第14話 魔王と御剣の妹・脱出

 マレッジさんから色々な話を聞いて感じた事。

 それはうさンくせぇ……の一言。

 なんなンこの国、貴族とかいう奴らは確かに身なりも良いし、丸々と太った奴も多い。

 厚化粧したババァ共もわんさかいる。

 化粧品の使い方間違ってンからな。

 江戸時代の浮世絵の女かよ。

 白すぎるんだよ、こえぇンだよ。

 化粧品には毒が含まれてンだぞ、こいつら分かってンか?

 アレルギーだってあるし……塗りすぎはよくねぇンだぞ。

 あそこまで白く塗るのは異常だ。

 おお、気持ち悪い。

 けど、階段を大分降りた先にある城下町って言うンかな?

 そこを歩いている奴らは、皆ガリガリで、骨に皮があるだけって感じだ。

 あンなンで生活できてンの?

 これが『魔王』のせいだってンなら、確かに許せねぇンだけど……なら、なんで貴族の奴らはまるまると太ってンだ?

 そこがまずうさんくせぇと思った点だ。

 道もなんか規制をかけているみたいで、案内されても行けない場所が結構あった。

 まるで、その先は見るなといわんばかりだ。

 そういえば、企業でも中を案内する所だけは綺麗にして、他は雑とか普通にあるよな。

 そういう事なンじゃ?と思っている。

 つまり、あの先はスラム街で、ここより更に悪い環境って事が簡単に想像できるンだが……気に入らねぇなぁ。


「勇者様、そろそろ戻っても大丈夫でしょうか?」


 気に入らねぇと言えば、こいつもだ。

 マレッジさん、だったか。

 私の体をじろじろと見るのは、まぁ兄ちゃん以外の男は基本こんなもんだ、気にする事もねンだけど……一度も名前で呼ばないんだよな。

 勇者様って、名前じゃねぇンだけど。

 一応御剣って名乗ったンだけどな。下の名前で呼ばれるのは気持ち悪ぃから、名乗らなかったけど。

 ただ、『鑑定』ってスキルがある事も教えてもらった。

 それに対して私が聞いたのは、それを妨害する方法はないのか、という点だ。

 誰でも使える『スキル』ではないって教えてくれたけど(ちなみにマレッジさんも使えないらしい)逆に言えば、使える奴は居るわけで。

 私は私の情報を他人に覗かれるなンてゴメンだ。

 見せるなら、兄ちゃんだけ。

 兄ちゃんなら、見られたって良い。

 だけど、他の奴に見られるなンて、鳥肌が立つっての。

 ま、結果は『鑑定妨害』って『スキル』があれば可能だって聞いた。

 私には無かった、最初。

 だけど、試しに言ったら覚えれた。

 なんでも試してみるもンだな。

 なら、嘘の情報を見せる事だってできンだろ?と思ったら、案の定覚えれた。

 『鑑定詐称』の『スキル』だった。

 詐称っておい……。

 なんで、私は他の奴らに見られンのを妨害するのと、仮に見られても偽りの情報を見せる2段構えの防衛方法を取る事にした。

 ……にしても、考えてる間、ずっと見てくンだけど……なんなンだよ。


「あの……まだ見たい所があります、か?」


 あン?……そっか、さっきそういや聞いてたな。

 頭の中にこいつの声入ってこねぇから、聞き逃してたわ。


「あー……服とか売ってるとこないンすか?私金持ってないですけど、そういった支給もないンすかね?」


「あ、ああ!これは失礼を致しました。少し、お待ちくださいね……!」


 そう言って、見るからにスマホで連絡をしている。

 異世界にもスマホがあんのかよ。

 あ、そうだ。

 私が持ってるスマホ、使えたりすンのかな?

 そう思って、他の奴に見られないように注意しながら、スマホを確認してみる。

 ……圏外、電波がねぇ。

 当たり前っちゃー当たり前なンだが、ここが異世界だと、より一層実感する事になった。


「勇者様、お待たせ致しました。こちら、この世界で使える金貨となります。これで好きな物を買い、身支度を整えてください」


 そういうの、最初にすべきなンじゃねぇの?

 それに、物価も分からねぇ私にどうしろってンだ?

 猫に小判だぞ?


「大丈夫です、勇者様を謀るような真似をする者はおりません。金額が分からずとも、この金貨を出せば適性のおつりを返してもらえるでしょう」


 ……自分で調査するしかねぇか。

 適当になんか買って、差異で予想してくか。


「では、こちらへどうぞ。まずは衣類を売っている場所にご案内致します」


 あン?まずは?


「その後、武器や防具も宜しければご案内致します。こちらで装備はご用意する手筈になっていたのですが、どうせならご自身で選んで頂く方がよろしいかと判断致しました」


 ふーん……まぁ、そういう事ならそれで良いンだけど。

 いちいち言葉が引っかかる。

 ま、今は従っておくか。





 それから買い物を済ませ、元の場所へ戻ってきた。

 大体の物価は分かった。

 服が銀貨数枚で買える事も分かった。

 金貨で払うしかなくて、数百枚の銀貨を返されて驚いたわ。

 とりあえず必要そうな物を色々と買った。

 人の金だ、存分に使わせて貰う。

 色々な物を入れておける、異世界あるあるのアイテムボックスみたいなンねぇのかな?

 と思って聞いてみたら、少しの容量ならしまっておける『アイテムポーチ』ならあるとの事だった。

 ただ、一つ金貨数十枚もする、超高価なものらしい。

 まぁ、当然っちゃ当然だな。

 で、当然ついでに強請(ねだ)ってみた。

 青い顔をしていたが、私『魔王』を倒しに行く『勇者』なんですよねぇ?って言ったら、またスマホみたいなンを取り出して連絡してた。


「き、許可が下りましたので、後でとって……」


「今。必要なのは今でしょ。ン?」


 少し凄んでやったら、またスマホみたいな以下略。

 で、それの中に食料や化粧品、簡易トイレなる物も売ってたのでそれも買って入れておいた。

 少しの容量つってたけど、割と入るじゃねぇか。

 中では時間が経たないらしく、食料も中に入れた時のまんまらしい。

 流石ファンタジー、便利だな。

 とりあえず、店で売ってる食料は買い占めた。

 人の金だ、存分に使わせて貰った。

 当然金貨1枚程度じゃ足りなかったから、『魔王』を倒しに行く以下略で脅して追加で頂いた。

 私は『勇者』ってか『魔王』なンじゃないか。

 ま、こっちの事情も関係なく勝手に呼びだしたンだ、それくらいの権利あっても良いだろ。

 中には呼び出した瞬間から束縛されたり、ひっでぇ王族にざまぁするラノベを読んできたから……そういう事も考えてたけど、杞憂だったな。

 後はこの国の見取り図と、この世界の地図が欲しかった。

 だから、図書館……みたいな所がないか、聞いてみた。

 すると、最初に案内された場所の横に、資料館があるとの事だったので、そこに案内して貰った。

 城内だからか、私から離れてくれた。

 正直助かる。

 知らねー男がずっと傍にいて、息苦しいったらねンだよな。

 はぁ、これが兄ちゃんと一緒だったなら、今日の街を周るのだって、楽しかったンだろうな……。


「ほら見てみろよ玲於奈!この服、絶対に似合うぞ!?」


「えー……じゃぁ兄ちゃんが着たら考えてやンよ」


「お、俺が着るの!?た、確かに体格は同じくらいだし着れない事もないかもしれないけど……!」


「誰の胸が同じくらいだってぇ!?」


「言ってない!言ってないよ玲於奈!?」


 想像の中の兄ちゃんの言葉が浮かんできて、クスっとしてしまう。

 兄ちゃん……。

 たった2日、会えていないだけだというのに、少し落ち込んでしまう。

 早く兄ちゃんに会いたい、だからこんな世界にずっといるつもりはない。

 私はさっさとこの世界とおさらばする為に、情報を集める。

 『魔王』が居るという魔大陸までの経路を調べ、この国を脱出する為の経路を考える。

 どうせ、この国の軍隊がついてくんだろ?

 のんびり行軍とか冗談じゃねンだよ。

 さっさと『魔王』を倒してきたら、誰も文句なんて言わねぇはずだ。

 文字も読めるし、多分日本語で書いても、勝手にこの国の言葉に変わるはずだ。

 それで、倒しに行ってくるって一言メモでも残しておけば、追手とかもないだろ。

 まぁ、もし追手が来たなら、そんときゃ遠慮なく私の経験値になってもらおう。

 『魔王』を倒す『勇者』の糧となれるンだ、光栄だろ。

 調べ終えたら……今夜、脱出してやンよ。

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