをみてみよ!!」


「ミレイユ?わ、分かった。『ステータスオープン』!」



御剣 照矢 男(18歳)



職業 魔勇者


称号 魔王に認められし者(極)


Lv.790


HP    3,890,000/3,890,000  成長レベルS+


MP    1,533,000/1,533,000  成長レベルB


こうげき力 395000   


しゅび力  390800   


ちから   395000      成長レベルSS


まりょく  367000      成長レベルA


たいりょく 390800      成長レベルS+


すばやさ  385500      成長レベルS


きようさ  387000      成長レベルS


みりょく  530


スキル一覧


『鑑定』


『闇属性魔法』


『ギガントブレイク』(固有技)(剣必須)


慈愛の心リジェネレーション』(パッシヴスキル)


『守護方陣』(パッシヴスキル)



 なんじゃこりゃぁぁぁぁっ!?

 いや、ちょ、えええええっ!?


「な、なんでこんなにつ、強く!?」


「テリヤ様は、称号をご存知ですか?」


「称号?そういえば、今まで何も無かったところに!」


 魔王に認められし者(極)ってついてる!?

 え、でも魔王って、ミレイユだよ、ね!?


「テリヤ様、ミレイユ様は召喚された『魔王』……本来の、この世界の『魔王』ではありません。本当の『魔王』は……この私、ローズなのです」


「!!……どうして、それを俺に教えてくれたんだスラリン……いや、ローズ」


「ふふ、スラリンで構いませんよ、テリヤ様。それに……今の『魔王』はミレイユ様ですから」


 そう言って、ミレイユに微笑みかけるスラリン。

 ミレイユは、最初こそ驚いた顔をしていたが、次第に落ち着きを取り戻した。


「ふむ、今回は、死ぬ直前で思い出させるのではないのじゃな?」


 そう言って、ミレイユは微笑んだ。


「はい、我が友ミレイユ。『勇者』と『魔王』が手を取れるのならば、あの『女神』のシナリオを、打ち崩せるかもしれません」


「フ……それはまた、大層な事を考えよるな」


「今すぐに、というわけではございません。それには、まだまだテリヤ様は弱すぎますし……」


「ふむ、それもそうじゃな。というか、妾のレベル上げも魔王ダンジョンのもっと奥へ行けば可能じゃし、そこら辺も後で考えるとするかの」


「はい、そうですね~」


 あれ、口調が戻った。

 さっきまでの口調のローズ、かっこよかったのに。


「テリヤ様はまた、面白い事を考えてらっしゃいますね~?」


「あ、いや……」


 さっきまでの悲壮感は、もう無かった。


「称号は、成長ステータスにプラス補正を働かせます~。つまり~、今までレベルが上がった分に、その補正値が上乗せされた感じですね~」


「成程……それじゃ、俺が行ってくる。ミレイユにスラリンは、ここで待っててくれ!」


「うむ、気を付けるのじゃぞテリー」


「お気をつけて~、テリヤ様~。美味しいご飯でも用意して待ってましょうか~?」


「そこはミレイユを守っててね!?」


「もちろんですよ~。案内は、そのちっちゃい私に任せてくださいね~」


「うおっ!?」


 見ると、本当に小さいスライムが居た。

 なにこれ可愛い。

 掴んで持ち上げてみる。


「て、テリヤ様のえっちぃ~」


「えぇ!?」


 慌てて離した。


「遊ぶでない、ローズ……」


「すみません~。では、行ってらっしゃいませテリヤ様~」


 小さいスラリンがもぞもぞと動き出したので、後を追う。

 小さいからか、結構速いな!?

 俺はスラリンを追いかけ、城を出た。

 そこで、予想外の人と、出会う事になったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る