第27話 魔王と名案

 目が覚めた。

 見慣れない天井。

 そうか、俺は……。


「お目覚めかテリー。気分はどうじゃ?」


 すぐ横で、ミレイユが寝転がっていた。

 その艶めかしい色気に当てられて、顔が熱くなった。

 落ち着け、ミレイユの裸は何度も見たじゃないか!

 いやそういう落ち着き方もどうかと思うんだけど!


「どうやら元気そうじゃな」


 ミレイユの視線が下半身を凝視している。

 クスッと笑うミレイユに、顔が更に熱くなる。

 いやぁぁっ!!そこ見て判断しないで!?起きたばかりは生理現象なの!本当なの!


「スラリン、テリーが目を覚ましたのじゃ。食事の準備はできておるか?」


「はい~。今お持ちしますね~」


 それから二人と食事をして、またまったりとした時間を過ごしていた。

 そんな時、ビリビリとした衝撃を感じた。


「ふむ……この大陸に、ついに『勇者』が来たようじゃな』


「!!」


 今の振動は、それを知らせるものだったのか。


「まぁ、まだ来たばかりのようじゃし、場所も遠いが……」


「それは、やっぱりミレイユの命を狙って……?」


「フ……当然じゃろうな」


 ミレイユは、悲しそうに笑った。

 俺はその姿を見て、とても居た堪れない気持ちになる。

 ミレイユは、人間を滅ぼそうとなんてしていない。

 言い方は悪いが、引きこもりみたいな生活を好んでる。

 家でゴロゴロして、本を読んだり好きな事をして過ごす。

 そんな、誰もが望むような事を、毎日したいだけの女の子だ。

 それなのに、人間の勝手な都合で、その命を狙われている。

 しかも、今回は自衛の力も無い。

 不安だろう、怖いだろう……それを払拭したくて、俺を召喚した。

 しかも、俺が読んできたラノベの糞な王族達とは違い、召喚した俺の事を本当に気遣ってくれていた。

 召喚して、後は知らん。

 そんな話ばかりだった。

 だと言うのに、ミレイユは……自分の命を削って、俺を帰す為の繋がりを維持してくれている。

 俺が優しかったら、そんな事はもう良いからって言えたのかな……。

 でも、俺は妹を残して、この世界に残れない……。

 俺の一番大切な、宝物なんだ。

 いつか結婚だってするだろう。

 その時に涙を流しながら、妹を頼むって言うのが、俺の夢だ。

 妹の花嫁姿だって見たい。

 もう祝ってあげられない、父さんや母さんに変わって、俺だけでも、盛大に祝ってやりたい。

 妹が好きになった人なら、俺は無条件で信じられる。

 俺なんかより、よっぽど人を見る目があるからな、玲於奈は。

 今頃、どうしてるかな……玲於奈は掃除が苦手だからな……家がぐちゃぐちゃになってそうで怖いな……。

 頼むから、服を下着ごと洗濯機に纏めて入れたりするんじゃないぞ……?

 色が剥げる服だってあるんだからな!?

 それからそれから……!


「て、テリー?」


 しまった、妹の事を考えていたら自分の世界に入ってしまっていた。

 しかし、ここでそれを言ったら、ミレイユがまた悲しむ。


「ごめん、ちょっとぼーっとして」


「大丈夫か?まだユキに殴られた後遺症があるのではないか?」


「あう~、申し訳ありませんミツルギ様~」


 ミレイユが心配して、スラリンが謝ってくる。


「ち、違う違う!もう全然平気だから!それより、『勇者』だったな。どうするんだ?」


「いや、特に何もせぬよ。この魔王城に辿り着くまでは、こちらからは何もせぬ」


 え……そんな受け身で良いのか?

 『勇者』を成長する前に倒すとか、しなくて良いんだろうか?

 一応、聞いてみるか。


「なぁ、こんな事を言うのもあれなんだけど……『勇者』が成長する前に倒してしまえば良くないか?成長するのを待ってるのか?」


「ミツルギ様、なんだか『魔王』様みたいですね~」


 ぐはぁっ!?


「テリー……お主、そんな非道な事をよく思いつくの……」


 ぐふぅっ!まさか『魔王』に言われるなんてっ!?


「ふふ、実はですねぇミツルギ様。それ、私も提案した事があるんですよ~」


「え?」


「でもですね~、それは召喚された『勇者』達を早く殺してしまうという事。つまり、次の『勇者』がまた召喚されてしまう事になるんです~。何が言いたいか、分かります~?」


 それはつまり、異世界人を次々と殺す、という事に繋がるわけか……。


「……ああ、分かるよ。でも……!」


 続きを言葉にする事はできなかった。

 ミレイユが、悲しそうな表情をしていたから。


「妾はな、できれば人を殺しとうない。じゃから、待つ。『勇者』達がここに辿り着く、その時まで。そして、『女神』より与えられた、『魔王』としての『役割』を果たそう」


 え……?今、なんて?


「『女神』に与えられた『役割』って、どういう、事だ?」


 ミレイユが、しまったという顔をするが、もう遅い。

 俺は、聞いてしまったんだから。


「うむ……この世界はな、女神によって創られた世界じゃ。妾はその中で、『魔王』という職業を与えられ、その『役割』に徹しておる、というわけじゃな」


「ミレイユ様も、ミツルギ様と同じ……異世界のお方、なんですよ~」


「なっ!?」


 衝撃すぎて、言葉が出なかった。

 そんな、ミレイユも、元は!?


「じゃからな……妾は、できれば人を殺したくない。じゃが、妾の『役割』が、それを許さぬ。なら……せめてもの抵抗として、妾は待つ事を選択したのじゃ。それに、妾も命は惜しい。じゃから、お主を召喚したのじゃ、テリー」


「ミレイユ……。そっか、ありがとう、話してくれて」


 全ての元凶は、女神の仕業かっ!


「なぁ、女神ってのはどこに居るんだ?」


「「!?」」


 俺は、女神に話をつけに行こうと思った。

 こんな事、知った以上放っておけるか!


「聖大陸の中央、ダマス神殿じゃ。じゃが、会う事は難しいと思うぞテリー」


 ダマス神殿って、名前がうさんくさいなっ!!


「それでも俺は……」


「ミレイユ様を置いて、ですか~?」


「!!」


 そうだ、ミレイユの傍を離れれば、あの苦しみをずっと味あわせる事になる!

 かと言って、ミレイユを連れて行くわけにはいかない。

 くそぉ……結局俺には、何もできないのかっ!


「ありがとうテリー。妾の為に考えてくれる事は嬉しい。じゃから、そう悔しそうな顔をするでない」


「そうですよ~。人間の、それも『勇者』が味方でいてくれるなんて、今までは無かった事なんですよ~?きっと、なんとかなりますよ~」


 ミレイユもスラリンも、俺の事を想って優しく言ってくれる。

 自分達の方が、よほど辛いだろうに。

 何か、何かミレイユの為にしてあげられる事は無いのか?

 俺のレベルを上げる、それも良い。

 だけど、それだけじゃ駄目だ。

 今回の襲撃から守ったら、俺は帰れるのか?

 ああ、帰れるだろうさ。

 ミレイユは帰してくれる。

 それで良いのか?ダメに決まってるだろ!

 俺は、それで帰る事は出来ない。

 俺はミレイユにスラリン、ユキを守ると約束した。

 それは、一時的なものじゃない。

 だけど、ずっと居る事もできない。

 なら、何か永続的に皆を守れるような……何か、何かないか!?

 魔王ダンジョンで俺はレベル上げを……そうだ!ダンジョンだ!!


 ガタッ!


 俺は椅子を押しのけ、立ち上がった。

 ミレイユとスラリンが、俺を見上げる。


「ダンジョンだ!魔王城の周りに、ダンジョンを創ろう!」


「「え?」」


 二人は、きょとんとしていた。

 俺は名案を浮かんだとばかりに、二人に説明をするのだった。

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