第45話 枷を課した武士

 

 つい先程、フレイシアは王女としての務めでフテイルに挨拶しに伺った。

 デルフももちろん御側付きとして同行したのだ。


「見た目よりも温和な人でした」


 デルフは会話の中に入っていないがフレイシアと喋っている姿を見てそう感じた。


「もちろんです。我が国を末永く支えてくれている人ですから」


 フレイシアの様子からしてもこの国でフテイルの信頼は厚い。


 その後はフテイルという国について色々と話してもらい、いつの間にか部屋の前まで来ていた。


「では、フレイシア様。私は一度、本部に戻ります」

「ええ。ご苦労様です」


 一礼をしてデルフは再び歩き始める。


 


 本部に戻ったデルフは一直線に執務室に向かう。


「アスフトルさん。何か問題は起きましたか?」


 それを聞いてばつの悪そうな顔をしたがそれをすぐに戻した。


「ああ。少し起きたが安心してくれ。もう解決しているが……。ま、まぁ事の次第はこの報告書にまとめたから後で読んでくれ」

「了解しました」


 何事かと思ったデルフはほっと胸をなで下ろす。

 少しアスフトルが言葉に詰まっていたが気にしなくても良いだろう。


(警備の方はガンテツたちで事足りそうだな。やはりあいつらに任せたのは正解だったようだ)


 デルフは自分の目に狂いはなかったと少し嬉しく感じる。


「俺も少し余裕ができたので後回しにしていた演習場の備品の整理と手入れをしてきます」

「わざわざ隊長がすることじゃないだろうに。それこそ任せてくれれば良い」

「いえ、皆も頑張ってくれているのですし自分だけが綺麗な姿なままというのも面目が立ちませんので」


 そう言うとアスフトルは含み笑いする。


「隊長は変わらないな。誰も地位が上がったら性格も変わるのだと思っていたが」

「いえ、多少は変わっていると思いますよ?」


 デルフは机をチラリと見る。


「そ、それではアスフトルさん。また」


 そして、デルフはそそくさと演習場に向かった。




 アスフトルはデルフを見送った後、机に積もっている書類に目をやる。


「まだ、こんなに……。あっ! 隊長! ……逃げたか」


 この書類を床に飛び散らしたらどれほど頭が楽になるのか想像してみる。


「はぁ~」


 だが、片付ける手間が増えるだけで仕事が減るわけではないと考えたアスフトルは憂鬱ながらも再び筆を持った。




 演習場に着いたデルフは扉を開けると中央に立っている人が目に入った。


(……見ない顔だな。いや待てよ。……どこかで)


 その男は着物を着ており腰には刀を差している。


 そして、デルフは思い出した。


(たしか、フテイル王の側近の一人だったか。あのとき、目を合わせてきた奴だ。……しかし、近くで見ても本当に恐ろしく何も感じないな)


 その男は演習場の周りをゆっくりと眺めていた。


 すると背後にいたデルフに気が付いたのか。

 いや、既に気が付いていただろうが身を翻してデルフに視線を移した。


「貴殿の噂はかねてより存じている。某はタナフォス。お見知りおきを。デルフ・カルスト隊長殿。それと、申しておくがここに無断で入ったわけではない。カタルシス団長殿の許可をもらったうえ安心していただきたい」


 微笑みながらタナフォスはそう答える。


「許可を取っているなら文句は何もない」


 デルフも笑いながら答える。


「しかし、見事な修練場だ。我が国にはこのような広さのあるものなど見当たらない」

「御前試合に使われるときには闘技場になっている。まだ、俺も見たことはないけどな」


 ふむ、と頷いてタナフォスは周囲を見入っている。

 それほどフテイルでは珍しい場所なのだろう。


「ところでタナフォス殿はフテイルでどのような役職を?」

「これは失敬。某は軍師の任を殿下から賜っている」


 軍師となると戦争において要となる人物になる。

 王の背後に控えていることからよっぽどフテイルの信頼は厚いのだろう。


 だが、しかしデルフには何かが引っかかった。

 その疑問が何かを考えて言葉を紡いでいく。


「タナフォス殿が軍師? 失礼なら謝罪するがてっきり勇猛な武将であると思っていた」

「ハッハッハ。貴殿は某を買いかぶりすぎだ。某は戦場では策を練ること以外、何も役に立たない。某よりも貴殿の方こそ油断ならない実力をお持ちのようだ。よもや、あのようなところから覗き見されるとは思いもしなかった」


 恐らくフレイシアの部屋でフテイルの御列を見ていたときのことを言っているのだろう。


 さらにお互いの探り合いが続いていく。


「……やっぱり俺が見えていたのか」


 デルフは苦笑しつつもタナフォスが侮れない者であると心に刻む。


 あの距離を目視できるほどの視力を持ちながら前線で戦わないとは到底思えなかった。


 デルフは尻尾を掴むため気になっていたことをぶつけてみる。


「嘘が不得意のようだな」

「なぜそう思うのだ?」


 タナフォスは不思議そうに返してくる。


「あなたからは何の気配も感じない。それでは故意に抑えていると言っているようなものだ」

「……これは一本取られたか」


 タナフォスは困ったように苦笑いをしている。


「しかし、某が戦場で戦力にならないというのは嘘ではない」


 そう言ってタナフォスは腰に付けていた刀の鞘を引き抜く。


 デルフはその刀を見て目をしかめた。


 その刀身は途中でへし折れてしまっている。

 とてもじゃないが刀としての攻防の役割を果たすのは不可能だ。


「昔、某はとんでもない過ちを犯した。それ以後、己に枷を付け自身は死合いをできない身にした。これは自分への戒めとして残してあるものだ」

「できないようにした?」

「そのままの意味だ。ある呪術師に頼み某に呪いをかけさせた。もちろん、止められたがな。もし、自身が定めた約定を破れば某の身体は徐々に衰弱しやがて死に至る」


 そう言ってタナフォスは着物の袖を捲った。

 するとタナフォスの右の二の腕にデルフでは理解ができない小さい文字がびっしりと書かれているのが目に入った。


 何が書かれてあるのか分からなかったがこれが呪いなのだろう。


 デルフは静かに息を呑む。


 この男の覚悟が相当なものだと言うことに。

 いったいこの男は過去に何があったのだろうか。


 気になるがそれよりも新たに湧いた疑問をぶつける。


「しかし、そうなるとなぜ軍師をやっているんだ?」

「戦をできないようにした者が軍師を担っている。当然の疑問であろう。だが、殿下に頼まれたとなると断ろうにも断れぬ」


 フテイル王曰く、若く実力がある者を遊ばせておく程自国は富んではおらぬとのことだ。


「それよりも自身の弱点とも言えることを俺に打ち明けて良かったのか?」

「貴殿ならば他言はしないであろう?」


 大した信頼だ。

 そうデルフは苦笑する。


「ああ、誰にも言わないよ」


 タナフォスはふっと笑う。


「ところでデルフ殿、よろしければ一つ手合わせを願えないだろうか」

「……戦えないのではないのか?」

「それなら心配はない。死合いでなければよいのだ。普段は若い武士に稽古を付けているのだが近頃はしていなくてな。たまには身体を動かそうと考えた次第だ」

「ふっ。本音はどうなんだ?」


 タナフォスは目を瞑り口元に笑みを浮かべる。


「ふふふ、貴殿には敵わぬな。この国の隊長とはどれほどの腕であるか気になったというのが本音であるが一番は剣を交えればお互いがよく分かる」


 タナフォスは微笑しながら言う。


「違いないな」


 デルフとしても同意見だ。


 今は戦いの中に身を置いていないとはいえフテイルの幹部の実力は気になっていた。


 デルフは演習場の端にある倉庫の中から木刀を二本取りだして一つをタナフォスに投げる。


「これでいいか?」

「かたじけない」


 お互いが間合いを取って構えを取る。


 デルフは木刀を持つ感触を懐かしんでいるとタナフォスが声を掛けた。


「そうか貴殿は右腕が義手であったな」


 タナフォスは片手で構えているデルフを見てそう言った。

 さも驚いた様子はなく事前にそのことを知っていたのだろう。


「だからといって手加減の必要はないぞ。これでも隊長という肩書きを背負っているからな」

「無論。貴殿を侮る真似はせぬ。……では、参る!」


 タナフォスは両手で持った木刀を顔に近づけて霞の構えを取った。


 そして、地を蹴る。


 タナフォスが持った木刀の切っ先が急速にデルフに迫る。


 デルフは横に飛び退きそれを避けるがタナフォスは予測していたように方向転換をしてすぐさま追いかけてきた。


「ちっ!」


 すぐ側面にタナフォスは近づいてきているおり透かさず迎え撃つ体勢を整える。


 デルフは顔に迫ってきた木刀を首を傾けて避けた。

 だが、それでも顔を掠めてしまい血が垂れる。


 木刀とは思わせぬ切れ味を生んだタナフォスの速さと力は侮れない。


 そして、そのお返しとばかりにデルフはタナフォスの横腹に木刀を振る。

 しかしタナフォスの木刀は既にデルフの反撃に立ち塞がっていた。


 木刀と木刀がぶつかり手応えを感じなかったデルフは飛び退き距離を取る。


(確かに、強い。……がそれだけだ。何というか違和感が。……そうか)


 デルフはまだタナフォスは本気の欠片も出していないことを悟った。


「恐れ入った。よもや、ここまでの実力とは」

「タナフォス殿も久しぶりの戦闘とは思えないぞ」


 そのとき、口元に気品のある笑みを浮かべていたタナフォスの眉がピクリと動く。


 タナフォスの視線は演習場の出入り口を見たように感じたがデルフはそれに釣られて目を離すようなことはしない。


 タナフォスは目を瞑り、次に開いたときの目つきは歴戦の猛者を思わすような威圧感がデルフの身体を引き締める。

 決して殺気ではない。


 言ってみればただの圧力を放っているようにデルフは感じた。


「そろそろ、お互いに様子見は止めて一つ決着を付けるとしよう」


 タナフォスはこの戦いに熱くなってきたらしく不敵な笑みを浮かべた。

 デルフも同じく口元を釣り上げて構えを取る。


「望むところ」

「行くぞ!!」


 タナフォスは刀を地面に近づけ居合い切りの構えを取り真っ直ぐに飛んだ。


 デルフに一瞬で近づいたタナフォスはそのまま木刀を振り抜く。

 それを迎え撃つデルフは木刀で防ぎタナフォスはそのままデルフの背後まで通り抜けていった。


 だが、それで終わりではなかった。


 自分に襲ってくる威圧感が止まないことに気が付いたデルフは反射的に身を翻す。


 目に映ったのは既に頭上に木刀を掲げているタナフォスだ。


 その木刀がもし刀であれば不気味な輝きを放っていただろう。


(速い!?)


 タナフォスは両手で木刀を強く握りしめ力強く振り下ろす。


 間一髪、木刀で防ぐことが成功したデルフだったがその衝撃は想像を絶するものだった。


 デルフは防いだにも関わらず身体が後方へ吹っ飛び数回地面を転がった後、壁にぶつかった。


 壁には少しヒビが入っており痛みに耐えながらデルフは立ち上がる。


「お返し……だ!」


 デルフは木刀を握り鞘に収めた刀のように持つ。


 そして、足のバネをふんだんに縮め解き放つ。

 豪速で真っ直ぐにタナフォスまで迫っていく。


 案の定、迎え撃とうとしたタナフォスは木刀を振り下ろすがデルフはそれに合わせて足を思い切り地面に叩きつけ真横に移動し、さらに足を地面に叩きつけ息を呑む暇も与えずにタナフォスの背後を取った。


 これは入団試験でリュースと戦ったときやアリルとの戦闘の際に行った動きと全く同じである。


 デルフはこれを一つの技としまた切り札ともしていた。


 この技の名前を”死角しかく”と呼んでいる。


 その名前の通り相手の死角をついて気付かせずに豪速で背後を取るという技だ。


 相手からにしたらデルフの姿は突然消えてしまったように感じてしまうだろう。

 その動揺から対処が遅れ背後を取ることができればこの攻撃は必殺のものとなる。


 だが、この技にも欠点が存在する。


 それはこの技を使うまでにはいくつかの行程を通る必要があることだ。


 それにこの技は方法を知ったからと言って誰でも扱うことができるものではない。


 使用者自身には高い視力、速度と瞬発力が必須であることが最低条件になる。


 まず、相手の癖や攻撃など些細な行動であっても観察を行い剣を交えながら死角を探していく。


 そして、その一瞬の死角をつくために動揺を誘うための速度、そして一瞬のうちに移動する瞬発力この全てを兼ね備えなければならない。


 なによりも観察によって使用する時間がかかりすぎることが欠点として一番の問題だろう。


 それは相手と自分が拮抗していれば問題はないが自分以上の実力を持つ相手の場合、その時間が致命的になる。


 だからといって初手から使うには危険な技だ。


 もし癖などが見当たらない場合、死角は生まれない。

 つまりそんな相手ではこの技は使えないことになる。


 これはデルフも苦悩した。


 だが、デルフはあるときこの技が一番使いやすくなるときは相手が攻撃する瞬間だと気付いた。


 だから、始めに真っ直ぐ相手に直進していき攻撃を誘わせる。

 無防備な敵が近づいてきたら誰もが攻撃を仕掛けるのは当然のことだ。


 それが死角を生んでしまう。


 敵の攻撃をギリギリで躱しその武器によって作られた死角に潜り込んでいく術をデルフは身につけた。


 これが力押しをできない自分の最適解である技だとデルフは確信している。


(まだ、全てを見切ったわけではなかったがなんとか背後は取れた。今から振り向くのではもう遅い)


 デルフは移動の際から力を溜めていた突きを背後ががら空きのタナフォス目掛けて放つ。


 しかし、そのデルフの考えは甘かった。


 驚くべきことにタナフォスはデルフに背を見せながら木刀を後ろに回してデルフの突きを木刀の腹で防いだのだ。

 まるで、背にもう一つの目があるかのようにデルフの攻撃を的確に捉えて。


 だが、それでも衝撃までは完全には防ぎきれずに先程のデルフと同じようにタナフォスも吹っ飛んだ。

 そして、壁にぶつかる。


 壁は崩れその周囲に砂埃が舞う。


 しかし、タナフォスは間も立たずに平然と立ち上がった、

 そして、着物についた砂埃を払っている。


「そこまで!!」


 突然、演習場内に声が響きデルフは視線を向けるとそこに立っていたのはもう一人のフテイル王の側近である男だった。

 その風貌はハルザードと同年齢のような見た目で赤鎧を身に纏っている。


 普通に佇んでいるだけだと思うが隙が見当たらなく隊長と同等以上の実力を持っていると伺えた。


「大将。何暴れているんですか。殿下が呼んでいますぜ」

「やはり、サロクだったか。そうか、ならば早急に向かうとしよう。デルフ殿、悪いがこの辺りで」

「ああ」


 タナフォスはデルフの下まで歩き借りていた木刀を持ち上げたときふっと笑った。

 なぜならその木刀は見るも無惨に折れてしまっていたからだ。


 デルフも同じく苦笑する。


 なぜなら、デルフが持っていた木刀もまた刀身が砕け散ってしまっていたからだ。


「これは引き分けか」

「……そうだな」


 二人の高らかに笑い声が静かな演習場に木霊する。


「いやはや、すまぬことをした。これではもう使い物にならぬ」

「いや、いいさ。俺も楽しませてもらったからな」

「大将」


 サロクという者に催促されタナフォスは鷹揚に頷く。


「それではデルフ殿……」

「デルフでいいぞ」

「それでは某のこともタナフォスと呼んで欲しい」


 デルフは肯く。


「では、デルフ。いずれまた」


 そういってタナフォスはゆっくりと歩いて演習場から立ち去った。


「しかし、大将とあそこまで戦うとはあんたもなかなかやるな。おっと俺はサロクっていう。一応、フテイルの侍大将だ」


 サクロは歩き寄りながら溌剌とした声でデルフに話しかけた。


「ということはフテイル一番の実力者ということか」


 デルフがそう言うとサロクは手を振る。


「いやいや、ややこしいんだがそうではないんだ。俺は二番目で一番は大将さ。俺は大将の後釜でこの地位に就いただけだ。しかし、驚いたな。まさか大将に”風月ふうげつ”を使わせるなんてな」


 タナフォスが行った最後の唐竹割からたけわりは”風月”と呼ぶ技らしい。


 避けさせる間もないほどに素早く、たとえ防いだとしても相殺できないほどの威力を誇っているとサロクは説明する。


 単純かつ明確な技だ。


「しかし、本当の大将の強さはあんなもんじゃないぜ。大将は組み手ではなく殺し合いの中でないと本気になれないんだ。残念ながらもう見ることは叶わないけどな。ワッハッハッハ」


 サロクは少し寂しそうな表情で笑う。


(ということは本当の強さは俺よりも強いということか……)


 今の模擬戦を続けていても勝てたかは怪しい。


 デルフの実力は今のタナフォスの実力と良くて同程度だろう。


 それでまだタナフォスは本領ではないという。


 少し悔しさもあるがそのような人物に出会えた嬉しさの方が勝りデルフは笑みを零す。


「おっとそろそろ。俺も戻らなければ。じゃあな」


 タナフォスを追いかけるようにサロクは走って行った。


「本当に、世界は広いな」


 デルフは僅かな時間の戦闘だったがとうに力を使い果たし立つのがやっとの状態だった。


 そして、サロクの姿が見えなくなったのを見計らいその場に座り込んだ。




「大将! 待ってくれ~」


 しかし、タナフォスは歩く足を止めない。


 サロクは走ってようやくタナフォスに追いついた。


「サロク。某はもう大将ではない。今はそなたが大将であろう」

「俺にとってはいつまでも大将は大将でさ」


 言っても無駄だと感じたタナフォスは言うのを諦めた。


「それよりここに来てよかった。良き友人に巡り会えた」

「俺も少し話してきやしたがあれは底知れない実力を持っていやすな。大将に拮抗するなんてな。だが、まぁ本気の大将ほどではないと思いやすがね」

「ふっ。あれが今の某の本気だ。デルフの力。もしかするとサロク、お前を上回っているかもしれぬ」

「それほどっすか?」

「それにいずれ某の力を上回るかもしれぬ。いや、必ず上回るであろう」


 それを聞いてサロクは驚きを隠させずに目を点にさせていた。


「まじっすか?」

「今はまだ眠れる獅子といったところであろう。内側に秘めたる力が全く見えなかった。デルフか。近いうちにまた会うことになろう。なんとなくだがそんな気がする。敵としてではないことを願うばかりだ」

「た、大将!! 血が!」


 そのときいつも気丈なサロクがあわてふためいていたため何事かと思い口元を手で拭うと血が付着していた。


「思わず熱くなりすぎてしまったか……」

「あまり無茶はしないでくださいよ。木刀とはいえ剣を持つのは何年ぶりですか? 大将が戦っている姿を見たときは肝を冷やしましたぜ」

「であれば、止めればよかろう」


 あのときタナフォスは配下の武士に剣を教えていると言ったがそれは数年前の話だ。


(ああ言わねば手合わせを受けてくれなかったであろうからな)


 それほど、タナフォスはデルフと剣を交えたかったのだ。

 デルフの内心を知るために。 


 苦笑しながらそう言うタナフォスを見てサロクは困ったような顔をする。


「あんなに楽しそうにしていたら止めれやせんぜ」

「しかし、これは某が自ら望んで受けた呪いであるがゆえ文句を言うのは自分勝手だが少々融通が利かぬな。気をつけるとしよう」


 サロクはその言葉を信じるしかできない。

 タナフォスが無理をして戦場に出ないように自分がしっかりするしかないと意気込みした。


「さて、殿下がお呼びになるとは何の用件でしょうね」

「恐らくシュールミットの件であろう。ハイル陛下より頼まれたはず。我らも守りを強固にせねば」


 そして、タナフォスとサロクはフテイルの下に急いで向かった。

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