第16話 魔王と御剣の妹・狐巫女と出会う
異世界に召喚された日の夜。
私は国を脱出した。
警備もザルで、余裕で外に出れた。
資料室で見た地図から、魔大陸へ向かう経路を考えた。
今いる場所は、魔大陸から正反対の位置だった。
くっそ遠い、ふざけンなよ。
まぁ、愚痴を言っても仕方ねぇ。
金も少し頂いて、メモも一応残してきた。これでこの国にはもう、元の世界へ戻れる時になるまで用はねぇかンな。
それも、怪しい気はしてンだが。
しかし……元の世界でも、運動は得意な方だったけど……これはそんなンじゃねぇな。
走っても走っても疲れない上に、私はこんなに速く走れなかったはずだ。
車を追い抜くスピードで駆ける女子高生なんて居たら、ソッコーで話題になるわ。
つーわけで、これも異世界の補正なンだろう。
聖王国リュードから道沿いに東へ進むと、ヤオロズって国がある。
とりあえずはソコを目指して走った。
このスピードなら、明るくなる前に辿り着けそうだ。
ちんたら行軍してたら、それすらも数日掛かってただろうな。
マジで脱出して良かったと思う。
そして走り続ける事数時間。
街並みが見えてきた。
門番が居るけど、二人だけか。
しかし、街中に入るのに倒したら、騒ぎになる。
どうしたもんかな……と思っていたら、こちらとは反対側の方から、馬車が進んでいるのが見えた。
暗い夜に、馬車だけ明るく輝いてるとか、盗賊とか居たら襲ってくださいって言ってるようなもンじゃねぇの?
そう思ったが、これは使えるとも思った。
急いで街の外周を走り抜け、馬車に飛び掛かる。
いや、襲うって意味じゃねぇよ?
ただ、荷物に紛れようと思っただけだ。
そンで中に入ったら、なんかむーむー聞こえる。
気になるから見てみたら、人が転がってる。
なンだよ……こんな時間に来てる馬車だし、なんかあンかなって思いはしたけどさ……。
そいつは私に気付いたのか、視線で訴えてくる。
『助けて』と。
清楚な見た目で、巫女服を着ている。
それに、こいつは人間じゃねぇな。
ファンタジー風に言うなら、亜人ってとこか。
なんせ、耳が白い獣耳だからな。
さて、どうするか。
うーん……こいつ助けても、私の役に立つか分かんないンだよなぁ。
とりあえず、猿轡(さるぐつわ)を解いてやる。
「ぷはぁっ……ありがとうございます、ありがとうございますぅ……!」
「静かに。別にアンタを助けたわけじゃない。ちょっと聞きたい事があンだけど……」
「助けてくれないなら、私大声上げちゃいますよ?」
「……」
私は猿轡をもう一度嵌めた。
「んー!?んー!!んんぅー!!(違!?誤解です!嘘ですぅー!!)」
なんとなく視線で謝ってるのが分かったので、もう一度解く。
「しくしく……酷いです……」
「良いから、質問に答えな。まず第一に、アンタは今売られようとしてンだよね?」
「はい……私、種族としては珍しい白狐で、高く売れるらしいんです……」
「それは自己紹介ドーモ。なら、この馬車の御者(ぎょしゃ)はその関係者?」
「多分……」
成程ね。
そンじゃ、一旦そいつがこのまま街の中へ入ってから、外に出れば良いわけか。
「あンがと」
そう言って猿轡をもう一度する。
「!?んんー!?」
いやだって、外してたら外部の存在がバレルじゃン?
絶対荷物確認するっしょ?
「安心しな。兄ちゃんなら、こういう場合助けるかンな。私も、知った以上は見過ごさねぇさ」
「!!んんぅ~……!(!!惚れました~……!)」
なんて言ってるのかは分かンないけど、まぁありがとうとかそんなンかな。
そして他の荷物に身を紛らせる。
少し時間が経つと、馬車が止まるのが分かった。
何か話しているようだが、足音が近づいてきた。
「これか?ほぅ……上玉だな」
「ええ、必ず良い値がつきますよ」
「うむ。……異常なし!通れ!」
こいつら、グルって事か。
ったく、どこの世界も悪い事する奴は変わんねぇもンだな。
よく人々を助けてくれって言われるけどさ、こンな奴らもついでに助かンだろ?
やってられねぇな。
っと、のんびりしてたらついちまうな。
寝転がされているこいつを抱える。
「んん!?(お姉様!?)」
「騒がれたら五月蠅いから、ひとまずこのまんま運ぶよ。目でも閉じてンだな」
そう伝えて、私は馬車から飛び出す。
まだ暗い夜、店の明かりがぽつぽつとある程度なら、私のスピードを捉えられないはずだ。
案の定、誰にも気付かれなかった。
宿屋、探さねぇとな。
野宿は最終手段だ。
「んー!」
あっと、忘れてた。
猿轡を解いてやって、腕と足を縛っていた縄を解いてやる。
「あり、がとうございます……!私、私……!」
清純な見た目の獣耳巫女服姿の女か。
男が喜びそうな属性網羅してやがンな。
そりゃ売られるわ。
「そンじゃ、こっからは別行動って事で。達者でな」
そう言って宿屋を探そうとしたら、袖を掴まれた。
「あンだよ……?」
「聞いては、くれないんですか?なんで売られそうになったとか、これからどうするつもりなのかとか!」
めんどくせぇ……そんなもンは男に頼め。
お前の見た目なら、欲情した男が下心丸出しで色々助けてくれンだろ。
「興味ない。ンじゃ」
「待って待って待ってぇぇぇっ!」
そう言って腕を柔らかい物が包み込んだ。
だから、そういうのは男にやれぇっ!
女の、更にぺたんこの私にするとか、喧嘩売ってンな!?そうだな!?買うぞコラ!!
「ひぃぃん……!!」
はぁ……分かった、こいつ天然だ。
全然自覚なしに、色気振りまいてやがる。
「……で、過去は聞かねぇ。これからどうしたいンだよ?」
「あの……私、ハルコ=ケイと申します」
「ハルコ系?なんか系統があンの?」
「ち、違いますぅ!ハルコ=ケイです!ハルコでもケイでもお好きな方でお呼びくださいお姉様!」
ああ、名前ね。
それはどうでも良いンだけど。
「私は御剣だ。それでアンタ、歳は?」
「女性に年齢を聞くなんてお姉様……!」
私は顔にアイアンクローをする。
力7000だ、効くだろ。
「アダダダダダ!?顔が、顔が歪みますぅー!?」
とりあえず放す事にする。
「で?」
「うぅ、そんな所も素敵ですお姉様。私は今年で100歳になりますぅ」
「オバハンってレベルじゃねンだけど!?」
「わ、私達は長寿なので、人間で言うなら15歳くらいですよぅ……」
ピンポイントで私より一つ下を言いやがったなこいつ。
「お姉様は、おいくつなんですかぁ?私に聞いて、言わせておいて、まさかまさかお姉様は言わないなんて事、ないですよねぇ?」
くっ、こいつ良い根性してやがンな。
「……16だよ」
「やっぱりぃ!お姉様で合ってますー!」
「五月蠅いわ!100歳のババアにお姉様とか呼ばれたくないンだよ!?」
「そんな事を仰らずにー!!」
「つーか、私はどうしたいかを最初に聞いたんだよ!!」
そう言ったら、目を曇らせてこっちを見る。
これは、嫌な予感がすンだけど。
「私、実は魔大陸から連れてこられたんです、人間に……」
「!!」
「帰り、たいです。家族の、元に……」
ますます、あの国の奴らの話が疑わしくなってきた。
魔大陸から『魔王』が侵攻してきたんじゃねぇンかよ?
これじゃ、いきなり矛盾してやがンぞ。
「はぁ……私も向かう先は魔大陸だ」
「そ、それじゃぁ……!」
「ついてきたいなら、別に構いやしねぇけど……」
「不束者ですが、よろしくお願いいたしますお姉様!!」
「それは違うかンな!!」
こうして、私に変な同行者が出来た。
助けて、兄ちゃん。
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