第21話 魔王と御剣の妹・変化

「ケイ、なにしてンの?」


「あ、お姉様!終わったのですか?」


 地面にのの字を描いているケイに答える。


「ああ、美味しく(経験値を)頂いてきたよ」


「そ、そんなお姉様!?そういう事なら!わ、私も混ぜてほしかったですぅー!!」


 あン?そういう事ってなンだ?


「うぅ、私も男性の精力、欲しかったです……」


 ……。

 …………。

 はぁぁぁぁっ!?


「ちょ、何言ってンの!?せ、精ってケイ、意味分かってンの!?」


「はい~?だってお姉様、美味しく頂いたって……」


「経験値をだよ!分かれよ!?別の分かり方してンじゃねぇよ!?」


 私が大声で説明したら、顔が真っ赤に変わった。


「あ、あ、あ、あ、あ、あああああっ!そ、そうですよねー!私ったらついうっかりー!?」


 うっかり、だと?

 こいつもしかして、見た目清楚なくせに、中身はド淫乱なンじゃねぇだろな?

 捕まったのも、もしかして……。


「そ、それよりお姉様!次の国へ行きましょうよ!」


 話をあからさまに、はぐらかそうとしてやがンな。

 まぁ良いか、私も他人にとやかく言うつもりはねぇかンな。

 こいつが見た目清楚系獣耳巫女服の実は中身淫乱ビッチだったとしても、私には関係ねぇこった。


「あー……そういや考えてなかったンだけど、ケイのすばやさが低いから、私についてこれねンだよな……」


 あの時見たケイのすばやさは、確か2000手前くらいだったはず。

 今の私のすばやさは34500、10倍以上差があンからな。


「ご安心くださいお姉様!『変化へんげ』!!」


 ボンっ!という音と共に、煙が舞い上がり、煙が晴れたそこには、デッカイ狐が居た。


「ケイ、それ『変化』じゃなくて、元に戻ったンじゃねぇよな?さっきまでの姿が、『変化』なんじゃねぇの?」


 気になったので、一応突っ込んでおく事にした。

 魔狐族(希少種)ってあったかンな。

 そっちが本体じゃねぇの?って思ったわけだ。


「ぎくぎくぅ!?な、何を仰いますお姉様!私は『変化』のスキルが使えるんですよぉ!」


 スキル一覧まで見えたけど、そんな『スキル』は無かった。

 ああ、そういや一覧に『隠蔽』ってあったな。

 歳も、こいつは私には視えないと踏んでやがった節があンし……。

 こいつもまだまだ隠してるトコがありそうじゃン。

 ま、どうでも良いか。

 今重要なのは、こいつが乗り物として使えそうだって事だかンな。


「ま、どうでも。それより乗って良ンか?」


「ああ、細かい事は気にしないお姉様、素敵ですぅ!はいっ!この雌狐めに是非お乗りくださいませぇ!!」


 乗りにくい事言うンじゃねぇよ……。

 とりあえず、またがる。


「あふんっ……!お姉様のお尻の体温を、私感じてしまいますぅー!!」


「黙ってらンねぇのかお前は!!」


「はうぅ!お姉様のぬくもり、しゅごい……!」


 私は黙って降りた。


「はっ!?ごめんなさいごめんなさい!もう言いません、言いませんからぁ!!」


 必死に言ってくるケイに、仕方なくまた乗る。


「次言ったら、その尻蹴飛ばすかンな?」


「本当ですかぁ!?」


 ……なンで喜んでンの?


「……良いから進めケイ。昼までに次の国に着かなかったら、お仕置きだかンな」


「は、はいぃぃっ!!全速力で参りますぅ!!」


 と言って、いきなり猛スピードで走りだすケイ。

 私はいきなりのスピードに、振り落とされそうになった為、ケイにしがみ付く形になった。


「なンでいきなりトップスピードになれンだよ!?」


「お姉様の厚い胸板を感じますぅー!!」


「絞め殺されてぇンかケイー!!」


「ひぃん嘘ですぅー!!」


 やかましいが、スピードは中々だ。

 私の全速力で走った時と、体感変わらないように感じる。

 こいつ、本当にすばやさ2000前なのか?


「なぁケイ、実は私はこの世界にはきたばかりでさ、色々教えて欲しい事があンだけど」


「お姉様は異世界人だったのですね!なんでもお申し付けくださいお姉様!おはようからおやすみまで、このケイが全て優しく手取り腰取り足取り教えて差し上げますぅー!!」


「別にそれはいらねぇンだよ」


「そんなぁー!?」


 顔は見えねぇンだけど、本気で落ち込んでやがるな。

 そんな事してくれンのは兄ちゃんだけで良いんだよ。


「私が召喚された国では、簡単な事しか教えてくンなくてさ。まず、『魔王』が攻めてきたってのは嘘だろ?」


 私はこれまでの事から、そう予想している。

 ケイはこう見えて年齢が1001歳だ、色々と知っているだろう。


「『魔王』様が?そんな事ありえませんよぅ。『魔王』様は、とてもお優しいお方です……私の両親も、『魔王』様には良くして頂いて……人間の世界の『女神』様のような存在ですよぅ」


 女神?そういや、あの国は女神を信仰してるって言ってたな。

 信仰って、実在するかどうか分かンないモンをありがたがるってイメージだったンだけどな。

 神様なんて、信じねぇンだよ私は。

 助けてって願ったら助けてくれンのか?

 なら、あの時助けてくれたのは、兄ちゃんじゃなくて神様だったンじゃねぇの?


「えっと、お姉様は称号ってありますぅ?」


「称号?ああ、確か戦乙女って……うわっ!?」


 急に立ち止まりやがったせいで、踏ん張りきれずに前に飛んで落ちた。


「ケイ!テメェ!良い根性だな!!」


「あわ、あわわわわ……!?」


 なんか、滅茶苦茶震えてンだけど、この称号そんなヤバいもンなのか?


「どうしたんだよ、ケイ」


「お、お姉様は、ヴァルキリー……『女神』様の使徒(しと)だったんですぅっ!?」


「あンだよ、使徒って」


「そ、そうですよね、召喚されたんでしたねお姉様は。えっと……称号には、その人の持つ先天的な能力から付与される物もあれば、後から付与される物もあるんですけど……」


「私の戦乙女は間違いなく後者だな」


 戦争なんてした事ねぇし。

 護身術だって、習った事を試すのはいつも兄ちゃんだったし。


「は、はい。称号は、成長ステータスに影響します。例えば、私の退魔乙女は、まりょくに凄い成長レベル補正が加わります。表記は元のままなんですけど、例えばレベル1上がって10上がるステータスが、称号によって110上がったりするんです。なので、基礎成長レベル表記が他より低いのに、他より数値が高ければ、それは称号による補正効果によるものという事ですぅ」


 成程ねぇ。

 私は成長レベルがほとんど一緒だったからか、あんま違いねぇケド……。


「その、ですね。驚かないでくださいね。戦乙女は、『女神』様直属の使徒となります。それはつまり、『女神』様の庇護下にあると同義なんです。『女神』様のお力の一部を、授かれるんです。それは、異例の全ステータスに加護。こんな効果を得られる称号は、他には『魔王』様からの加護を得られた方くらいだと思いますぅ……」


 ふぅン……。

 なンでその『女神』が私を見初めてくれたンかは分かンねぇけど……貰えるモンは貰っとくよ。


「にしても、『魔王』から加護ってのは貰えるモンなの?」


 『魔王』って、悪逆の限りを尽くす存在じゃねぇの?人間とか抹殺対象っしょ。

 あ、魔物にならあり得るンかな?


「……過去に一人だけ、居たそうです。でも……その方も、『魔王』様に殺されたそうですけど、真実は分かりません。あのお優しい『魔王』様が、加護を与えても良いとまで思った方を、殺すなんて……どうしても、思えなくて……」


 そう言って俯くケイ。

 『魔王』か、どうやら私の知ってるイメージとは、大分違うみたいじゃン?


「そっか、分かった。あンがと。あと聞きたいのは……と、それより移動しながらにすンぞ」


「あ、はいっ!申し訳ありませんお姉様!」


 もう一度ケイに乗って、進み始める。

 同じ轍は二度踏まない。

 背中の肉を握りしめて、反動に備えた。


「あふぅん!?お姉様に掴まれてるぅ!?」


 こいつ、何をしても喜びやがる。

 変態か。


「そンでもう一個。職業ってのは、途中で変わったりすンの?」


 そう、最初見た時は『勇者』と『聖女』だったンだが。

 なんか、さっきの奴らを始末してから、『聖女(暴)』になってンだよね。


「え?その、職業は神殿で、『女神』様に変えて頂かないと……基本は変わらないかと思いますけど……」


 成程、『女神』は変えれンだな?

 つまり、私の行動をその『女神』は見ていて、殴る蹴るしてる私を見て、変えやがったって事か?

 良い性格してやがンな!?

 是非一度会って、話をしてみてぇと思ったよ!


「も、もしかして、お姉様、変わった、んです?」


「あン?ああ、『聖女』ってのが、後ろにかっこして暴ってついたンだよ」


「ぶふぅっ!!」


 ケイが吹き出した。

 まぁ気持ちは分かンけど。


「お姉様が、『聖女』!?」


 あ、そっちに驚いちゃった系か。

 良い度胸だコノヤロウが。

 私は背中を両手で握りしめる。


「アイダダダダダ!?お、お姉様、ジョーク、ジョークですぅ!?」


 うるせぇ、吹き出すのはジョークとは言わねぇ!

 こうして、ケイから色々と話を聞きながら、次の国へ向かった。

 ま、助けて良かったかもしンねぇな。

 情報も手に入ったし、なにより自分でなンもしなくて良いのは楽だかンな。

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