第74話 サムグロ王国の陰謀(4)

 

(暑い……)


 真っ暗な空間の中、リラフィールはうなされていた。


 この空間はとても暑く人が耐えることができるものではない。

 まるで火炙りをされているのかのようだ。


 いや違う、とリラフィールは気が付く。


 気温が暑いのではなく自分の身体の体温が熱いのだと。


 鼓動の激しさが頭にうんざりするほど伝わり、その一回一回が途轍もない衝撃がある。

 意識が朦朧として思考が上手く定まらない。


(どうしてこんなことに、なぜ私たちがこんな目に合うのか、私たちが一体何をした?)


 そんな自問自答だけがいつ途切れてもおかしくないリラフィールの心中で繰り広げられていた。


(私が村で足跡を見つけなければ、目撃者に詳しく話を聞かなければ、お父様に報告しなければ、お父様に言われたとおりに任せっぱなしにしなければ……)


 しかし、リラフィールには一切の落ち度などない。

 理解しているはずなのだが自分を責めることを止めることができない。


(もしかしたら、ジャクスや家族全員を救うことができたかもしれなかった)


 それは自信過剰かもしれない。

 だが、ほんの僅かでもその可能性があったはずだとリラフィールは思ってならない。


 人の耐えることができる体温をとうに超えてしまっている身体は既に汗も掻かなくなった。

 身体の機能は冷やすことを諦め徐々に終わりに近づいていく。


 もう意識を保つことが限界になったとき、リラフィールは力を抜き最後くらい自分を責めるのは止めようと思った。


 そこで、自分の代わりに責めるべき人物を記憶の中で探っていく。


 その適任の人物が案外早く見つかった。


 それは……


(サムグロ王!!)


 そこからリラフィールの考えはガラッと変わった。


 そうだ、なぜ自分を責めていたんだ。

 全ての元凶にして、全ての悪根。

 あいつがいなければこんなことにはならなかった。


 そんなサムグロ王に対しての憎しみが急激に増大していく。


 そして、リラフィールの思考は迷走してしまう。

 いや、これが普通なのかもしれない。


(あいつがいなければ、なぜあいつが王を名乗っているのか、そもそもこんな国が在っていいのか……。そうだ…こんな国、滅んでしまえばいい。絶対に許さない。地の果てまでも追いかけて必ず滅ぼしてやる。許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない!! 力が……力がいる)


 そのとき、リラフィールに囁く声が聞こえてきた。


『力が欲しいか? ならばお前の全てを捧げ受け入れろ。抵抗するな』


 その声は自分が作りだした幻聴かもしれない。


 だが、リラフィールには天から差し伸べられた甘い声に聞こえた。


「受け入れます! だから、私に力を!」


 リラフィールはこのとき人間を捨てた。

 人ではない何か、悪魔に身を落としたのだ。


 悪魔は自分の身体の調子を狂わしている黒血に意識を集中させる。


 そして、異物であったその血を自分の身体の一部だと認め受け入れたのだ。


 すると、数々の発作や出血が一瞬で消え去ってしまった。




 目が覚めた悪魔は枷を塵に変えさらに側にいた忌々しいサムグロ王の野望に手を貸す騎士を造作もなく屠った。


 サムグロ王に手を貸す者は全て同罪。

 人を殺すことの抵抗や躊躇、ましてや後悔など微塵も感じない。


 そして、衣服生成(ドレスチェンジ)を発動させる。


 身体能力、魔力量が数十倍に跳ね上がった身体は一から衣服の生成を容易く可能とする。


 自分の格好に満足した悪魔はゆっくりと上を向く。


 そして、身体の中を走り回っている無尽蔵に思えるほどの魔力の一部を少し天井に振るうだけで先程の騎士みたいに地上までの隔たりを塵にしてしまった。


 そこでここが地下にある実験室であることを悟ったが今ではもうどうでもいい話だ。


 地上に飛び出た悪魔は即座に魔力を全開で解き放つ。


 黒の瘴気が悪魔から広がる。

 その瘴気が悪魔周辺の建物を包み込んでいき次々と塵にしていく。


 それは側にいた平民たちにも被害が及ぶ。


 悪魔にはこの王都に存在する者の全てがサムグロ王の騎士に見えてしまっていた。


 もうあの温和で生真面目なリラフィールの人格は微塵も感じさせない。


 ただ、敵味方見境なく破滅を運ぶ憎悪と怒りに溢れた悪魔だ。


 平民からしたら突如現われた平和を脅かす災禍にしか見えない。


 そのとき悪魔の前に禍々しい黒い大太刀が突き刺さった。


 悪魔は辺りを見渡すがその出所は分からなかった。


 だが、そんな些細なことはすぐに切り捨て悪魔は丁度良いと大太刀を抜き取る。

 そして、試しに魔力を込めてみた。


 大太刀は塵となって消えることなくまるで血管のような筋が刀身に浮き出て紫の脈を打っている。

 そして、紫に輝き始めた。


 悪魔の魔力に順応したのだ。


 悪魔は満足そうに口元に笑みを浮かべて空中に飛び上がる。


 大太刀を振り上げ魔力を切っ先に集中させる。


 切っ先に禍々しい黒の魔力が円を描くように漂いやがて黒の球体と形作った。


 そして、悪魔は大太刀を大きく振り下ろした。


 大太刀から黒の球体が発射され瞬く間に王都の地面に衝突する。

 その地面は地響きを立てて黒の瘴気が急激に拡散する。


 その魔力に当てられた建物、生物全てを黒く染めた後しばらくして塵と変える。


 老若男女、騎士や平民などの身分は見境なく。


 次第に辺りでは悲鳴や絶叫が鳴り止まずに人々は逃げ惑っていた。


 まさに阿鼻叫喚の図。


 しかし、見境がなくなり甘さも消えた悪魔に見逃すという文字は残っていない。


 逃げ惑う無縁の罪なき人々の方向に再び魔力を解き放とうとする。

 だが、大太刀が徐に動き出しその方向をずらした。


 解き放った魔力は建物に不規則に揺れながら向かっていき黒に染める。


 悪魔は大太刀に不思議そうに目を向けたがそのとき背中に衝撃が襲う。


 首を向けると大勢の騎士が集合していた。


 そして、その中央には狂気染みた笑みを浮かべている敵がいた。


「サムグロ王!!」


 目標を見つけた悪魔は牙を剥きサムグロ王を睨み付ける。


「ふはははは。ついに、ついに成功した!! これで!! ついに計画を実行に移せる!!」


 空中に漂っている悪魔は勢いづけてサムグロ王に急接近しようとするが護衛の騎士たちがそれを阻む。

 その最中、纏っている瘴気が自身の身体を包み込んだ。


「煩わしい!!」


 悪魔が右手を軽く振るとそこから飛び出た魔力がその騎士たちに降りかかる。


 すると、騎士たちの身体が今度は黒く染まることなく焼けていく紙のように散っていった。


 騎士たちの後ろにいた魔術師たちは火の玉や電撃などの魔法を次々と飛ばしてくるが悪魔に直撃する前に何事もなかったかのように消し去る。


 騎士たちが剣で攻撃しようにも悪魔に触れた瞬間に散ってしまう。


 まさに護衛軍には為す術がなかった。


「お前たち! 下がれ!!」


 サムグロ王がそう叫ぶがもう遅い。


 悪魔は手刀である騎士の首を跳ね、拳である騎士の鎧ごと腹を貫き、蹴りである騎士の胴体を半分にして次々と蹴散らしていく。


 悪魔が得た物は魔力だけではない。

 身体能力も桁違いに跳ね伸びており常人のそれを遙かに上回り攻撃の一つ一つが防御不可能となっていた。


 放った拳から魔力が飛び出すため拳を避けたとしてもその魔力がその者の命を絶つ。

 それどころか魔力はさらに突き抜け建物を瓦解させる。


 悪魔自身も手に入れたばかりの力を制御仕切れていなく暴走気味だ。


 魔力は悪魔から飛び出た後も暴れ続けている。


「馬鹿者どもが!」


 サムグロ王は騎士たちを押し退け王自身が前に出る。


 危険を察知した悪魔は飛び上がり上空に漂う。


 サムグロ王は自分の指を切り裂き地面に指を凄まじいスピードで動かし始めた。


 僅か数秒で何百ものの血の文字で魔方陣を作ったサムグロ王は両手を重ねて魔力を溜めた後、魔方陣の中心に両手を力強く置く。


精神支配マインドコントロール!!」


 サムグロ王の声と同時に魔方陣は輝きだす。

 そして、光が飛び出した。


 その光とともに魔方陣自体も真っ直ぐ悪魔に向かっていく。


 精神支配、その名の通り対象者を支配する魔法だ。


 その効果は対象者をほぼ永久的に術者の支配下に置くという恐ろしく反則とも言える魔法だった。


 しかし、筆記魔法である上にそれを発動するための魔力量も甚大。


 それに本来ならば筆記魔法であるこの魔法はその文字がある場でしか役に立たない。


 しかし、サムグロ王は魔方陣を飛ばしそのまま烙印として相手に埋め込むことで永久的に持続する魔法として確立した。


 それでも問題は二つ生じていた。


 一つはいくら魔方陣を飛ばしたとしても魔力が動力源であるためそれが尽きれば勝手に消滅してしまうことだ。


 だが、サムグロ王は魔方陣が動く動力源を自身の魔力ではなく対象者の魔力、生命力で動くように作り替えてしまった。


 そして、一番の問題は魔法の天才と呼ばれるサムグロ王の魔力量であっても全く足りないということだ。


 サムグロ王がこの日のために何十年と魔力を溜め続けてようやく放てる魔法であって軽々しく放てる物でない。


 現に放ったサムグロ王は長年溜め続けたのにもかかわらず魔力の底が殆ど尽きてしまい、いつ意識を失ってもおかしくなかった。

 彼を立たせるのは今までの実験の執着からだ。


 精神支配の魔法が悪魔に高速に向かっていく。


 悪魔はその魔法がどんな魔法なのか分からずに真っ向からサムグロ王に突撃する。


 そして、悪魔がサムグロ王に攻撃を仕掛けるまえに精神支配の魔法が悪魔に直撃した。


 悪魔は急に脱力し大太刀を地面に落とす。


 目の色がなくなり無意識状態になって顔を落とした。


 額には先程の魔方陣が縮小して描かれていた。


「ついに! ついに! ようやく余の苦労が実を結んだ! ふははは…………は?」


 サムグロ王の高笑いが途中で止まってしまった。


 今まで続けていたサムグロ王の余裕の笑みがそこで失われたのだ。


 サムグロ王の視線は悪魔の額に釘付けであった。


 くっきりと悪魔の額に写っている魔方陣がジワジワと黒く染まりそして砕けて塵と消えてしまった。


「な、なんだと? 余が何十年と溜め込んだ魔力の結晶を……こうも容易く!?」


 そして、目の色が戻った悪魔はその鋭い目でサムグロ王を睨み付ける。


「私は! お前を決して許さない!! 楽には死なさない! 悶え苦しむ痛みの中、お前の犠牲になった者たちに懺悔しながら跡形もなく消え去ってしまえ!」


 悪魔は両手を天高く掲げ黒の瘴気を自分の限界超えて全てをそこに集中させる。


 サムグロ王はおぼつかない足で後退りする。


「くそ!! 巫山戯るな……余の支配下に属さないなど成功体なものか! この失敗作が!!」


 悪魔が溜め込んだ魔力量はこの王都を全て焦土に変えてしまうほどの量であった。

 サムグロ王は悔しそうに悪魔を睨み付けている。


「覚悟しろ!! サムグロ王!!」


 悪魔がそれを放とうとしたとき空中にいるはずの悪魔の顔に何かが飛びついてきた。


 堪らずに振り払うと慌てて自分の髪を握りしめているリスが目に入った。


 魔力に晒されているにもかかわらず黒く染まることなく平然とするリスだったがその視線は悪魔に向けられていない。


 悪魔は恐る恐るリスが見詰めているほうに目を向ける。


 そこには見覚えがある姿が目に映った。


「公爵様……お義兄さま。……それにお姉様」


 たまたま王都にいたのか公爵たちと実姉であるエストラであった。


 その姿を見た悪魔に正気が戻った。


 エストラと少し視線が合った気がしたが気のせいだろう。


 次にリラフィールが見たのはこの王都の惨状である。


「これを私が……」


 リラフィールは己の両手に溜めた禍々しい魔力を静かに霧散させた。


 しかし、リラフィールの中にある怒りが消えたわけではない。


 鋭い視線でサムグロ王に目を向けるとリラフィールが怯んだ僅かな合間であったが新たな魔法を発動させていた。

 サムグロ王はもう限界であるはずなのにその威力は凄まじかった。


 リラフィールの頭上に強力な空気の圧がのし掛かった。


 それに抗えずに地面に叩きつけられる。

 魔力を放出しその空気の力を分散させるがまた新たに同じ魔法をサムグロ王は放ちリラフィールの身動きを止める。


「はぁはぁはぁはぁ……くそ! 失敗作は壊すのが主義なのだが……はぁはぁ……もうそんな力は残ってない。……仕方がない!」


 サムグロ王はさらなる魔法を発動させた。


 光の鎖が地面から湧き出てきてリラフィールの両手両足を縛る。


 リラフィールはその鎖を塵に変えるがすぐに元に戻ってしまう。


 それに無意識状態のときは魔力を容易く扱えていたが正気が戻ったリラフィールには魔力があまり制御できていなかった。

 再び魔力を放つのに少しの時間差が生じてしまっている。


 それでもサムグロ王との攻防戦には拮抗できている。


 それどころか、光の鎖を壊すに比例してサムグロ王の呼吸の乱れが酷くなることから相当な魔力を消費しているのだろう。

 持久戦となっても依然としてリラフィールの有利は変わらない。


「まさか、お前が母上が申していたジョーカーなのか。余の野望の最大の障壁。それを余自ら作り出してしまうとは……させん! させんぞ!」


 圧倒的不利であることはサムグロ王も重々承知しているのだろう。


 だから、サムグロ王はさらに魔法を発動させた。


 縛られたリラフィールのすぐ下の地面に光が円形に灯る。

 その光が灯った瞬間にリラフィールの身体が宙に浮く。


(何を……)


 リラフィールも抵抗せず見守っているわけではない。

 両手両足を縛る光の鎖を魔力によって怖そうとしているがやはり壊しても壊しても元に戻ってしまう。


 そうしている間にサムグロ王は最後の力を振り絞り両手を思い切り振った。


 するとリラフィールの身体は真上に上がりそのまま北に向かって飛翔する。


 数秒もせずに山が見え衝突しそうになるが直角に曲がり扉の開いた祠の中にリラフィールは突き進まされる。


 そしてリラフィールが祠に入った瞬間、待っていたかのように石の扉が思い切り閉まった。


 扉には独りでに文字が一文字ずつ浮かび上がりやがて光を発した後、静かにすぅーと消えていった。


 それと同時にリラフィールを縛っていた光の鎖は消える。


 リラフィールはすぐさま起き上がりその扉を壊そうと魔力を使う。


 しかし、魔力はリラフィールの身体から上に昇っていき天井に吸い込まれていく。

 全く制御が効かなかった。


 再び魔力を拳に集中させるが瞬く間に溜めた魔力がリラフィールから離れて上昇していく。


 それでリラフィールはこの空間では魔力が吸われて外に流されていることに気が付いた。


 無駄と理解したリラフィールは苛つきで舌打ちをしてから渋々溜めていた魔力を解除する。


 そして、今度は魔力なしに力任せで扉を殴りつけた。


 だが、扉は石でできているように見えるが鉄を超える強度があり跳ね返ってしまう。


 どうやら、この祠の中だけでなく扉にも強力な魔法が厳重に仕掛けられているようだ。


「嘘……」


 そこから何度も何度も扉を叩きつけるがその程度で破壊する柔な魔法であるはずがなくやがて諦め拗ねたように隅に座り込んでしまった。


 少し冷静になってから改めてその祠の中を見渡すと何かの部屋のように感じた。

 机があり椅子もある。

 一部屋しかないが生活感のある空間だ。


「いつ、魔法が解けるか分からないけど待つしか……」


 しばらくして魔力を出していないのだがほんの僅かに吸われている感覚があることに気が付いた。


「完全に無力化するつもりのようですね。また、牢屋ですか……」


 そのとき、髪に少し重みが感じた。


 髪に手を伸ばすと何か物体があり両手でそれを掴んで顔まで近づける。


「あなた……たしかあのとき助けてあげたリスよね? ……ごめんなさい。あなたまで巻き添えにしてしまって。それにあのとき私を止めてくれてありがとう」


 リラフィールは自分の最後の血が繋がる家族である姉のエストラを危うく王都ごと滅ぼしそうになっていたことを思い出す。


「お姉様、無事かしら……」


 リスは祠の中を自由に走り回っている。


 リラフィールはこの祠の中はまだ安全と言いきることが出来ないので気をつけるようにと言おうとするがその前に言葉が詰まる。


「……そうね。名前が必要ね。ルースフォールドの頭文字を取って……ルーってどうかしら? 安直すぎるかしら?」


 ルーは気にせずにはしゃいでいる。


 そんなルーを儚い視線で見詰めた後、リラフィールは顔を身体に埋める。


 そして、サムグロ王への憎悪がさらに募っていく。


「早く早くここからでないと……。私にはもう復讐しか残っていない。……サムグロ王を滅ぼして、奴が作り上げた物を全て壊す。同じ目にあわせるまでは私のこの気持ちはずっと燻ったまま………」


 そこから約四百年もこの祠に閉じ込められるとは今のリラフィールは思いもしなかった。




 リラフィールは知らないことだが今から少し先、公爵であるデストリーネ家当主のグラスニー主導の革命が起こった。


 リラフィールとの戦闘によって自軍の騎士の過半数を失い魔力も全て使い果たしたサムグロ王にその革命を対処する術がなかった。

 流石のサムグロ王でも剣術までは培ってなかったのだ。


 サムグロ王が討たれた後、サムグロ王国はすぐに瓦解し新にグラスニーを王としたデストリーネ王国が誕生した。


 そして、リラフィールのことを滅びの悪魔と呼び、その正体がリラフィールであることは王のみが知り得る国家機密となった。


 


「いったい何年経ったのでしょうか……。十年は経ったでしょうか」


 祠の中に閉じ込められているため時が流れる感覚が薄れてしまいあれからどれぐらいの時間が経っているか分からなくなってしまった。


 だが、リラフィールの姿は全く変わっていない。

 ルーも同じだ。


 この祠に何か細工されているか、黒血の副作用かはリラフィールには分からないが重要なことは時間が経ったということだ。


 見た目は変わらずとも年齢が止まることはない。


「年寄りは話し方が変わるものですよね? ……うーん、公爵様の真似をしてみましょうか」


 リラフィールは偏見から試しに少し間を開けてから公爵の真似をやってみる。


「どうじゃ? 少しは変わったかのう?」


 側で見ていたルーは少し棒読みであったが言うのも面倒くさく「いいんじゃない?」と言うような視線で見詰める。


「ふむ。私、少し物真似に才能があるかもしれません。あっ、……定着するのはまだまだ先のようです。それにもっと自然に言わないとのう」


 そしてさらに数百年の時を経て、突然、扉の文字が再び光り始めた。

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