第37話 決闘の末
閑散たる時間の流れがこの周囲一帯を支配している。
デルフは何か言葉を出そうと口を動かすが激しい動揺から声を発せずにいた。
他の面々も同じように言葉が出てこないというよりは驚愕してそれどころではないといった様子だ。
(騎士の中に殺人鬼はいると言ったが……まさか、アリルだったなんて。そんな想像できるか!)
そのときアクルガの後方から近づいてくる影が三つ見えた。
アクルガにも足音が聞こえているだろうが意に介さずただ見開いた目でアリルを見詰めたままだ。
「アクルガ! 殺人鬼を見つけたのか!?」
恐らく先程の戦闘音が聞こえて向かってきたであろうノクサリオが目の先にいたアクルガに慌てた様子で尋ねるがアクルガは沈黙したままだ。
ノクサリオの後ろからはガンテツ、そしてヴィールも続いていた。
全力で走ってきたらしく三人とも酷く息を切らしている。
「ちょっとノクサリオ! 速いってば~」
立ち止まったヴィールは頭を俯かせ膝に手を置いて必死に息を整えている。
そして、顔を上げると何かを見つけたのか顔に喜色を浮かべた。
「あれ? アリルちゃん? どうしてここに? それよりもやっぱり可愛いわ~~」
口を覆っていた布が取れた際にフードもまた外れたのでその目立つ桃色の髪がアリルであると語っていた。
ヴィールはいつも通りにアリルを抱きつきに行こうとするのを見て考えに耽っていたデルフは一瞬で現実に引き戻された。
「近づくな!!」
デルフの怒号が飛びヴィールは身体が跳ねて立ち止まる。
「ちょっとデルフ君! どうして止めるのよ!」
その場で立ち止まったヴィールはぶすっと顔を膨らましてデルフに抗議する。
しかし、デルフはなにも答えない。
言い出しづらいのだ。
願わくば自分で気付いて欲しいという気持ちが含めた沈黙だ。
幸かまたは不幸なのかヴィールはアリルの姿を見て疑問に思ったようだ。
「あ、アリルちゃん。その格好って……」
ヴィールの震えた小さな声が静まり返った王都を反響する。
ヴィールはアリルがこの場にいる驚きからかもしくは闇に染まった周囲からなのか視界が狭まりアリルが着ているローブなどを見落としていたのだろう。
そして、今気が付いた。
ヴィール、自分を襲ってきた殺人鬼の格好と全く同じだということに。
そして、悟った。
アリルの正体が殺人鬼だったということを。
ノクサリオやガンテツも同様に気が付いたらしく驚愕の表情で固まってしまっている。
「アリル。なぜだ! なぜ殺人などを!」
ようやく口を開いたアクルガが悲しげな表情で悲痛な叫びを放つ。
「ぼ、僕の気持ちなんて誰にも分かりやしません! あの三人やあの威張り散らすだけのやつ。怖いのです! いつ暴力を振るってくるのか、いつ殺そうとしてくるのか分からない! なら、殺せるときに殺した方がいい。違いませんか!?」
いつものおどおどとした雰囲気と明らかに違った。
アリルの口調と眼差しには意志がはっきりと籠もっている。
「いつもなら……お父さんが守ってくれました。だけどもうお父さんはいなくなってしまいました! 僕を守ってくれる人はもういません! だったら何かが起きる前にその種を潰しておく! 当然のことでしょう?」
アリルの狂気染みた瞳に全員は戦く。
今までのアリルを知っているからこそこの変わり様の衝撃は大きい。
「……それで殺したのか?」
アクルガは怒りが漏れないように自分の感情をできるだけ押し殺して静かに問う。
「あの不良たちは僕からお金を巻き上げました。騎士の三人組は特に理由もなく必要以上に僕を苛めてきました。それとラングートでしたっけ? あの人はいつも僕のことを蔑むような目で見てきました。殺す理由はこれで十分でしょう? いつか必ず僕を襲うに違いありません。少ない期間でしたけど騎士団で教えてもらいました。何事も未然に防ぐことが一番。その通りです。僕はその教えに従っただけです」
さらに深い闇に染まった瞳でアリルは淡々と平然に言った。
「違う!」
デルフは珍しく声を荒げて真っ向から否定する。
アリルの言い分を認めてしまうことは断じてできなかった。
「言葉の意味をはき違えるな。騎士とは民を守るために存在する。その民を守らずに殺しておいて騎士の教えだと抜かすな。お前がしているのはただの人殺しだ」
「守ることと殺めることは遠いように見えますが実際は表裏一体です。その騎士も守るために人を殺めるのです。なんら違いはありません」
何を言ってももう聞く耳を持たなく無駄なことをデルフは悟る。
どうやら、アリルも同じように考えたようだ。
「お話はこの辺りでいいじゃないですか? 正体がばれてしまった今、もうあなたたちを逃がすつもりはありません。僕は忠告しましたよ? 探すのは止めるようにと。ですが蹴ったのはあなたたちです。僕の邪魔さえしなければ死なずに済んだものを」
「なにもう勝った気になっている? 俺も一回は全てを失った身だ。お前の感じている恐怖は分からなくもない。しかし、いつまで経ってもそのままだと潰れていくだけだ。だから俺は騎士を目指した。守るために。……それはお前も例外ではない」
デルフは静かに人差し指をアリルに向けた。
「そ、それは頼もしいですね。ですが僕より弱い人が僕を守れるわけありません」
デルフの言葉に少し動揺を見せたアリルだが頭を振り払い撥ねのけた。
「だから今から証明して見せてやる。俺がお前より強いことをな」
そして、デルフは一対一で戦うとアリルではなくアクルガたちに伝える。
最初は戸惑っていたアクルガたちだったがデルフの覚悟を感じ取り快く頷いてくれた。
ナーシャも同様に刀を鞘に収めて肩を一回とんと叩き後ろに下がってくれた。
「こ、怖いですね。ですが、全員で掛かってくると思っていたのですがカルストさん一人だと怖さ半減です。本当に良いのですか? 容赦しませんよ」
その言葉には僅かだが緊張を感じられる。
臆病だからこそ慎重なアリルは分かっているのだ。
もし全員で掛かってこられれば勝つことはできないことを。
だから、こうしてわざとデルフを挑発して考えを変えないようにしている。
確かに全員で掛かればすんなりとはいかなくても確実に勝利を収めることはできるだろう。
だが、それではアリルよりも強いと証明ができない。
だから、あえてアリルにとって都合が良い答えを返す。
「もう一度言うが俺一人だ。変わりはしない!」
「わかりました。そんなにすぐに死にたいのですね!」
アリルの口元が釣り上がりデルフに殺気を向けて持っていた短剣を器用に回して構えた。
(しかし、うまくいったと顔に出すぎだな。まぁ多少は好感が持てるが……)
アリルは高速で走り出して一気にデルフとの距離を詰める。
そして、持っている短刀を一閃させてくるがデルフは後ろに飛ぶのではなく横に大きく飛んだ。
「正解です」
デルフのいた場所の後方に風が不規則に揺れながら通り抜け地面や壁を傷つけていく。
「楽しみです。あなたが一体どんな魔法を使うのか」
デルフはその言葉に苦笑する。
(ははは……生憎だが、俺は魔法は使えない!)
しかし、そんなことを口に出すデルフではない。
心の中だけに留めておく。
それに刀の注意を勝手に割いてできもしないことを勝手に警戒してくれる方が勝負は運びやすい。
デルフは着地をした瞬間にアリルに向かって飛ぶ。
そのときに刀の鞘を強く握って瞬く間に間合いの距離に入った。
そして、刀をアリルの腹部に目掛けて高速に抜刀する。
アリルは短刀で防ぐが力が拮抗して顔をしかめている。
しかし、これはデルフにとって計算外だった。
(まさか抜刀を短剣で受け止められるなんてな。力でも勝てると思っていたが……考えが甘かったようだ)
だが、厳しいのはアリルも同じで堪らず左手を自分の腰の裏に回した。
デルフはそれを見て嫌な予感を覚え刀に込めた力を抜きすぐに後ろに飛んだ。
アリルのもう片方の手がデルフが先程まで立っていた位置を通り過ぎる。
アリルはその攻撃を透かしたことに軽く舌打ちをしてデルフを見据えた。
「今のを避けるなんて……驚きました。せっかく今まで隠していたというのに」
アリルの左手には短剣が握られていた。
「二刀流か……」
「ここからが本番です。行きますよ!」
アリルが跳躍してデルフに近づき短刀の軽やかな捌きによる怒濤の連続攻撃がデルフに襲いかかる。
その機敏さは目を見張るものがありデルフは攻撃をする考えを捨て今は回避に専念する。
避けるころができる攻撃は避け、無理なものは刀で捌くことを繰り返す。
視力と直感に長けているデルフが回避だけを考えたら造作もないことだ。
徐々にアリルの短剣を振る速度が落ちてきて顔には疲労と焦りが滲み出てきた。
デルフはそこに余裕を見つけてアリルの横腹を足で蹴り飛ばす。
地面を転がりながらなんとか体勢を整えたアリルはデルフを睨んでくる。
「なんで! なんで! 僕の速さについてこれるのですか!」
自分の速度を自慢に思っていたのだろうがそれはデルフも同じだ。
「慣れているからな」
透かさず答えたデルフは後ろからくすりと笑う声が聞こえた。
アリルは一回息を吐いて落ち着きを取り戻す。
「仕方がありません。これはあまり使いたくなかったのですが」
そう言ったアリルの目の鋭さがさらに深まった。
そして、二本の短剣を小刻みに手で踊らせ始めた。
その回っているスピードは異常なほど速く短剣の形が潰れて線になっているほどだ。
(まさか……)
なんとなくだがアリルが何しようとしているか気付いた大声を出す。
「この場から急いで離れろ!!」
ナーシャたちは反論も質問もせずに素直に従い飛び散った。
しかし、アクルガだけはその場に残って仁王立ちをしている。
「アクルガ!」
しかし、アクルガは動かない。
「あたしは確かにあたしの役割を成し遂げると言った!正義の味方は約束を守る。心配はいらない! 自分の身は自分で守る!」
アクルガは大剣を頭上で回転させ目の前の地面に突き立てた。
どうやら大剣を盾代わりにするようだ。
アクルガなら心配はないと高をくくりデルフはアリルの行動の一つ一つを注意深く観察する。
そのときアリルの巧みに踊らせている短剣に光が走ったように感じた。
デルフはすぐ横の地面を見るとすっぱりと深く切れてしまっている。
「やはり斬撃の魔法か……」
しかし、その飛んでくる速さは前とは比べものにならない。
(斬撃は短剣を振る速度と比例しているというわけか)
「驚くのはまだ早いですよ! 逃げ場もなく何をされたか分からないまま死んでください。僕の
この技の驚異的なところは速さはもちろんだがそれよりもその斬撃の数が極端に増加している。
短剣が二本に増加に加えて回転数の増加によって最大限まで数と速度を底上げしていた。
しかし、この技にも欠点があることをデルフは即座に感じ取った。
まず威力は単体で放つよりも小さい。
(まぁそれでも人体はすっぱりと切り裂かれそうだが)
そう考えると欠点ではないかもしれない。
次に斬撃は短剣を回している方向全てに飛んでいっている。
全体攻撃と考えれば強いかも知れない。
しかし、恐らくだが狙いを集中させることができないだろう。
つまり無差別攻撃であるということだ。
なんとなくなら方向を変えることができそうだがそれでも攻撃がばらけてしまう。
先のデルフのすぐ横の地面を切り裂いたのも偶然外したわけではなく制御ができていないだけなのだろう。
その欠点をなくすための斬撃の量であるがそれもまたある欠点を生み出してしまう。
それは魔力の消費量が大きすぎることだ。
だから、アリルはこの技を今の今まで使わずにいたのだろう。
まさに切り札。
それに証拠をあまり残さずに敵を倒すという点ではこの攻撃はあまりにも派手であるということも考慮に入れていたと考える。
そのときアリルの短剣を回す速度が最高潮に達した。
デルフにその名の通り斬撃の雨が襲う。
デルフは持ち前の視力を駆使してアリルの手の動きから斬撃の動きを予測してなんとか避けようとするが……
(数が多すぎる!!)
そもそも斬撃は無色透明で斬撃は見えない。
それにこの数ではもはや捌ききることは不可能だ。
致命傷にはならないように常にギリギリで斬撃に対処していくが多少は掠ってしまう。
デルフの服装は速度を生かすため身軽さを考えて胴しか付けていない。
両手の部分は多少丈夫な布地の服だが剣ではすんなりと切り裂かれてしまう。
避ける前提の防具である。
防具としての意味は気休め程度しか期待していない。
そんな今でも厳しいデルフだがさらにアリルは短剣を回す速度を上げた。
(まだ上がるのか!?)
予測が外れさらに速度を増した斬撃がデルフに襲いかかる。
もう既にデルフにはその斬撃の位置を予測することは叶わずただの感だけで刀を動かして防いでいる。
しかし、デルフも限界が近づき掠った程度だが斬撃を浴び続ける。
その量はもはや無視することができないほどになり身体の至る所が赤く滲み出してきた。
それに足も震え始めだした。
(これは無理だな……)
デルフはアリルの魔力切れを狙っていたが先に限界が来るのは自分であると直感して守ることを止めた。
そして、デルフは一直線に走り始める。
たとえ自分の身体のどこかが切り裂かれようと致命傷でなければその足を止めることはない。
目に力を入れてアリルを睨み付けその姿を捉え続ける。
(なんだ?)
そのときデルフに違和感が襲った。
周りの空気の流れが遅く感じどことなく辺りが暗い。
最初は死ぬ前に見る走馬灯かと思い覚悟したがどこか違う。
アリルが放つ凄まじい速さであった斬撃は一変してもの凄く遅く感じた。
先程までは無色透明である斬撃は目で見ることはできず短刀の向きと感覚で躱していたがその斬撃から微かにだが白い湯気のようなものが浮き上がっていた。
なぜいきなりそう見えるか疑問に感じたが今は考えている余裕はない。
斬撃が見えるようになった今、躱すことは実に容易になった。
デルフは斬撃を掠りもせずにまるでその位置に斬撃が来るのが分かっていたかのように前もって躱していく。
そして、アリルと目が合った。
その瞬間、なぜかアリルは短剣を回すのを止めて固まってしまった。
目を泳がせその表情は恐怖で口を震わせているが言葉は出ていない。
(自慢の技を全て躱されて動揺した……のか?)
しかし、デルフはこの好機を見逃さない。
速度を上げ矢のごとく一直線にアリルのすぐ目の前に近づく。
アリルの動揺も一瞬ではっと目を覚ましすぐ先にいるデルフを捉えた。
アリルは両手に持っている短剣を刃が下に来るように持ち替えて振り下ろす。
しかし、そのときデルフの姿が地面から鳴った鈍い音ともにかき消えた。
アリルは後ろから石を砕く音と一緒に殺気が近づいてくる感覚を覚えた。
だが、アリルは動けない。
まるで、蜘蛛の巣に絡まった蝶のように身動きが取れなかった。
そして、アリルの首筋に冷たい何かが触れた。
「終わりだ」
その声が聞こえたときアリルは緊張が解けたようにへなへなと膝を地面に付けた。
アリルは放心しておりデルフは戦意を喪失したと確認すると同時にゆったりとした時間が元に戻り周囲の光景に色が戻った。
そしてデルフにどっと疲れが襲う。
今、力を抜けばそのまま倒れて眠ってしまいそうになるほどに。
根気を振り絞りアリルに視線を向ける。
「こ、殺してください。僕の負け……です。もう抵抗する力は残っていません」
アリルは短刀を既に地面に落としており生きることを諦めたような眼差しで微かに呟いた。
デルフはアリルの首元に当てていた刀を外し鞘に収める。
ゆっくりとアリルは振り返り不思議そうにデルフを見詰めた。
「ど、どうして……」
「守るって言ったのに殺してどうするんだ?」
デルフもまた不思議そうな顔でそう返す。
「ほ、本気で……言っていたのですか……」
「当たり前だ。こればかりは嘘はつけない」
アリルは呆けてデルフを見詰めながら静かに涙を零した。
後ろからアクルガが大剣を担いで歩いてきた。
大剣の表面には多数の傷がありアリルの攻撃の激しさを物語っている。
ナーシャたちも戦いが終わったことを確認して戻ってきた。
「しかし、デルフ。守るとは言っても……殺人の罪は消えない。正義の味方としてそれは見逃すことはできない。しかし、アリルも何か苦悩していたようだ。それに気が付かなかったあたし自身にも腹が立つ。どうしたものか……」
アクルガの目は本気になってデルフを睨み付けていたが次第にその怒りの対象は自分になって困ったような顔になった。
「ふぉっふぉっふぉ。終わったかの?」
場違いな声を出したのはデルフではなくアクルガの後ろにいたウェガだ。
「た、隊長!!」
アクルガはウェガに道を空けるために一歩横にずれて背筋を伸ばす。
「後のことは儂に任せてくれ」
デルフは少し弁護しようと口を開こうとしたが遮られる。
「デルフさ……ん。大丈夫です。これ以上は迷惑をかけられません」
アリルはそう言って立ち上がりウェガの下まで歩いて行く。
その際、アリルはデルフに背を向けていたためその表情は計り知れない。
「あなたは確かに強い。僕よりも。ですが、あなたの戦い方。騎士と言うよりは僕とどこか似ています」
確かに、騎士の正々堂々とした戦い方からはかけ離れているだろう。
それでもはっきりとこう言う。
「俺は騎士だ」
アリルはそれを聞いて振り返って顔を仄かに赤らめて微笑む。
それもすぐに前を向いて歩いて行こうとするが顔を向けずに言葉を出した。
「ああ、それと言い忘れていましたが、魔術団長を殺したのは僕じゃありませんよ」
思い出したようにアリルは衝撃的な発言をデルフにぶつけてきた。
デルフは驚きながらも冷静さを心掛け頭を駆け巡らせる。
その言葉は嘘であると笑って聞き流すことはできない。
良く考えれば慎重なアリルが厳重な魔術団本部まで行くなんて考えられなかったからだ。
(どういうことだ? 苦し紛れのアリルの嘘だという線は……ないだろう。今になって嘘を言う理由は思い至らない。駄目だ。わからない)
デルフは分からないことに頭を使うのは無駄だと考えるのを止め今は頭の隅に追いやる。
ウェガの下まで着くとアリルは振り返り笑顔になった。
「ありがとうございました! 僕の……騎士様! また会いましょう!」
そう言ってそれから一度も振り返らずにウェガとともに歩いて行った。
(また会いましょうか………)
恐らくだがそれは叶わないだろう。
王都を荒らし回った殺人鬼だ。
良くて永遠に牢屋暮らしになるのは容易に想像できる。
アリルもそのことは分かっているだろう。
(それと、触れないといけないか……。騎士様ってなんだ……)
最後のアリルの笑顔がしばらく頭から離れなかった。
「根は悪そうじゃなかったけど。残念ね」
ナーシャはデルフの横まで来てポツリと呟く。
ヴィールとガンテツはアクルガの下まで行き怪我の手当てをしている。
流石のアクルガといえど無傷では済まなかったようだ。
「それにしてもデルフ。いつの間にこんな力出せるようになったの?」
ナーシャが指を差した先は石畳の地面だ。
(所々砕けているな…)
よく見てみると足跡のようにも見える。
無我夢中だったので今まで気が付かなかった。
恐らく最後の攻撃の時の踏み込みによって砕けたのだろう。
デルフ自身にもにわかに信じられなかった。
「これ、俺がやったのか……」
緊張の糸がほどけたデルフは気分が悪くなっていた。
「ん? デルフ! ちょ、ちょっと! 顔色が悪いわよ!!」
身体の力が抜けどさっと地面に倒れたデルフ。
そのまま慌てているナーシャが目に映って何か必死に話しかけてくるがなにも聞こえない。
心なしか視界も暗くなってきた。
そして、デルフはそのまま闇に沈んだ。
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