第11話 魔王と城下町へ行く・前編
目が覚めたミレイユにスラリンと食事をしてから、お茶をすすっている。
はぁ、食後のお茶ってなんでこんなに落ち着くんだろう。
妹からは爺(じじ)くさいっていつも言われてたけど、美味しいんだよ。
「それで、今日も魔王ダンジョンに行くんだよな?」
「それも良いのじゃが、テリーの顔見せもしておきたいでな。城下町に出ようと思っておるのじゃ」
城下町?魔物達の街があるのか!?
ミノタウロスみたいなでっかい魔物とか、上半身が人間で、下半身が馬みたいなケンタウロスだっけ?そんな魔物達が闊歩してるんだろうか!?
「テリーがどんな想像をしているのか、なんとなく分かるのじゃが。魔物と言っても、人型が多いのじゃぞ?魔王城付近で生活をする魔物達はな」
そうなのか。
でも、考えてみれば悪魔とか鬼だって、人型だもんな。
「まぁ中には化け物みたいな姿をしておる者もおるが、性根は優しい者が多いぞ」
それなんて魔物。
俺の中の魔物ってイメージが音を立てて崩れていくよ。
これから俺、魔物を今までのゲームとかの知識で知ってたように、見れないのは間違いないな。
「くすくす……ミツルギ様って、面白い方ですよねぇ~」
なんでか、スラリンにはずっと面白がられているんだけど……解せぬ。
「というか、ミレイユが城下町に出たら、騒ぎになるんじゃないか?魔王様直々に~って感じで」
「そうならぬように命じておるでな、安心するのじゃ」
準備万端って事か。
俺が気を回す必要は、ないのかもしれないな。
「ふむ……テリーよ、お主弟か妹が居たりはせぬか?」
「え?なんでそれを?」
「やはり居るのじゃな?いやなに、お主のこれまでの言動を顧みると、色々と気を配っておるのが気になってな。もしかして、と思ったのじゃ」
あー、俺はずっと妹に過保護なくらい干渉してたからな。
なんせ、妹は見た目が良かった。
胸は断崖絶壁だったんだけど、それを補って余りある美しさと可愛さがあった。
まぁ、俺の身内贔屓補正もあるかもしれないけど。
だから、放っておけなくて、色々と世話を焼くようになっていた。
最近はウザいと思われてるのか、口も悪くなってきたけど……ご近所の佐藤さんが、女の子はそんなものだよって教えてくれた。
だから、気にしない事にした。
俺ももう高校を卒業する歳だ。
卒業したら、俺は企業を立ち上げるつもりでいた。
お金はあるし、父さんの伝手でいろんな方と繋がりがある。
人の縁は大事な物。
大切にしなさいって父さんから教わってきた。
俺は父さんから貰ったその言葉を大切にしてきた。
どんな事にも一生懸命に取り組んだ。
そのおかげで、最初は相手にもされなかった人からも、今では会話が弾むようになった。
助っ人も、頼まれたら断らなかった。
それを見た人から他の事を頼まれて、輪が広がっていった。
皆、心配してるかな……。
玲於奈も、俺が居なくて困ってないかな……あいつ、片づけ苦手だからな……。
色々と考えていたら、ミレイユにじっと見つめられている事に気付いて、笑顔を作る。
どんな時でも笑顔で。
苦しい時も、悲しい時も。
笑っていれば、大抵なんとかなる。
それが、俺が身につけた処世術だったから。
だけど……。
「すまぬ……」
ミレイユには、通じなかった。
俺の心を、見透かされているように感じた。
そんなミレイユを励ますように、伝える。
「なんで謝るんだよ。それに、多分ミレイユは、俺が帰りたがったら、帰すつもりだったんだろ?今も、代償を支払ってる。それが答えだ」
「それは……!」
「だから、ここに居るのは俺の意思!俺が居たくて、ここに居るんだ。それに……俺は、約束は破らない。どんな約束だってな!」
そう笑って言ったら、ミレイユは微笑んでくれた。
くっ、妹の笑顔で見慣れているはずなのに、ミレイユの笑顔はズルイと思えるくらい、綺麗だった。
「もぅ~、そうやってすぐにミレイユ様とラブラブになるんですからぁ、ミツルギ様ぁ~」
「「ラブッ!?」」
ミレイユと言葉が重なった。
そして顔を見合わせて、笑ってしまった。
「はいはい~お腹いっぱいです~。それじゃ、楽しまれてきてくださいね~?」
そう言って、俺とミレイユの背中を押し始めるスラリン。
「え?スラリンは行かないのか?」
「お二人のデートを邪魔するほど~、落ちぶれてはいませんよぉ~?」
「デート!?」
「デートってなんじゃ?」
「「……」」
ミレイユは中身5歳だったなそういや。
なんか、今スラリンの目が怪しく光った気がする。
「デートっていうのはですねぇ、ミレイユ様~。仲の良い男女が、外にお出かけする事を言うんですよぉ~」
ちょ、待っ!間違ってはいないけど、それをデートと教えたら、色々と誤解がこれから生じる事になるぞ!?
「そうなのか。それなら、妾とテリーのデートじゃな」
そう微笑んで言うミレイユに、俺の顔は真っ赤に染まっているだろう。
「スラリン、絶対分かっててそう説明しただろ……?」
「え~?何の事です~?」
くっ!この小悪魔もといスライムめ!
自分の主がデートと気軽に言いまわっても良いのか!?
「大丈夫ですよ~ミツルギ様~。ミレイユ様が街へご一緒される方なんて、ほとんどいませんからぁ~」
それはいわゆるボッチという奴では……。
「あはは~ミツルギ様ぁ、失礼な事を言う口はこれですかぁ~?」
そう言って俺の口にナイフに変形したスラリンの手がぺちぺちと当たる。
言ってません、言ってませんよね!?
今の俺の心の中の声ですよ!?
「ミツルギ様はぁ、考えている事が表に出やすいタイプです~」
そんな馬鹿な……でも確かに、妹にも似たような事を言われた事があるような……。
「妾にラブラブと言いながら、スラリンもラブラブではないか」
「ん"な"」
スラリンが凄い裏声を出して固まった。
仕返し受けたな、スラリン。
「ぶはっ!はぁ、面白いよなぁミレイユもスラリンも。それじゃ、行こうぜミレイユ。デートにさ」
そう笑って言ったら、ミレイユも笑って、そうじゃなって言ってくれた。
「行ってらっしゃいませ~ミレイユ様、ミツルギ様~」
そう言って頭を下げて、俺達を見送ってくれるスラリン。
今度は、スラリンも一緒に街へ出かけたいな、そう思うのだった。
☆☆☆☆☆
ミレイユ様と並んで歩いていくミツルギ様を見送る。
私の役目は、そんなお二人を陰ながらお守りする事だ。
人間はほぼ全てが信用ならないが、魔物も全てを信用する事はできないのだ。
陰ながらミレイユ様をお守りするべく、部隊が存在する。
それに加えて、私も陰ながらお守りする。
ミツルギ様は、信じても良いと思ってきている。
昨夜も、ミツルギ様は何もしなかった。
ミレイユ様に手を出す絶好のチャンスだったはずだ。
なのに、すぐに眠った。
自分が殺されるとは、思わなかったのだろうか?
そう思って、ミレイユ様が寝入った後、ミツルギ様の首元に変形させた刃を押し当ててみた。
けれど、何の反応も示さない。
どころか、寝返りを打とうとして、刃が傷つけてしまいそうで……私の方が引っ込めてしまった。
どうかしている。
何故、私が……。
いや、分かってはいる。
私は短い期間ミツルギ様と話しただけだが、ミツルギ様の事を気に入りつつある。
ユキへの返答も、私は聞いていて気持ちが良かった。
心からの言葉は、相手の心に伝わるものだ。
特に、言葉よりも心話をする魔物達には、より直情的に伝わる。
嘘偽りのない言葉。
だからこそ、ユキは逃げだした。
ミレイユ様の事を想うが故の、その葛藤に耐えられなかったのだろう。
信じてみても、良いのだろうか。
ミツルギ様は、ミレイユ様を……今度こそ、救ってくれるのだろうか。
もしそうなら……私は、ミツルギ様を第二の主としても、良いかもしれない。
そんなありえない妄想を頭の片隅へおいやる。
「皆~、ばれないようにね~?」
「「「ハハッ!」」」
そう言って散開する者達を見送り、私も行動を開始した。
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