第28話 魔王と御剣の妹・魔大陸へ

「なンだあの国は……」


「凄いですね……お姉様……」


 まだ国の中へは入っていない。

 というか、これは入れねぇ。

 というのも、遠目から見ても分かる。

 見る奴見る奴、目に映る全ての奴らが、『ドロワーズ』はいてやがる……!

 国名がそうだからって、全国民にそれを強要するたぁ、正気の沙汰じゃねぇ!

 分かってンか!?『ドロワーズ』は、かぼちゃパンツとは違げぇンだぞ!?

 下着だ!かぼちゃパンツはズボンだけど、『ドロワーズ』は下着なンだぞ!?

 しかも、男まではいてやがる!きめぇンだよ!!

 こんな中に忍び込んでも一発でばれる。


「ケイ、この国は無視すンぞ」


「はい、お姉様」


 異論は出なかった。

 しかし、魔の森で時間を掛けた事もあって、暗くなってきた。


「しゃーねぇな。今日は野宿すっか」


 本当はドロワーズ王国で宿を取る計画だったンだが……狂っちまった。


「お姉様、『テコージ』はお持ちですか?」


「あン?テントじゃなくて?」


「はい、『テコージ』です」


 なンだその、テントとコテージを合体させて二で割ったような名前は。

 つか、この世界、そういう名前多くね?

 気のせいか?


「今初めて知ったンだから、分かンよな?」


「ふふ、ですね。それじゃ、出しますねお姉様」


 ボン!


 煙と共に、四角い家が現れた。


「な……ンだこれ!?」


「お姉様も、驚く事ってあるんですね?」


 当たり前だろ。

 こちとら、この世界に来てから驚きっぱなしだっつの。

 ケイの事も含めてンぞ!


「さぁ、どうぞお入りください。私の簡易家へようこそお姉様」


 言われるがまま中に入る。

 中は木で出来ているようで、少し空気が爽やかな気がする。


「へぇ、ケイにしては良い家持ってンじゃン?」


「あうう、私にしては、が余計ですよう」


 そう言いながら、台所?に行くケイ。


「なにしてンの?」


「ご飯の用意をしようと思いまして。お姉様、お腹すいてないですか?」


「あー、けど、『アイテムポーチ』ン中に、色々と入ってるけど?」


「それは、いざという時の為に置いておきましょう。今は、私が作る食事をお召し上がりください。あ、その……私が作った食事は食べられないと仰るのでしたら、無理にとは……」


 なンて泣きそうになりながら言うケイ。

 はぁ、ったく。


「あンな、私はそこまで性格悪くねぇかンな?食べる、食べるよ!」


「はい!ありがとうございますお姉様!」


 とびきりの笑顔でそう言うケイに、からかわれていたと気付く。

 良い度胸してやがンな!

 料理をしているケイの後ろに回って、腰を左右からつついてやった。


「わきゃ!?」


 スコーン!


 包丁が、飛んでった。


「……ごめン」


 私は素直に謝ることにした。

 壁に突き刺さった包丁をとってきて、ケイに渡す。


「もう、お姉様も子供っぽいところがあるんですね?」


 くっ、言い返せねぇ!

 リビングには雑誌が置いてあったので、それを読む事にした。

 この世界にも漫画はあンだな。

 パラパラとめくったら、見た事のある題名で吹きだすところだった。

 おい、これ作ったの召喚された奴だろ!?

 原作者いねぇからって、パクってンじゃねぇぞ!?

 まぁ、面白いけどさ……。

 そのまま熟読していたら、ケイから呼ばれて食事にする。

 悔しいけど、私よりケイは料理が上手い。


「まだまだありますから、おかわりしてくださいね!」


「私はそんな大食いじゃねぇンだけど……」


「そんなぁ~……」


 くっ!悲しそうな顔すンじゃねぇ!


「分かった!分かったよ!食べるけど、無理なもンは無理だかンな!?」


「はい!」


 そう笑顔で言うケイが、悪魔に見えた。

 ぐっ、食いもんが喉から出そうだ、明らかに食いすぎだろ……。


「お姉様ー!お風呂湧きましたよー!どうぞですー!」


 どうでも良いけど、お前は新婚の嫁かと言いたいンだけど。

 とりあえず、風呂場へ。

 白い、湯気が凄い。

 風呂場が湯気でなンも見えねぇ。

 とりあえず服を脱いで、脱衣所に置いておく。

 一歩中に入ると、あったかい湯気が体を包む。

 一番風呂っていつも風呂場が冷たかったンだよな。

 兄ちゃんは気を使って、いつも一番を私にくれンだけどさ。

 けど、この風呂場は最初からあったかい。

 さて体洗うか、と思って座ったら、後ろから柔らかいものに包まれる。


「ケイ、言い訳を言うなら今のうちだかンな?」


 若干の殺気を込めて言う。


「だ、だって、お背中流そうと思って……」


「そういうサービスは男にやれぇぇぇぇっ!!」


「ひぃぃぃんっ!お姉様だからですよう!?」


「良いから、その脂肪の塊をのけろぉぉぉっ!!」


「ぎにゃぁぁぁぁぁっ!!絞らないでぇぇぇぇ!?」


 風呂場に、私の叫び声とケイの泣き声が木霊した。

 そして、風呂から上がる。

 中々良い湯だった。


「ひんひん、お姉様のお背中を流そうと思っただけなのに」


「そのでっかい脂肪の塊で私の顔を包んどいて、何を言ってやがる」


「ひぃん……お姉様が座ってると思わなかったんですよう」


 こいつ、見た目清純なだけに、泣かれるとつい許しちまうんだけど、これもこいつの手だとしたら恐ろしいンだけど。


「はぁ、そンでベッドは一つか。私はソファーで寝っから、ベッドはケイが使えよ」


「そんな!ベッドはお姉様がお使いください!!」


「なンでだよ。ケイの家だろ、ケイがベッド使え」


「ダメです!お姉様がベッドを使うんです!これは決定事項です!」


「わ、分かったよ。なンでそんな事に熱くなってンの?」


 そう言って、私はベッドで眠った。

 翌朝、ケイが私の上で寝ていたので、その脂肪の塊を雑巾搾りしてやったら飛び起きた。


「ひんひん、お姉様の愛が段々と激しくなってきました……」


「愛じゃねンだよ!!どっちかっつーと、憎しみだかンな!?」


 その巨乳へのな!

 私のはちょっと慎ましいだけだっ!

 未来があるンだよ!

 そしてまた、ケイに乗って進む。

 次の国は魔大陸に近いだけあって、物々しい城壁だった。


「この国も、普通には入れそうにねぇな」


「ですねー。お姉様、もうまっすぐ行っちゃいます?」


 そう言うケイに、私もそうするかと思った。


「そうだな。もう目と鼻の先だし……行くかケイ!」


「はい!お姉様!」


 そうして、二つ目の国もスルーして、魔大陸へとケイを走らせる。

 数時間、少しずつ変わっていく景色を眺めながら、思う。

 道中、魔物なんて居なかった。

 普通、侵略を受けてンなら、もっと物々しいイメージだったンだけどな。

 そして、聖大陸と魔大陸の境目に着く。


「お姉様、ここを一歩越えれば、魔大陸マレイシアです」


「そっか。ンじゃ行くぞ」


「軽いですねお姉様!?」


 ケイから降りて、歩く。

 その瞬間、何かが体ン中を走り抜けた。

 なンだぁ?


「ケイ、今の」


「はい、『魔王』様に、知られたと思います」


 へぇ、そういう風になってンの。


「さて、私との旅もこれで終わりだなケイ」


「え?」


「私は『魔王』を探す。ケイは家族の元に帰る、だろ?だから、ここまでだ」


 そう言って、頭に手を置いて、微笑む。


「なンだかンだ、世話になったな。後は家族と幸せに暮らしなケイ」


 そう言って、私は歩きだす。

 すると、ケイが抱きついてきた。


「おいケイ……」


「お姉様!『魔王』様の居場所、私は知ってます!というか、私の帰る場所、『魔王』様が居る所なんです!黙っててごめんなさい!」


「ケイ……」


「お姉様なら……『魔王』様にお会いしても、きっと大丈夫だって、私確信したんです!だから、だからっ!私と一緒に、『魔王』様と会って頂けませんか!?」


 そう必死に言うケイ。

 ったく、そんな涙目で言われたら、私が断れねぇ事知ってやがンな?


「分かった、分かったよケイ。そもそも、私は当てもなく探すつもりだったンだ。それを案内してくれるってンなら、こっちからお願いしたいくらいなンだよ。だから……頼ンで良いか?ケイ」


「お姉様……はいっ!!」


 こうして、私はケイの案内の元、『魔王』の元へ進む。

 そこで、待望の人と、出会う事になる。

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