第12話 魔王と御剣の妹・召喚
「おお!成功じゃ!」
「美しい……これは、『勇者』ではなく『聖女』では!?」
「だれぞ、『鑑定』を行え!」
ガヤガヤと五月蠅い。
どこだ、ここ。
私はさっきまで、公園のベンチで座ってた。
すると、兄ちゃんと同じように体が光って……もしかして、兄ちゃんのいる所に行けるのか!?
なんて、淡い期待を抱いたってのに……。
「な、なんという事じゃ……!す、凄いぞ、『勇者』に『聖女』、そして『戦乙女』の称号持ちじゃ!!」
「「「おおおおおおっー!!」」」
五月蠅い、やかましい。
人を見世物みたいにすンじゃねぇ。
「これなら、かの『魔王』も倒せるに違いないっ!」
なんなんださっきから。
『勇者』に、『魔王』だぁ?
そんなファンタジーな事を大の大人が集まって言い合うとか、恥ずかしくねぇンかよ。
いや、ちょっと待てよ。
こいつら、揃いも揃って、高価そうな物を身に付けている。
少なくともここは、日本じゃないな。
言葉が分かるから、ファンタジーあるあるの言語機能が働いてるンだな。
って事は、私も例に漏れず、召喚されちゃった系か。
なんなんだよ、私は兄ちゃん探してるだけなんだよ。
この国の為~とかありきたりな事言われても、知らねぇかンな。
「異世界の者よ、突然の召喚に戸惑われておるかと思う。だが、我々の話を聞いてほしい」
身なりの良い、豚みたいなおっさんが話を始める。
要約すると、『魔王』に侵略され、民達が被害を受けている。
『魔王』を倒しに、魔大陸へと向かって欲しいって事か。
「一つだけ聞きたいンですけど」
「う、うむ?なんだね?」
「私は元の世界に帰れるンですか?」
「え?あ、あー!もちろんだとも!『魔王』を倒してくれさえすれば、必ず元の世界へ還すと約束しよう!」
ふーん……なんか怪しいな。
つっても、今は情報が他にねぇンだよな。
従う振りして、探ってみるか。
「分かりました。ンで、私は何をすれば?まさかこのまま『魔王』を倒しに行けとか言わないですよね?」
「もちろんだとも!おい、勇者様をご案内しろ。くれぐれも粗相のないようにな」
「はい、畏まりました。それでは勇者様、こちらでございます」
白いローブを纏った、貧相なメガネの男が先を歩く。
私は黙って後をつけながら、ラノベの知識を色々と思い出していた。
☆☆☆☆☆
玲於奈がこの場から居なくなった後。
残された王の元へ、大臣が向かう。
「よ、よろしかったのですか、リュービッヒ陛下。あんな嘘をついても……」
「構わぬ。どうせ、戻ってきた『勇者』はおらぬのだ」
「それは……そうかもしれませぬが、万が一という事も……あの者は、今までに一度しか例のない、二職を持ち、さらに称号まで持っているのですよ……?」
「大丈夫だ。その時、還すと見せて殺せば良い。なに、『魔王』には強くても、守るべき対象の我々人間に強いというわけでないのだろう?」
「それでも、殺せない時は……?」
「その時は……還すと見せかけて、他の世界へ飛ばせば良かろう」
「成程、流石はリュービッヒ陛下……!」
「ククッ……さぁ、お前は『勇者』誕生を盛大に盛り上げよ。民達から金を搾れるだけ搾り取るのだ!」
「ハハー!」
聖ユーラシア大陸の西南西に位置する、聖王国リュード。
貴族層は富み、平民達は貧しい暮らしを強いられていた。
富国強兵を地で行くこの国は、表向きは栄えているように見える。
だがその実態は、平民達は覇気もなく、毎日の生活に精一杯で、いつ崩壊してもおかしくない状態であった。
その状態を脱却する為の一番手っ取り早い方法が、他国の物を手に入れる事である。
しかし、聖王国の示す通り、この国は女神を信仰している。
理由なき奪略は、他国だけでなく自国の反感を買ってしまうのだ。
そんな時に目を付けたのが、『魔王』の領地である。
実際、『魔王』が聖大陸に軍を差し向けたという『正史』は存在しない。
だが、人間達は情報を捻じ曲げ、魔物達が聖大陸に侵入してきたのを、侵攻と捉え、情報操作を行った。
そして、聖大陸と魔大陸による交戦状態となった。
それが、はるか昔から続く伝承である。
自国の被害を最小限に抑える為、代々『勇者』召喚を行い、『魔王』討伐に向かわせている。
『勇者』の侵攻に合わせて、『魔王』の領地にある物を全て自国へと持ち帰るのだ。
『勇者』は一度も、戻ってきた事が無い。
だが、『魔王』もこちらの聖大陸に来た事が無い為、『勇者』が深手を与えていると判断していたのだ。
その事はある意味では正しく、しかし根底が違う事を、誰も知らない。
☆☆☆☆☆
「以上が、この世界の事、そして我が国、聖王国リュードの歴史でございます」
「ふーん……」
一生懸命説明してくれるけど、私にはどうでも良い事だったので、ほとんど聞いていない。
私が知りたいのは、兄ちゃんの事だけだ。
この世界に、居るんだろうか。
もし兄ちゃんが居るなら、別にこの世界でだって生きていける。
だけど、兄ちゃんが居ないなら、元の世界に早く戻らないと。
「コホン。では、次に『ステータス』についてご説明させて頂きます」
お、これは聞いておくかな。
なんとなく分かンだけどね。
「では、僭越ながら私のをお見せ致します。『ステータスオープン』」
マレッジ=ゴールド 男(29歳)
職業 神官
Lv.62
HP 600/600 成長レベルF
MP 880/880 成長レベルE
こうげき力 200
しゅび力 198
ちから 170(+30) 成長レベルF
まりょく 220 成長レベルE
たいりょく 168(+20) 成長レベルF
すばやさ 155 成長レベルG
きようさ 170 成長レベルF
みりょく 5
スキル一覧
『ホイミン』『エリアヒーリン』『キュアラー』
これがどの程度のものなのか分からないけど、高くはないンだろうな。
あとスキル、なんだか見た事があるスキル名なんだけど、ドラ○エに似ているようでF○のようでそうでもない。
なんか魚の骨が喉にあるような感じがするンだけど。
「こうげき力とは、その名の示す通り、相手に与えられる最大の値になり、しゅび力は……」
「あー、大体分かるンで、そういう説明は良いです。それより、マレッジさん?のステは高い方なンですか?」
「そうですね、レベルを見て頂ければ分かりやすいのですが、一般の方はレベルが30も行けば良い方でしょうから」
そーなのか。
それじゃ、このステでも高い方なンか。
「私もそう言えば見れンですか?」
「はい、見れますよ。相手にも見せる場合は、『ステータスオープン』と唱え、自分だけで見たければ、『ステータス』と唱えてください」
それじゃ唱えてみるか。
「『ステータス』」
言った瞬間、悲しそうな顔をしたけど、ヤダよ。
なんでプライバシーを開示しなきゃなんないンだよ。
見せるなら兄ちゃんだけだ。
御剣 玲於奈 女(16歳)
職業 勇者 聖女
称号 戦乙女
Lv.1
HP 6000/6000 成長レベルS
MP 6000/6000 成長レベルS
こうげき力 7000
しゅび力 6000
ちから 7000 成長レベルS+
まりょく 7000 成長レベルS+
たいりょく 6000 成長レベルS
すばやさ 7500 成長レベルS+
きようさ 8000 成長レベルS+
みりょく 777
へぇ、この強さなら、マレッジさんとかデコピン一発で倒せそうじゃン?
やってみようかな。
いや、まだダメだな。
もうちょっと情報を集めよう。
「確認は出来ましたか?では、次は……」
今は、大人しく従うか。
兄ちゃん、どこにいるか分かンないけど、私は異世界に来ちゃったよ。
見守っててくれよな。
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