第165話 フレッドの実力(2)

 

 フレッドは向かってくるデルフに向けて銃弾を何発も撃つ。


 瞬く間にデルフの目の前は魔力弾で埋め尽くされた。


 恐らくそのどれもが麻痺が宿っているためいくら“黒の誘い”で無効化できるとしても無闇に受けるのは避けるべきだ。

 そもそも先程無効化できると実演して見せたため直撃したとしても追撃してくるのは目に見えている。


 デルフは両手に薄い膜を張るように魔力を纏わせた。

 そして、迫ってくる魔力弾を上空に弾き飛ばす。


 これは先程戦ったロールドが技を放つときに使っていた小技で魔力消費もそれほどなく僅かであるが威力も上がるうえ身を守るのにも役に立つ。


(やはりあの爺さんとの試合は俺をさらに強くした)


 魔力弾は麻痺が宿っているため普通ならば触れただけで勝負ありなのだが触れた瞬間に“黒の誘い”により無効化する。


 デルフだけに許された対処法だ。


 さすがのフレッドもその対処は想定外だったらしく少し顔が曇っている。


 しかし、デルフもフレッドの魔力に驚き少々焦っていた。


 確かに麻痺は協力だがその前に一発一発がまるで豪速に飛んでくる鉄球並みに重い。


 そんなものを何発も連発しているにかかわらずデルフが見えるフレッドの魔力量に変わりはなかった。


(魔力が枯渇するまで耐え続けるのは難しいな)


 デルフは魔力弾を弾きながら隙を探す。


 そして、見つけた。


 デルフは全力で地面を蹴りまるで針に糸を通すかのように魔力弾の雨の僅かな隙間を掻い潜った。


 それを見たフレッドは慌てて標準を定めて放つがデルフは軽くそれを弾く。


 目の前まで来たデルフは足を蹴り上げて銃を持っている手を弾く。

 フレッドはその衝撃に耐えきれず持っていた銃を手放した。


 そして、デルフは無防備となったフレッドの鳩尾にゆっくりと掌を置く。


 フレッドはさせまいと再び魔道銃を作りだしゼロ距離で放つ。


『無駄じゃ』


 フレッドの必死の抵抗はデルフの周りに突如現われた黒の瘴気が魔力弾を飲み込んでしまい無に変えてしまった。


「なっ」


 呼吸を整え冷静となったデルフは目を見開き技を放つ。


「“羅刹掌波らせつしょうは”!」


 魔力の籠もっていないただの力の衝撃波がフレッドの身体を突き抜ける。


 これもまたロールドの“天地てんち”をそのまま取り入れた技だ。


 フレッドは後ろに蹌踉めいているが意識ははっきりとしており鋭い視線はデルフに向いている。


 それほど効いたようには見えない。


 しかし、デルフは見抜いていた。


「なるほど、そういうことか。魔力量が大分減っている。ダメージの代わりに魔力を消費していたということか」

「……半分正解です。していたのではなく元からそういう仕組みですよ」


 その言葉の意味が分からずデルフは再び頭を悩ます。


 そのとき観客席から大きな声が聞こえてきた。


「フレッド!! もういいわ!! あなたはよくやったわ! だから、もう降参して……」


 フレッドは顔を反射的に回して声が聞こえる方向を振り向く。


「お嬢様……」


 そこには今にも泣き出しそうなサフィーが必死に叫んでいる姿があった。


「私を一人にしないで……」


 その一言でフレッドは目を潤ませサフィーに笑顔を向けた。


「大丈夫です。私はお嬢様がご健在の限り死ぬことはありません。ご安心を」


 果たしてその言葉がサフィーに聞こえたか分からないがサフィーは涙を必死に堪えて頷いた。


 そして、フレッドの目付きは鋭くなり再びデルフに向く。


「これは負けられませんね」


 デルフはフレッドの魔力量が増幅したことを見逃さなかった。


 さらに観客席では涙を堪えることに必死になっているサフィーの頭をフレイシアが優しく撫でている。


 デルフの視線に気が付いたフレイシアが笑顔を向けて小さく手を振ってきた。


(陛下、気楽ですね。待てよ……これ俺が勝ったら、確実に悪者じゃないか?)

『何を今更、元からそのつもりで動いておるじゃろ?』

(……そうだけども)


 デルフとリラルスが言い合いをしている間にもフレッドは両手に一丁ずつ魔道銃を作りだし重ねた。

 すると魔道銃は一つになって禍々しい形に変わる。


 大きさも丁度倍ほどになった。


(だが、俺も負けるわけにはいかない)


 フレッドはその銃をまるで避けてみろと言うかのようにゆっくりと構え標準を合わせてくる。


「行きます!」


 デルフは笑みを浮かべる。


「来い!」


 そして、その魔道銃からデルフの身体を包み込んで余りある大きさの魔力弾が放たれた。


 その大きさにもかかわらず先程の魔力弾とは桁違いの速度でデルフの速度といえども避けることはもはや不可能だ。


 デルフは即座にそれを両手で受け止めるがその威力も予想を遙かに上回り徐々に後ろに足が滑っていく。


 さらにそれに宿った麻痺が“黒の誘い”で消し去っても上書きしていき身体を蝕み始めてきた。


(これは不味いな……)


 デルフは一か八か足に魔力を纏わせて魔力弾を蹴り上げた。

 だが、まるで地面を蹴っているかのように思わせるほどビクともしなかった。


(……まだ力が足りないか!!)


 もしこのまま蹴り上げられなかった場合、片足だけではこの威力に踏ん張りきれず彼方まで飛ばされる恐れがあった。


 デルフはさらに力を入れる。


「うおおおおおお!!」


 全力を入れることでようやく蹴り上げることに成功した。


(一先ず脅威は去った)

『まだじゃ!』


 そのときすぐ背後から殺気が飛んできた。


 振り向くとフレッドが魔道銃を両手に持ち佇んでいた。

 その魔道銃をデルフに向けて何発も連発する。


 デルフは先程の魔力弾を弾いた反動で身動きが取れずそれをその身に受けるが麻痺の効果が身体に巡る前に“黒の誘い”を強めて無効化する。


 そして、魔力弾を放ち続けているフレッドの頬に拳を入れる。


 それで少しは怯んでくれたが再び放とうとするのが目に入った。


 先手を打つことで対処しようと動くがそれはフレッドの罠だった。


「そうくると思っていましたよ!」


 フレッドは銃を放つのではなくそのまま鈍器としてデルフに振り下ろしたのだ。


 デルフの頭に鈍い音が響き体勢が崩れる。


 頭から流れる赤黒い血が顔に伝い今にも気絶してしまいそうになるほどの衝撃だった。


 だが、デルフは失いそうになる意識を必死になって保ち崩れる身体を捻る。


「なっ……その体勢から!?」


 フレッドの眼前にデルフの両足が降りかかる。


 フレッドはそれを防ごうと魔道銃を構えて放つが外れた。

 いや、違う。


 デルフの目的は足で叩きつけることではない。


 本当の目的は両足でフレッドの頭を挟み込むことにある。


 そして、何か対処される前にデルフは勢いよくフレッドの頭を地面に叩きつけた。


 デルフは後ろに飛びフレッドの出方を待つ。


 鈍痛が続く頭を抑えているが傷自体は既に自然回復で塞がっておりデルフとしてはまだ戦う余裕はある。


「はぁはぁ……思ったよりも体力を削ってしまったか。このまま立ち上がらないままでいて欲しいが……」


 だが、フレッドはまたも何事もなかった様に起き上がった。


 血を一滴も垂らしておらず痣も一つもない。

 誰もがダメージがないと確信する容姿を保っている。


 だが、魔力量は大幅に減っていた。


 しかし、デルフはまだ戦いは続くと身構える。


(確かに魔力は減っているが戦えない程ではない)


 だが、フレッドは両手をあげた。


「降参です」


 デルフは拍子抜けするがようやく肩の力を抜いた。

 そして、フレッドに近づき尋ねる。


「まだ、戦えただろう?」

「はい。ですが、活動限界が近くこれ以上戦えばお嬢様の身に危険が及んだ際、お守りできませんので」

「束の間の勝利よりも主の身の安全……当然だな」


 デルフはそのフレッドの答えに深く納得した。


 そして、試合終了の音が響き渡る。


 こうして、デルフの優勝が決まった。


 だが、これで終わりではない。


 むしろ今からが本当の戦いだと気を引き締める。


 だが、デルフの頭の中はそのことしかなく本来の敵についての警戒が抜けてしまっていた。


 こうしている間にも着々と危険がすぐ近くまで迫ってきていることをデルフたちはまだ知らない。

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