第8話 魔王と風呂

 それから俺達は魔王ダンジョンを突き進み、地下10階のワープポイントで帰ってきた。

 試してみたが、今度はすぐに10階から進めるようだ、ありがたい。

 今回の探索は成功と言えるだろう。

 そう、精神力がゴリゴリと削られた事を除けば……。

 俺とミレイユは、訓練場に戻ってきて、背中合わせに座り込む。


「なぁミレイユ、これ創った魔王、性根がヤバすぎだろ……」


「言うでない……妾もまさか、ここまで徹底しておるとは思わなんだ……」


 そんな俺達を見て、首を傾げながら苦笑しているスライムが一匹。


「あのぉ~、ど、どうしたんですかぁ~?」


 ああ、そりゃ分からないよな。

 見た目は何の傷も無い。

 傷の負いようも無かった。

 だって、敵は全部俺達を見たら逃げる。

 小動物ばかりだったんだから。


「なんかさ、弱い者苛めしてたみたいで、すっごいやりづらい……」


「あのキュートな瞳で見つめられながら、消えていく姿を見るのは、あんまりなのじゃ……」


「あは、は……」


 そんな脱力している俺達を見て、スラリンは苦笑している。


「そ、それでミツルギ様は、どれくらいレベルアップできたんですかぁ~?」


 スラリンが元気づけるように、話題を変えてくれる。


「ああ、こんな感じだよ。『ステータスオープン』」



御剣 照矢 男(18歳)


職業 勇者

Lv.104

HP    180000/180000 成長レベルS+

MP    5000/5000   成長レベルB

こうげき力 29000   

しゅび力  26800   

ちから   29000      成長レベルSS

まりょく  7000      成長レベルA

たいりょく 26800      成長レベルS+

すばやさ  15500      成長レベルS

きようさ  17000      成長レベルS

みりょく  30


「え……一日で、こんなに上がったんですか……?」


 スラリンが驚いているけど、俺も驚いた。

 あいつら、はぐれメ○ルってレベルじゃないくらいに、経験値をくれた。

 ただ、最初の一匹を仕留めるのが苦労した。

 なんせ、速い。

 ミレイユと協力して動きを封じないと、倒せなかっただろうな。

 後はレベルアップしたお蔭で、少し倒しやすくなった。

 まぁ、その見た目のせいで、倒すたびに罪悪感に苛まれたわけだけど……。


「おまけに、成長レベルが上がってるのは、どうしてですかぁ~?」


「ああ、時々ある宝箱の中にさ、種があったんだよ。それを食べたら、なんか上がった」


「嘘ですよね~?」


「いや本当に」


「いえだって、そんな、ありえないですよ~!?」


 スラリンが疑ってくるけど、本当なんだよなぁ。


「スラリン、テリーが言うておる事は本当じゃ。妾が食べたら、経験値が多少増えるだけじゃったが、テリーが食べたら成長レベルがあがってな。それが分かってからは、テリーに食べるように命じたのじゃ」


「そ、そうなんですかぁ~。凄いですねぇ~」


 スラリンが本当に驚いている。

 俺が言っても信じてくれないけど、ミレイユが言ったらすぐ信じるのは、やはり信頼関係の差か。


「はぁ、体の疲れは無いけど、なんかくたくただよ。なぁ、この世界って風呂はある?」


「当たり前じゃろう。なければどうやって体を綺麗にするのじゃ」


「え?ええと、例えば生活魔法とかで、一瞬で綺麗にするとか?」


 俺の言葉に、二人が驚いた顔をする。


「テリー、お主天才か!?」


「人は見かけによらないんですねぇ~」


 あれ、他のラノベであった知識をひけらかしただけだから、ちょっと肩身が狭い。


「ふむ。その『魔法』も後で研究してみるとしよう。汚れを取り除く『魔法』か、面白そうじゃな……!」


「お手伝い致しますねミレイユ様~」


 二人は本当に仲が良いなって思う。

 ミレイユはまだ5歳、なんだよな。

 ずっとスラリンと一緒に居たのなら、さもありなんだな。


「おっと、風呂じゃったな。案内しよう、ついて参れテリー」


「ああ、さんきゅーミレイユ」


「さんきゅう?」


「ありがとうって意味だよ」


「そうか」


 短い会話を済ませ、ミレイユの後に続く。

 途中で人型の魔物達と会って、挨拶だけする。

 皆、俺は人間なのに、特別威嚇なんかもされなかった。

 ミレイユのお蔭、なんだろうな。

 で、風呂というか……大浴場だな、これは。

 天井も高く、露天風呂にいるみたいだ。

 ミレイユが服をそのまま脱ごうとするので、慌てて止める。


「ちょ!?ま、待って!待って!?」


「なんじゃテリー。風呂に入るのじゃろ?このまま入ったら服が濡れるじゃろ」


 それは知ってる!俺が言いたいのはそんな事じゃなくって!?


「ミレイユ様~、良いお湯ですよぉ~。入らないのですかぁ~?」


「スラリン、ちょっと待っておれ~!」


 すでにスラリンはお湯の中に入っていた。

 ちょっと待って!こういう場合、主を止める役割を持ってるのがスラリンでしょ!?

 なんで早く入らないの?って感じで主を急かしてるの!?


「ほれ、お主も早う脱がぬか。あ、元の世界では誰ぞ脱がしてくれる者がおったのか?」


 違う、そうじゃない。

 男と女が一緒に入るという事にまず恥じらいを持ってくれないかな!?

 俺だけ慌ててるのが、なんか変な感じじゃないか!?


「ほうほう……妾に脱がせて欲しいと見える。覚悟せよ~!」


「いやぁぁぁぁっ!?」


 なんで悲鳴を上げるのが男の俺なんですかねぇ!?

 そして見事に、すっぽんぽんにされました。

 もうお婿にいけない……!


「妾は体を洗ってくるでな、お主もそうせい」


「はい……」


 ミレイユも全裸なのに、まるで恥ずかしそうにしない。

 なんか俺が間違っているんだろうか……?

 俺は間違いなく、顔が真っ赤だろう。

 そして体を洗い、頭も洗う。

 シャンプーにリンス、トリートメントに石鹸。

 日本であった物が全てある。

 なんでこんなに……と思ったけど、他国に召喚された勇者達がいるのなら、こういうのが普及していてもおかしくは無いのか。

 体を洗い終え、お風呂に浸かる。

 くふぅあぁぁぁ……癒されるぅ……!

 この熱さが堪りませんなぁ!

 と思って浸かっていたら、隣にミレイユが腰かけてきて、心臓が止まるかと思った。


「どうしたテリー?」


 そう言いながら、ミレイユも風呂に浸かる。


「ふぅ~……疲れが取れるのじゃ」


 見てはいけない、そう思いつつも、俺の視線はある部分にいってしまう。

 お湯で浮くって、本当なんだ。

 妹は断崖絶壁だったからな……。


「なんじゃテリー、これが気になるのか?」


 と言って、寄せて持ち上げるミレイユ。


「ぶふっ!!」


 俺は風呂でのぼせてるのか、ミレイユでのぼせてるのか分からなくなって、風呂から出た。


「お、お先!」


 そう言って、俺は浴室を後にする。

 体をタオルで拭いて、扇風機に当たる。

 あ~……コーヒー牛乳が飲みてぇ……風呂上りに飲むコーヒー牛乳は最高なんだよなぁ。

 そう思って辺りを見渡したら、自動販売機みたいな物を入り口に見つける。

 もしかして……!

 そう思っていくと、やはり自動販売機だった。

 そして、買おうと財布を取り出し、気付いた。

 俺この世界の金持ってねぇよぉぉぉぉぉ!!

 ぐふぅ……目の前にコーヒー牛乳があるのに、俺には飲む資格がないと言うのかぁっ!!

 俺が項垂れていると、背後に気配を感じた。


「あのぉ~、何をしてるんですかぁ?」


 すっぽんぽんの、スラリンだった。

 いや落ち着け、元々スラリンはスライムだろ。

 それが裸だからって、毛が生えてる犬や猫に欲情するようなもんだろ。


「?」


 くそっ!可愛いなスラリン!そんなあざとく首をかしげるんじゃないっ!


「あ、えっとさ、コーヒー牛乳を飲みたかったんだけどさ、俺この世界のお金、持ってない事に気付いて……」


「これですかぁ~?」


 ポチッ


 ゴトン


「え?」


「ミレイユ様のお城にある物に、お金がかかると思ったんですかぁ~?」


 押せば、出るのね。

 なんじゃそりゃぁ!?


「ふふ、面白い方ですねぇ、ミツルギ様はぁ~」


 そう言って笑うスラリンに、毒気を抜かれてしまった。

 取り出して飲むコーヒー牛乳は、冷たくてとても美味しかった。

 それから、ミレイユが出てくるのを待って、3人揃ってから部屋へ案内された。

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