第4話 魔王がレベル1の理由
ふぅ、スッキリした。
やっぱり催してると、集中できないからな!
しかし、立派なトイレで落ち着かなかったが。
「あらぁ、お早いんですねぇ」
そう微笑んでくるのは、人型ではあるが、スライム(♀)のスラリンだ。
「それ、他の人が居る前で言わないでね……」
「???」
まぁ、分からないなら深くは言うまい。
男子高校生は多感なお年頃なのだ。
歩きながら、スラリンに少し質問をしてみる事にした。
「スラリンは先代の魔王の時から、仕えてるんだよな?」
「そうですよぉ。先代の魔王様も、先々代の魔王様も、とってもお優しいお方でしたぁ~」
それが、こうして次の魔王になっているという事は、そういう事、なんだよな。
胸にズキリとした痛みが走る。
スラリンは、その悲しみを乗り越えてきたんだよな。
次の世代を守るという気持ちを持って。
「なぁ、人間達と魔物達の戦いって、終わらなかったのか?」
「終わりなんてあるわけないじゃないですかぁ。人間なんて、魔物っていう共通の敵が居なくなったら、人間同士で争うだけですよぉ~?」
さも当然といわんばかりの態度で、スラリンはそう言う。
「だから、魔王様は必要悪として、存在しているんですよぉ~」
必要、悪。
世界の秩序の為に、悪として存在している、のか。
「先代の魔王様はぁ、人間の骨が大好きなお方でぇ……よく攻め入ってきた人間を殺しては、私に食べさせてくれてぇ。骨だけは消化するなと言われていたので、骨はぺってしてたんですけどぉ……」
ちょっと待ってちょっと待って!?
今良いお話だったよね!?
いきなりホラーな話とかやめてくれませんかねぇ!?
「私、食べた者の能力を一部奪える『プレイ(捕食)』って『パッシヴスキル』を持ってるんですよぉ。この『スキル』はかなり珍しい『稀少スキル』なんですよぉ?」
『パッシヴ』っていうと、常に発動する効果がある『スキル』って事だよな。
『魔法』とか、使う『スキル』の事を、『アクティヴスキル』って言うはずだ。
もしかして、先代の魔王さんはそれを見越して、スラリンに色々と食べさせていたって事、か?
「私の中でどんどん溶けていく人間を見て、『見ろ、人がゴミのようじゃ』とか言って笑っていましたねぇ~」
ム○カ大佐かよ!?
やめて、俺の中の先代の魔王さんのイメージが凄い事になってるから!
ってか溶かしてるのスラリンなら見えないよな!?
「そ、そっか。凄い方だったんだな……」
その俺のなにげない一言に、スラリンは表情を暗くした。
「はい、凄いお方、だったんですよぉ~……」
スラリンが今、何を想っているのか。
俺には想像しかできないし、踏み込む事も、会ったばかりの俺にはできそうもない。
気持ちを切り替えるように、話題を変える。
「そういや、ミレイユはなんであんなにHPが減るのが速いんだ?俺と初めて会った時も、いきなりHP減ってたぞ?」
「あぁ~。それはぁ、ミツルギ様を召喚してるからですよぉ」
「へ?」
「召喚ってぇ、召喚した人を維持する為にぃ、自身の生命力を消費し続けるんですぅ~」
なん、だって!?
じゃぁ、ミレイユはあんな低HPで、俺を召喚する為にHPを常に消費し続けてるって事か!?
「ミレイユ様は、『パッシヴスキル』に『超耐性』のスキルがありますからぁ、デバフダメージでは死ぬ事はありません~。けれど、やはり最大HPがあれなのでぇ……お辛い、でしょうねぇ……」
なんてこった。
なら、まずはミレイユのレベルを上げるべきだろう。
ミレイユのレベルが上がれば、最大HPも増えて、同じ減るにしても楽になるはずだ。
「なぁスラリン、ミレイユのレベルを上げる事はできないのか?」
「それはぁ~……えっと、これを見せるの、秘密にしてくださいねぇ?」
「秘密?よく分からないけど、言うなと言うなら絶対に言わねぇよ!」
「ありがとうございます~。それじゃ、これを、ご覧ください~」
そう言って、スラリンがステータスウインドウを開く。
それは、俺が『鑑定』したミレイユのステータスの、更に詳しい情報だった。
ミレイユ♀(9841歳)
職業 魔王
Lv.1
HP 20/20 成長レベルEX
MP ∞/∞
こうげき力 1000
しゅび力 1000
ちから 1(+999) 成長レベルSSS
まりょく 10(+999) 成長レベルEX+
たいりょく 1(+999) 成長レベルSSS
すばやさ 9(+999) 成長レベルEX
きようさ 12(+999) 成長レベルEX
みりょく 999(+999)
NEXTLVEXE.309,653,234,564,299
「う、嘘だろっ!?」
そのあまりの成長レベルに、驚いた。
だけど、それを差し引いても……なんだよ、あの次のレベルまでの経験値量は!?
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……309兆だとぉ!?日本の国家予算じゃねぇんだぞ!?
ドラ○エだって、レベル99までに経験値100万やそこらでいく。
こんなもん、いくら成長レベルがとんでもなかったって、意味ないじゃないか……!!
「分かって、頂けましたかぁ~?」
そう悲しそうな顔で言うスラリンに、頷く事しかできなかった。
「これがぁ、今代の魔王様がぁ、勇者様を頼ろうとした理由なんですぅ~」
そりゃ、こんなんじゃ無理ゲーすぎる。
相手が勇者じゃなくても、負けるだろう。
って、ん?今気になる単語を聞いたような。
今代の?
「えっと、つかぬ事を聞くんだけど……先代の魔王達は、こんな事なかったのか?」
「はい~。今回のこれは、先代の魔王様の呪いが原因なのでぇ……」
な、なんだってー!?
「ど、どういう事だってばよ」
いかん、焦りすぎて某忍者みたいな聞き方をしてしまった。
「そのぉ、先代の魔王様はぁ、ちょっとお茶目な方でしてぇ~」
人間を溶かして骨だけにするような方を、お茶目と済ませて良いものかどうか。
「色んな呪われたアイテムを、装備しまくって効果を確かめるようなお方だったんですぅ~」
「ちょっと待て。もしかして、その呪いって……」
「はいぃ~、どうやら魔王様の次のレベルアップに必要な経験値を、リセットされずに輪廻転生で引き継いでしまったようでぇ……」
ふっざけんなよ先代の魔王!?
今の俺ならもう居ないお前を殴れるわ!
いや返り討ちだろうけどさ!
「要は、その呪いを解けば、ミレイユのレベルアップもできるんだな?」
「おそらく~。ですが、我が軍の解析班でも、無理でしたからぁ~」
我が軍、か。
そういや、魔王軍ってどれだけの規模なんだろうか。
「なぁスラリン、魔王軍ってどれだけの戦力が居るんだ?」
「そうですねぇ、それは私からではなく、担当の者からお聞きした方がよろしいかと思いますぅ~。私はミレイユ様のお世話係ですからぁ、管轄外なので~」
そう言われては、ここは引き下がるしかない。
なんにせよ、俺のする事は決まった。
一つは、俺の鍛錬。
そしてもう一つは、ミレイユに掛けられた呪いを解く事。
ミレイユの居る場所に戻りながら、決意を新たにする俺だった。
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