月すら静かに眺められないのか
1.人間をやめたい
百人一首を全部覚えてるあの子はとっても誇らしそうでムカついた
皮肉込めて貴女っぽいねって言ったけどかなり後悔してる
言わなきゃ良かった
くすんだ色のワンピースがとっても似合っていてイライラした
そういう色使いイメージに合ってるよって言った
皮肉のつもりじゃなかったけど心をへしまげながら言った言葉だから悪意がこもっちゃったかもしれなくて焦った
自分が思ったより自分は自分の意思の言うことを聞かなくて、それを私は何年も良しとしてきてしまって、そのせいで言葉と文字にちゃんとした形が付けられなくてただの音になっちゃってて悲しい気がする
人間をやめたら人をちゃんと人として見られるのかな
自分が人間じゃなければ他の人間と比べる事もせず自分を愛すことも無く他を愛すことも無くただただ静かに消えられたのかなって最近思う
その思考も考えていた事実もいつか消えるから意味なんてないけどね
2.この時代に感謝してる
電子機器を生み出してくれた人に感謝しなきゃいけないって毎回思うけどその度にすぐに忘れて、私はまた携帯の上にミシンなどを置いてヒビを入れてしまう
感謝はしてます本当です
電気なんてつけなくても外になんてでなくても他の人の存在を感じられるし、全ての知識は手中におさめた気になれるし、紙のふちで手を切ることも無くなって幸せです
店員さんとお話しなくても服は買えるし、食べ物は冷たいまま箱で届くし、最高です
本屋で足が疲れるまで運命の出会いを探すことも無くなったし、1人だけで静かに死んだように眠る夜も来なくなったから
私はひとりじゃないしひとりになれないって気がついてもっと死にたくなったから
感謝してます
私のそれほど奥底でもない所に陣取ってる私がさっさと死んじまえって言っているのを耳をすませて聞くことが出来るようになったこの環境を作り出してくれてありがとう
3.かっこつけた趣味とか
絵画とか詩集を読んでいるとかっこつけだと言われてそう見えても仕方ないし、実際かっこつけだと思う。
絵画に没頭してる人のイメージって絵の解釈とかその作品を描きあげた画家の人生とかをずっとずっと言ってきて、肝心の、その人がなんて思ったか、なんて二の次な感じがあるから。
私にはついていけないから、期待して欲しくなくて絵画を見るのが趣味だって言いたくない。絵画を調べるのが趣味ではないよ。
高尚なものを身の回りに置いておくと自分まで高められる気がして、一生懸命周りをキラキラしたもので埋めつくそうとするけど、毎回自分の汚さとか鈍さとかに失望してこんな行動なんの意味もないんじゃないかって落ち込んじゃう。
詩集は私の心を代弁してくれたり、私に似ているようで違う考えの人達の言葉を短く固まった固形物として取り込んで脳味噌の中で細かく切り分けられるのが楽しくてついつい読んじゃう。
そして書いちゃう。なんでだろう。
私の言葉ごときで泣いてくれる人なんていないはずなのに。それには意味もみいだせないはずなのに。
ナルシソ・イエペスの禁じられた遊びみたいな、子どもの頃父親に聞かせてもらった曲を思い出しては、自分が今上を向いているのか下を向いているのか、立っているのかうずくまっているのか分からなくなって焦ってしまう。
思ったより私の好きな物は高尚じゃなかったのかも。それか私が好きになることによって素晴らしいものはみんな光と熱を失って地に落ちてドロドロに溶けきってしまうのかも。
こんな人間が消費する立場でごめんね。少しでもかっこいい自分でいたかっただけだから死ぬまで少し待ってて欲しいです。
4.逆
逆っていう存在にどうしても憧れてしまうみたい。私だけだとしたら寂しいから他の人もここに連れてきちゃいたいな。
この間までどれだけ今死ねたらいいか、生まれて来なければどれほど楽だったかを嘆き腐っていた癖に、30歳で死んでやるぞと決めてから俄然生きる活力が湧いてきてしまって、本当にしょうのない人間。
逆を追って旅してる。実際はずっと部屋にいるけど。どうやったら綺麗に死ねるか。今の自分は醜いから。
死体をどうやって見つけてもらうか、とか、考えれば考えるほど思考が現実味を身にまとって、私に死ぬ前にやりたいことリストなどを書き出させるから気色悪い。
結局はただ憂鬱とか自己嫌悪などをこねくり回して勝手に希死念慮とかって名前をつけてるだけじゃん。しょうもない人間。
私が感じる寂しさとかその他名付けを放棄したどうでも良い寄りの感情を精一杯着飾らせて、「これが私の真意です」つって。
笑わせるんじゃないよって思うよね。
飾ってる時点で真意ではないかもしれないから、すっぴんにして口にした方がいいのかな。
たすけて、と、ころして、しか無くなるから、そっちの方が労力をかけずに終わりまで行けるかもしれない。
5.月は静かに見たかった
大切な友達から「星が綺麗」ってメールで教えてもらったから、いちばん高い階までエレベーターに乗って来た
あまり街灯がないからとっても綺麗だった
風が冷たくて、冷え性の自分はすぐ四肢の付け根ぐらいまで冷えきってしまったけど、携帯越しに見せ合うあまり写りの良くない夜空は、私と貴女を星座みたいに繋いでた
星がふたつしかなくても、星座はできるよって私があそこで言っていたら何も聞いていないのに急に講釈みたいなものを垂れる人なのだと思われたのかなって今でも少し思う
私が憧れてるのは貴女に綺麗だと言って貰えるような夜空の星だけど、私にとって貴女は太陽だから、そばに居ると元からそこにいなかったみたいに見えなくなっちゃうから悩んでるの
あの夜が満月だったら、星も綺麗だし満月だねって言えたのにな
少しふっくらした月と無数の光る星が浮かんだだけの空だったから
その夜、私とあの子はいちばん空に近かったのに、私だけはあの子に画面を通してなんて言うかだけしか考えてなかった
月で片腕振り上げる蟹もその事に対して怒ってるに違いないや
声帯を持たない私の頭の中の私だけ、ずっとうるさくて、静かに月も眺められなかった
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