第18話 魔王とスラリン

「ミツルギ様~、特製ジュースは如何です~?」


「あ、うん、頂くよ」


「ミツルギ様~、肩こってないですか~?」


「だ、大丈夫、だよ?」


「そんなこと仰らずに~。私が全身を使って解してあげますからね~」


「あふぅっ!?こ、これはしゅごい……!?」


「ミツルギ様~」


「ミツルギ様~」


 な、なんなんだ!?スラリンが異様に俺に絡んでくる!?

 何を言っても、すぐに何か俺にしようとしてくる!

 いや、悪い事じゃないんだけども!?


「テリー、スラリンになんぞしたのか……?」


「い、いや、昨日ずっとスラリンと居たのミレイユだよな!?」


「あー、それもそうじゃな……(途中までHP1で朦朧としておったから、良く覚えておらぬとは言えぬ……)」


 昨日、ユキとの件が終わった後、ミレイユお姉様のHP大丈夫なのか?って言われて、慌てて戻った。

 だけど、部屋に入ったら追い出された。

 好きにしてこいって。

 でも、気付いてしまったからには、そんな事できない。

 だから、外に出た振りをして、扉の前で座ってた。

 ぎりぎり、ミレイユに俺の『パッシヴスキル』が届くはずと思って。

 で、座ってたらユキが来たから、二人でトランプをして遊んでた。

 ユキは色々と遊び道具を持っているらしくて、その中の一つだ。

 ゲーム機とかスマホを買う前は、よく妹とトランプやUNOしてたからな。

 まぁ、HPが回復するようになっただろうから、俺がすぐ近くに居る事をミレイユは気付いていただろうけど……外には出てこなかったから、黙認してくれたんだろう。

 俺が昨日した事なんてこれくらいで、特にスラリンと何かしたわけじゃない。

 というかスラリンと一対一では昨日話していないし。

 風呂は相変わらず一緒なんだけど……こればかりは何度入っても慣れないな……。

 そういえば昨日の風呂は、いつもなら離れた場所でぷかぷか浮いてるスラリンが、俺の横に居たような……。

 分からん、スラリンに何が起こったんだ?


「ミツルギ様~」


「ええいスラリン!?一体どうしたのじゃ!?」


「どうしたんですか~、ミレイユ様~?」


 今も俺の背中に寄り掛かるようにしながら、ミレイユに話しかけるスラリン。

 いや、普段こんな態度じゃないよね?


「どうしたもこうしたもあるかっ!スラリン、一体何のつもりじゃ!?」


「ふふ、流石はミレイユ様~、気付かれてしまいましたか~」


 スラリンの目が怪しく光った、気がする(後ろだから視えない)


「う、む?」


 あれはミレイユ絶対分かってないぞ。


「実はですね~、ミツルギ様にぃ、この世界に永住して貰う為に~、私の事を好きになってもらおうと思いましてぇ~」


「「な、なんだってー!?」」


 ミレイユと言葉が重なった。

 いや、なんのコントだよ。


「な、何故そう思ったのじゃ?」


「だってぇ、ミレイユ様ぁ、昨日も苦しそうだったじゃないですかぁ~。ミツルギ様もぉ、戻ってきてはくれましたけど、途中まで離れてましたよねぇ~?」


 グサッグサッ


「うっ!ぐっ!?」


 見えない矢が俺の心臓を狙い撃つ。

 すみませんでしたぁー!!

 俺は心の中で土下座した。

 ミレイユは俺の事を考えてくれる、優しい奴だ。

 自分が苦しくても、俺を優先してくれる。

 それが分かるから、スラリンの言葉が突き刺さる。


「それが何故スラリンを好きになってもらう事に繋がるのじゃ……」


 ミレイユが若干呆れながらも、質問する。


「だってぇ、ミツルギ様がぁ、この世界に居たいって思ってくれたらぁ、ミレイユ様は召喚の代償を支払わなくてよくなってぇ、お二人とも自由に動けるようになるんですよぉ~?ミレイユ様、いつもされている園芸、ミツルギ様がいらしてから、一度もご自身で行われていませんよねぇ~?あんなに大好きで、いつも欠かさず庭園に向かわれてらしたのにぃ~」


「そ、それは……これ以上、妾の都合にテリーを巻き込むわけにはゆかぬじゃろう……」


 俺は、また頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けてしまった。

 分かっていた、つもりだった。

 でも、つもりなだけだった。

 ミレイユは、俺の為に自分の行動を制限していたんだ。

 俺を召喚したという負い目から……。

 くっ……でも、ごめん……。


「それは……できないんだ、ごめん……ミレイユ、スラリン……」


 俺は下を向いて、言う。

 そう、俺には、できない。

 ずっと、この世界に居る事は……。


「……やっぱりぃ、この世界は、好きになれませんかぁ~?」


 スラリンが、落ち着いた声で聞いてくる。

 俺は、なんとか声を絞り出す。


「元の世界に、さ……妹を、残してる。俺達の両親はもうすでに他界してるし、生活していく為の備蓄もあるから、当分の間は大丈夫だと思うけど……でも、ずっと放っておく事は、できないんだ。俺の、たった一人の……大切な、妹だから……」


 ミレイユとスラリンの事は、俺も好きだ。

 だけど、妹の事を斬り捨てる事だけは、できない。

 例え他の事は捨てれても……妹だけは……。


「そうですかぁ~……でもでも~、それなら妹さんを、こちらの世界に召喚できたら、考えてくれます~?」


「それは、もし妹がこの世界に居ても良いって言ってくれるなら……って、それはダメだ!妹には妹の交流があるし、その全てを捨てさせて、こちらに無理やりは絶対にダメだ!」


「そう、じゃよな……すまぬ、テリー……お主にも生活や交流があったじゃろうに、妾は我が身可愛さに、お主を召喚した……」


「あ、違っ!俺はもう良いんだ!俺は自分の意思で、ミレイユを守るって約束したんだから!だけど、妹にもそんな決断はさせられないっていうか!?」


 慌ててミレイユをフォローする俺に、スラリンが笑いだす。


「あはは、ミツルギ様は面白いですね~。分かりました、でも諦めませんよ~?」


「へ?諦めないって、何を……」


「今は~、私達より妹さんの方が、比重が大きいからですよねぇ~?ですからぁ~、ミツルギ様の想いが、私達の方に天秤が傾くように~、頑張りますねぇ~?」


「え、えぇぇぇっ!?」


 なにそれ、なんでそんなポジティヴなの!?

 いや俺絶対変わらないよ!?


「ふむ、テリーに妾達の事を好きになってもらう、という点は良い考えじゃな。それでテリーがこちらに永住したいと思うかどうかは別としてもじゃ、その案自体は悪くない」


「ちょ、ミレイユも何言ってるの!?」


「でしょでしょ~、ミレイユ様ならそう言ってくれると思ってました~」


「うむ、名付けてテリー誘惑大作戦じゃな!」


「お~です~!」


 その作戦を、本人目の前で言ったら破綻すると思うんですけど!?


「そうと決まれば、妾もスラリンのようにすれば良いのか?」


「そうですね~、ミツルギ様を誘惑してしまいましょ~!」


「ま、待って待って!そういうので好きになるって、なんか違うでしょ!?それただの体の関係みたいじゃないか!?」


「ミツルギ様のえっち♪」


「テリーのえっち?」


「ぐはぁぁっ!?」


 自爆したぁ!というかミレイユはその言葉の意味を分かって無さそうだけど!

 スラリンは完全に遊んでるな畜生!!

 顔が熱くなるのを感じた俺は、話題を変える為に何かないか考える。

 そうだ!


「き、今日は魔王ダンジョン行くよな!?な!?」


「ミツルギ様~……」


 スラリンが悲しそうな顔をするけど、俺は目を逸らす。

 だって、レベル上げは大事だからね!


「ふむ、それもそうじゃな。スラリン、二人きりでどうすればテリーに好いてもらえるか、教えてほしいのじゃ」


「分かりましたぁ~。このスラリン、一命を賭してミレイユ様にお伝えいたしますぅ~!」


 重い、重いよ!!

 そんな命を賭けるような話じゃないよ!?

 俺は、魔王ダンジョンに行っても逃げられないのかもしれない。

 ミレイユの事もスラリンの事も好きな俺だけど……絶対に俺は妹の元に帰るからなー!?

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