第15話 魔王と城下町へ行く・後編

「さてテリー、そろそろ街へ戻るがよいか?」


 そうミレイユに言われて同意する。

 息も整ってきたし、今度は歩いて色々と見て周ろう。

 そう思って歩き出そうとしたら、なんかミレイユが俯いている。


「どうしたんだミレイユ?行かないのか?」


「いや、その……手を、繋いだまま行くの、か?」


 言われて気が付く。

 俺、ミレイユの手を握ったままだったー!?


「ご、ごめん!!俺、気付いてなくて、それで!?」


「い、いや、妾も別に構わぬのじゃが、なんだか照れくさくてじゃな……」


 俺は自分がドキドキしていながらも、ミレイユの言葉に少し驚いていた。

 あの風呂場で裸を見られても堂々としているミレイユが、手を繋ぐ事を照れると言うなんて。

 なんだかおかしくなって、俺は笑ってしまった。


「な、何が可笑しいのじゃ!?」


「あはは、ごめんごめん。ミレイユに恥ずかしい事なんて、ないと思ってたからさ」


「妾とて恥じらいくらいはあるわ!」


「いやだって、風呂場で裸を見られても、恥ずかしそうじゃなかったし……」


「?そんなの当たり前じゃろう?妾の体に見られて恥ずかしい所などないのじゃからな!」


 ああ、うん、そういう……。

 そっか、ミレイユはそういう判断なのか。

 教育係のスラリンには後で説教が必要だな。



☆☆☆☆☆



「ハックシュン!」


「スラリン様、珍しいですね……?」


「ずびっ……うぅ~、これはミツルギ様がぁ、何か失礼な事を考えた証拠ですぅ~」


 そのあんまりな物言いに苦笑してしまう部下達だった。


☆☆☆☆☆



 そして、俺とミレイユは街へと戻る。

 あちらこちらで、魔物達が好きなように過ごしている。

 なんていうか、殺伐とした場所を想像していただけに、拍子抜けだ。

 これじゃ、人間達の街と、あんまり変わらないじゃないか。


「「「ミレイユ様~!!」」」


 そこへ、色んな姿をした魔物の子供達だろうか?が、近寄ってきた。


「うむ、息災にしておったか?」


「「「はいっ!!」」」


 元気よく返事をする子供達に、ミレイユも微笑む。

 慕われてるんだな。

 それを見て、つい微笑んでしまう俺に、子供達の視線が移る。


「ミレイユ様、コイツが新しい奴隷ですかー?」


「ぶふぅっ!!」


 奴隷!?奴隷と言いましたよ今!?


「ふふ、そうではないが、そうとも言えるな?」


「「「奴隷ー!!」」」


「ちょ、ミレイユ!」


「奴隷の分際で、ミレイユ様を呼び捨てにするなんて、斬首してやるー!」


「「「斬首だー!!」」」


 そう言って、子供達が武器を手にする。


「ちょ、待っ!?それシャレにならないんだけど!?」


「大丈夫じゃテリー、そのまま立っておれ」


「そのままって、ミレイユ!?」


「「「とりゃぁー!!」」」


 ガギン!ガギン!ガギン!!


 凄まじい勢いで剣やら鈍器やらで殴り掛かられるが、全然痛くない。

 そうか、見た目が本物に近いだけで、玩具なんだな。

 そうと分かれば怖くない。


「ははは!どうした子供らよ!そんな程度じゃ、俺に傷一つつけられぬぞー!」


「くっそー!奴隷のくせに生意気だー!」


「皆、本気でやっちまえー!」


「「おおおおーー!!」」


 子供達が尚も飛び掛かってくるので、俺は遊んでやる事にした。

 特撮番組で怪人役をするみたいなもんだな!

 まぁ、やられるつもりはないんだけど。

 ミレイユもそれを見て、微笑んでいた。



「「「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」」」


 1時間くらいだろうか、相手をしていたら、子供達が疲れて座り込んでいる。


「くっそぉ、こいつ強ぇぇ!!」


「流石、ミレイユ様の奴隷だな……!」


 いや、そろそろ奴隷ってのを改めてくれませんかね……。


「ふふ、分かったか?テリーは妾を守る為に来てくれたのじゃ。その実力は折り紙つきじゃぞ?」


「「「はいっ!ミレイユ様!!」」」


 うん、相変わらずミレイユに対しては従順だ。


「おい奴隷!ミレイユ様の事、ちゃんと守れよな!」


「ん?おう、任せろ」


「男と男の約束だぞ!俺達もミレイユ様を守れるくらい、もっと強くなるから!またなテリー!行こうぜ皆!!」


「うん!ミレイユ様、またです!」


「「またですー!!」」


「うむ、両親の言う事をきちんと聞くのじゃぞ」


「「「はーい!!」」」


 そう言って、子供達は駆けて行った。

 というかあの子、俺の事最後に名前で呼んだな。

 なんとなく嬉しくなった。


「なぁミレイユ、玩具なら玩具って言っておいてくれよ。本気で焦ったじゃないか」


「うむ?あれは本物じゃぞ?」


「え"」


 思わず声が裏返っちゃったよ。


「じゃが、武器のこうげき力を足しても、テリーのしゅび力を突破できぬ事は分かっておったからな。周りの者達も、お主の力を測りかねておったし、良い機会と思ってな」


 気付けば、まるで見世物のように、大勢の魔物達に囲まれていた。

 聞こえる声は、俺に対して好意的だった。


「流石はミレイユ様の護衛だな。あれだけの実力があるのに、あの子供達を一切傷つけずに勝ったぞ」


「ああ。それに出会ったばかりの子供達を邪険にせずに、相手をしてあげていた。良いお方だな!」


 なんか、聞いてると恥ずかしくなってきた。

 ミレイユはというと、そんな話を聞きながら満足げに笑っている。

 まったく、敵わないなミレイユには。

 それから城下町を周ったが、皆優しくて良い魔物達だった。

 ……言葉、間違ってないからね?

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