第13話 魔王と城下町へ行く・中編
ミレイユと共に城下町へ辿り着いた俺は、その異様な光景に固まってしまう。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす!」
日本であったような飲食店。
そこで食事をとっている魔物達や、屋台で購入した食べ物を食べようとする前に、ちゃんと手を合わせて「いただきます」と言ってから、食べる魔物達。
ミレイユが、うんうんと頷いている。
ちょっと待って、これ俺のせいですよねぇ!?
「あ、あの、ミレイユ……」
ザワッ!
あれ、なんか空気が変わったような。
こう、殺気立ったというか、なんともいえない刺すような空気。
そういえば、スラリンも最初、ミレイユの事を呼び捨てた時、俺を殺そうとした、ような。
最初の事を思い出していると、ミレイユが一歩俺の前に出た。
「良い、気にするでない。この者は『勇者』テリーじゃ。妾を守る為に、この世界に来てくれたのだ。その心意気に報いる為、妾を呼び捨てる事を許可したのじゃ」
その言葉を聞いて、空気が穏やかな物に変わる。
凄いカリスマだな、ミレイユ……。
というか、真実と大分変ってるけど、良いのか?
そう思ってミレイユを見たら、パチンと片目をウインクしてくれた。
美人は妹で見慣れてると思ってたんだけど、ミレイユは妹とはまた違った妖艶さがあって、照れてしまう。
「さて、妾達も何か食べるか?」
「良いのか?俺お金持ってないけど……」
「妾も持っておらぬぞ?」
「へ?」
ミレイユはそう言って、屋台へ歩いていく。
俺はその後を走って追いかけた。
「やっておるなアシュ。2本貰えるか?」
「これはミレイユ様。本日も大変お美しい……!2本で御座いますね、腕によりをかけて御作り致しましょう!」
そう言って、日本で言う焼きとりのようなものを焼き始めるこの魔物。
いや、悪魔、か?
背中に羽が生えてるし。
俺がじーっと見てたからか、ミレイユが説明してくれた。
「こやつはアスタロトと言ってな、妾の……」
「アスタロトォッ!?」
ちょ、待っ!?
アスタロトって言えば、俺でも知ってる大公爵の大悪魔じゃないか!?
なんでこんな所で焼きとりみたいなの焼いてんの!?
「う、うむ、落ち着けテリー」
「ハッ!?ご、ごめんミレイユ……」
「ははは、愉快なお人だね。初めまして、テリー殿。ミレイユ様よりご紹介を賜りました、アスタロトと申します。以後、お見知りおきを」
なんというか、凄く丁寧で落ち着いた感じを受ける。
「は、はい。アスタロトさん、俺は御剣 照矢と言います。まぁ、テリーと呼んでくれて構いません。ミレイユがそう呼び始めたんで……」
「成程、ミレイユ様が命名されたのですか。それは僥倖ですなぁ。実に羨ましい事です」
え、そうなの?
呼びにくいからって言われた気がするよ、俺。
「さ、できましたよ。ミレイユ様、それにテリー殿、どうぞご賞味くださいませ」
焼きとりのようなものを受け取る。
さて、食べるかと口を開けたら、ミレイユがじーっと見ているのに気付いた。
「ど、どしたのミレイユ?」
「テリー、妾に嘘を教えたのか?」
「へ?」
ど、どういう事?
「食べる前には、手を合わせていただきます、をするのじゃろう?」
あ、あー!そういう事!?
これ説明するの難しいなぁ!
「えーとだな、ご飯って、朝昼晩と三食食べるよな?」
「うむ、基本的にはそうじゃな」
「その時には、言うんだよ。それ以外の時っていうか、こういう買い食いなんかの時は、わざわざ手を合わせて言わないんだ。言葉だけ言う人もいるけど……」
「む~、ややこしいのじゃ」
うん、俺もこれを説明するのは難しいなって思った。
ケースバイケースなんだけど、これを説明するのは感覚的なものになってくるんだよな……。
「どう説明すれば良いのじゃ、それは」
「えーと……外で食べる時は必要無くて、家で食べる時はするように、で良いんじゃないかな」
「成程。後で伝えるようにしておくのじゃ」
「ふむふむ、興味深いお話ですねぇ」
アスタロトさんも頷いていた。
この人、いやこの悪魔……って言うと、なんか言い方が悪く感じるのは悪魔だからか。
まぁ気にしないでおこう……。
この悪魔、なんでこんな所で屋台なんて出してるんだろう。
というか、こんな超有名な大悪魔が居るなら、『勇者』なんて一捻りなんじゃないのか?
うぅ、『鑑定』をしたいけど、したら失礼だよな……。
考えながら、焼きとりのようなものを口に含む。
「うーまーいーぞー!?」
「ぶふっ!こ、こらテリー、落ち着いて食べぬかっ!」
思わず叫んでしまって、ミレイユに怒られてしまった。
「だってさ、滅茶苦茶美味いんだもんさ!」
「ははは、ありがとうございますテリー殿。そうやって喜ぶ顔を見るのが、私の楽しみでございますから」
「いや本当に美味しい。これ焼きとりって思ってたけど、違うんですか?」
「鳥?鳥を焼くわけがないじゃありませんか。そんな可哀相な事は致しません。これはですね……」
アスタロトさんの顔が、これぞ悪魔っていうか、凄く陰険な感じに変わる。
あ、ヤバい。
これ聞いたらヤバい答えだ、絶対。
「や、やっぱり良いですー!!」
「ぬわ、テリー!?」
俺は慌ててミレイユの手を引いて走り出す。
本能が聞いてはいけないと思ったのだ。
「おやおや、行ってしまわれましたか。ちょっと溜めが過ぎましたかね?これは肉草と言って、元はこの魔大陸に生えている栄養満点の草なのですが……やはり元が草だと、お口に合わなかったのですかねぇ?」
そんな事をアスタロトが言っているとはつゆ知らず、俺はミレイユと共に街の少し外れの特別大きな樹の下まで走ってきていた。
「はぁっ……はぁっ……」
「お、おい、テリー、何故、妾は、走らされ、たのじゃ!?」
滅茶苦茶息を荒げながら、ミレイユが怒ってる。
あ……補正があるとはいえ、ミレイユのすばやさじゃ、今の俺についてくるなんて至難の業だよな!?
途中、ミレイユは時々足が浮いてたと思う。
「ご、ごめん!だって人肉とか言われたら、吐き出しそうだったから……」
「ぶふぅっ!!」
正直に言ったらミレイユが吐き出した。
「お、お主、なんて事を言うのじゃ!?妾も気持ち悪くなったではないか!!」
ですよねぇ。
「言うておくがな、魔物だからって人間の肉など食わぬからな!スラリンじゃあるまいし!」
「スラリンは食べるの!?」
「あ奴はむしろ食べられぬ物がないのじゃ……」
なんか遠い目をしているミレイユに、なんとなく察した俺。
「ごめん……」
「いや……」
なんとなく、気まずい雰囲気。
すぐ近くの草むらが、少し揺れた気がするけど……気のせいだよな?
☆☆☆☆☆
「むー!むむー!」
「お、落ち着いてくださいスラリン様!見つかってしまいます!!」(小声)
「むむぅー!!」
照矢が気のせいと思った茂みには、スラリンとその部下が潜んでいた。
スラリンが飛び出そうとしたのを、部下達がなんとか抑えているのだ。
「むぅぅぅ~!!(私にだって食べられない物はありますよぉ~!)」
そう伝えたいスラリンだったが、ほとんど食べられる事は否定しないんだから一緒だろうと、部下達の心は一つだった。
「むむー!!」
☆☆☆☆☆
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