第2話 魔王の枕はスライム

 話をする為に、魔王に通された部屋。

 ピンク色で彩られた、なんていうか……女の子、な部屋だった。


「なぁ、疑問なんだけど……魔王は」


「ミレイユじゃ。ミレイユと呼べテリー」


「あ、あぁ、分かった。えっとミレイユは9841歳なん……」


 ボフッ!


 顔に座布団(ざぶとん)が飛んできた。


「し、失礼な奴じゃな!レディの歳を詮索するとは!?」


 いや、『鑑定』で載ってたし……。


「誤解せぬように言うておくが、あれは『魔王』としての総年齢じゃ」


「『魔王』としての……?」


「うむ。妾は『魔王』じゃが、もちろん妾の前にも『魔王』はおった。そやつが輪廻転生したのが、妾という事じゃな」


「それじゃ、ミレイユは……」


「うむ、妾は5歳じゃ」


 成程、それならレベル1なのも納得だ。

 体が大人なのは、戦いにすぐ対応する為なんだろうか。


「その、ごめん。俺、ミレイユはすっごい美人だからさ、勝手にイメージを押し付けてた。魔王ってだけで、敵だと思ったり……こうやって話してみて、俺がいかにイメージで判断してたかを実感してるよ。本当にごめん」


 心をこめて、頭を下げる。

 すると、ミレイユは凄く優しい表情をして言ってくれた。


「テリー……お主、良い奴じゃな」


「そ、そうかな?」


「うむ、妾も異世界召喚は気を付けて行ったのじゃぞ?心根の悪い奴を呼びたくなかったでな。見事に成功したという事じゃな、流石妾なのじゃ!」


 俺を褒めながら、自分も上げるという器用な物言いをするミレイユ。

 だけど不思議と、悪い気はしない。

 俺が褒められているからってわけじゃなくて、なんて言うんだろう……ミレイユの雰囲気がそうさせるのかもしれない。

 それから、ミレイユからこの世界についての話を聞いた。


 この世界は東西に二つの大陸に別れているという事。

 東の魔大陸。

 魔物達が数多く生息し、魔王の城がある。つまりはミレイユと俺が居る大陸であるマレイシア。

 西の聖大陸。

 人間や亜人達の国々があるユーラシア。

 各国で勇者召喚が行われており、魔大陸の実りある資源を手に入れようと、聖大陸の軍勢が魔大陸に攻め入って来るという事だった。


「聖大陸って、そんなに生活が苦しいのか?」


「いや、そんな事はないじゃろうな。ただ、人間は強欲じゃ。隣の芝生も自分達のものにしたい、そういう事じゃろうな」


 その言葉に、俺は何も言えなくなった。

 どっちが魔王だよ……そう思ってしまったから。


「亜人達は、人間達には非協力的でな。聖大陸に渡った魔物は狩るが、こちらの大陸に攻めてきたりはせぬ。じゃから、当面の目的は人間達からの防衛じゃ」


「この場所は、知られてるのか?」


「輪廻転生が行われる時に、城ごと場所が変わるでな。まだ場所は分かっておらぬじゃろう。空からは視えぬ結界も張られておるでな」


 そうか、時間はまだあるって事だな。

 なら、俺の修行はするとしても、もう一つ聞いてみるか。


「なぁミレイユ」


「なんじゃテリー?」


「俺はお前を守ると決めた。だけど、俺だけじゃ守りきれないかもしれない。相手は、俺と同じように召喚された勇者なんだろ?なら、そんなに強さに差が無いと思うし……」


「ああ、その点は安心せよ。確かに異世界から召喚された勇者は強い。じゃが、基本的には召喚した者の潜在的な強さに依存されるのじゃ」


「え!?じゃぁ俺、最弱な勇者って事か!?」


「失礼じゃな!?逆じゃ!!」


「えええ……だってミレイユ、スライムにすら負けそうなくらい弱いじゃないか……」


「た、確かに今の妾は弱いが、そうじゃなくてじゃな!潜在的強さと言うたじゃろ!?妾はこれでも魔王じゃぞ!」


「そうだったっけ」


「そうなんじゃー!!」


 今にも泣きだしそうなミレイユに俺は慌ててフォローを入れる。

 いかんいかん、なんかミレイユが面白すぎて、ついやりすぎてしまう。

 見た目はこんな美女でも、中身は5歳の子供なんだもんな……。


「ごめんごめん。って事は、俺一人でも勝てそうではあるわけだな。っても、何かあった時に俺が傍にずっといれるわけじゃないし……仲間は他に居ないのか?」


 そう、俺が他の勇者達と戦っている時に、このひ弱な魔王が狙われたらどうしようもない。

 俺の体は二つないんだから。

 だから、その間守ってくれる仲間が欲しい、そう考えた。


「うむ、もちろん居るぞ!待っておれ、今呼ぶでな」


 そう言ってミレイユは机にあった金色の鈴を鳴らす。

 チリンチリンと心地良い音が鳴り、待つ事数秒。

 コンコンと、扉をノックする音が聞こえた。


「ミレイユ様ぁ、お呼びですかぁ?」


 なんというか、間の抜けた声というか、おっとりした声が聞こえる。


「うむ、入れスラリン」


「はぁ~い」


 今なんて言った?スラリン!?スラリンって言った!?


「お邪魔しますぅ~」


 そう言って入ってきたのは、人型でありながらその体は透けていて、青色をした紛うことなき……スライムだった。


「こやつはスラリンと言ってな、妾の配下じゃ!」


「はい~。スラリンと申しますぅ~。ミレイユ様の枕を担当しておりますぅ~」


「あ、はい。俺は御剣 照矢って言います」


「ミツルギ様ですねぇ~、覚えましたぁ~」


 すっごく丁寧にお辞儀してくれる。

 えぇと……魔王の配下がスライムって、それで良いのか。

 ちょっと『鑑定』させてもらうか。


「『鑑定』」



スラリン♀(3594歳)


スライム族

Lv.1111

HP    356200/401256

MP    45567/45567

こうげき力 57121   

しゅび力  96888   

ちから   57121

まりょく  45567

たいりょく 96888

すばやさ  5599

きようさ  80761

みりょく  ???



「ぶほぅっ!?」


 スラリンつっよ!?

 スラリンつっよ!!

 ごめんなさい、見た目で絶対弱いと思ってました!!

 なんだこの強さ、スラリン一人?で全部勝てるんじゃないのか!?

 少なくとも俺の10倍以上現時点で強いぞ!?

 ミレイユなんて、でこぴん一発で倒せるだろこれ!


「フフン、驚いたかテリー。先祖代々仕えてくれていてな、妾の配下の中でも、かなり上位に位置する配下なのじゃぞ!」


「ああ、驚いた。なんでこんなに強い奴を枕にしてるんだよミレイユは……」


 そう言った瞬間、スラリンさんが俺の首元にナイフ……に変形させた手か!?

 を押し当てる。


「ミツルギ様、ミレイユ様を呼び捨てになさるなんて……命が惜しくないのですねぇ~」


「えええええっ!?」


「待てスラリン。テリーにはミレイユと呼べと、妾が命じたのじゃ」


 その言葉を聞いたスラリンは、さっと身を引き、頭を下げた。


「そうだったんですねぇ……申し訳ありません、ミツルギ様。このご無礼は、私の体を好きになさって構いませんので、どうかお許しを……」


「体を、好きにっ!?」


 健全な男子高校生の俺としては、けしからん妄想が捗るわけですが……!

 でもスライム、なんだよなぁ……。


「お主、分かりやすいのぅ……」


 ミレイユに呆れた顔をされる。

 だって男の子なんですもの。


「後ですねぇミツルギ様~。初対面の方に、正面きって『鑑定』を行うのはぁ、いささか礼儀知らずすぎますよぉ~?」


 あ……それは、そうだ。

 誰だって、自分の情報をあけすけに見られたら不愉快にもなる。

 相手が人間じゃないからって、そんな事にすら思い至らないなんて……!


「っ!すみません、スラリンさん。俺……」


「これスラリン、この世界に来たばかりのテリーをあまり苛めるでない。それに、見られたくなければお主なら『レジスト』できたじゃろ」


「うふふ、はい~。ですので、気になさらないでくださいねぇ~、ミツルギ様ぁ~」


 なんて微笑んで言ってくれるスラリンさんだけど、今のは俺が確実に悪かった。

 相手がそれに対処できるから、して良いなんて事にはならない。


「いや、本当にごめん。普通に考えて、失礼だった。これからは気を付けるよ」


「本当に真面目な方なんですねぇ~。分かりましたぁ、謝罪を受け入れますぅ。これで、さっきの私の件とチャラってことでぇ、どうでしょうかぁ~?」


 なんて微笑んで言ってくれるスラリンさんに、同意を示す。


「うん、それじゃそれでお願いするよ。ありがとうスラリンさん」


「うふふ、私の事はスラリンと呼び捨てて頂いて構いませんからねぇ~?」


「分かったよ、スラリン」


 と二人で微笑みあっていたら、ミレイユから恋人かお主らは!と突っ込みを受けてしまった。

 何はともあれ、これだけ強いスラリンがミレイユの傍に居てくれるなら、安心だな。

 これで一つの懸念は無くなった。

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