第33話 忽然と現われた殺人鬼
初日の任務を終えたデルフは家に戻っている道中だった。
デルフは家が近いため家通いだがヴィールたちは騎士団総本部にある兵舎暮らしになる。
周りが把握できないほどの夜道を歩いて行きようやく家に到着した。
「お帰りなさい~!」
扉が開く音に気が付いたナーシャが出迎えてくた。
そしてナーシャに押されるがまま食卓に着いて今日のことやこれからのことについての説明をする。
「へー。王都での勤務なんだ。それじゃ家通いでいけるわね」
一人じゃ寂しくなっちゃうからとナーシャは嬉しそうに微笑んでいる。
「しばらくは掃除だけになりそうだけどな」
「いいじゃない。地道なこと得意でしょ?」
にこっと微笑むナーシャを見て苦笑いで返した。
ガチャ……
扉が開く音にナーシャとデルフが顔を向けるとそこにリュースの姿があった。
「ふぅ~。ただいま」
「お父さん! お帰りなさい!」
ナーシャが椅子から立ち上がりリュースの下へと駆け寄る。
「お仕事一段落したのね」
「あ、ああ」
ナーシャが質問するとリュースは歯切れが悪かった。
(何かあったのか?)
しかし、何かあったにしてはリュースの目は泳いでいた。
「待ってて。今ご飯の用意をするわ」
ナーシャは急いで台所に行きせっせとリュースの晩ご飯の用意を始めた。
リュースは席に着き溜め息を吐いている。
「やっぱり我が家は落ち着く」
しかし、そうリュースが背伸びして寛ぐことができたのはつかの間で扉を数回叩く音が聞こえてきた。
その音が聞こえるとなぜかリュースの身体がびくっと跳ね恐る恐る振り向く。
「はぁーい」
「ま、待て。ナーシャ」
リュースの言葉が届かなかったのかナーシャは扉まで小走りで行く。
ナーシャが扉を開きそこにいたのは初老ぐらいでリュースよりは年上と思われる男性だ。
鎧を身につけていることから騎士だというのは容易に分かった。
「夜分遅くに申し訳ありません。拙者はココウマロと申す。こちらに副団長殿は帰ってきておられませぬか?」
ナーシャは振り返り半開きの目でリュースを見詰める。
リュースは言わないでくれと言うように必死に人差し指を口元の近くにやって念を送っている。
それに対してのナーシャの返答は不気味な微笑みだった。
傍から見ていたデルフは自分に向けられていないにも関わらずに背筋が凍るほどの恐ろしさを感じた。
しかし、リュースはそれに気が付いていないようで安堵の息を吐き湯飲みに入ったお茶を啜る。
(師匠ー。違います!)
父であるとはいえ仕事続きで全く家に帰ることができていないリュースよりも三年間殆ど同じ時間を過ごしていたデルフの方がナーシャの雰囲気の変化を敏感に感じ取ることができるのだろう。
リュースはお茶に目が行ってしまい気が付いていないがリュースを見詰めるナーシャの瞳の色が冷たくなっている。
そして、ココウマロと名乗る騎士に振り向き満面の笑みでこう答えた。
「はい。いますよ。どうぞお入りください」
そのナーシャのその発言を聞きリュースは咽せてしまい咳き込んでしまう。
「な、ナーシャ!?」
「では、お言葉に甘えて…………見つけましたぞ! 拙者の油断もありましたがよもや逃げ出してしまうとは。……なにか弁明はありますかな?」
「こ、ココウマロ? す、少しは休憩というものがな? 分かるか?」
「言い訳はそれで満足ですかな? では、参りますぞ!」
リュースの弁明も空しく散ってしまいココウマロに捕まってしまった。
「行ってらっしゃい~。お父さん!」
可愛らしい微笑みで見送るナーシャ。
「は、ははは」
そしてリュースはがっくりと項垂れてそのままココウマロとともに家から出て行った。
「いいのか? せっかく師匠帰ってきたのに」
「いいのよ。オサボりなんて良くないわ」
リュースを見送ったナーシャは台所に行きそこに置いてあった料理をデルフの前に置く。
「ね、姉さん? これは?」
「お父さん出す予定だった晩ご飯よ。作ったけどお父さん行っちゃったし。デルフ、食べておいてね」
「えっ?俺、さっき食べたんだが…………」
そしてナーシャは微笑みだけ残してお風呂に向かっていった。
「………………」
この後、胸焼けに悩まされたのは言うまでもない。
それから本部の掃除が始まってから随分と時が経ったのちある事件が王都で起きた。
デルフたちを含め三番隊は講義室に召集を受けそこにウェガが待っていた。
「さて、お主らに集まってもらったのはここ王都で今起きている殺人事件についてじゃ」
「殺人事件ですか?」
先輩騎士たちはなにも驚いてはいない。
恐らく知っていたのだろう。
ただ、デルフたち新米には初耳のことだった。
「ここ数件、同じような事件が多数起きておる。そのため掃除は打ち切りとして王都での巡回を厳しくしようと思うのじゃ。なるべく早く犯人を捕まえなければ王都におる民たちは安心して過ごすことができなくなるからの」
犯人と思わしき人物は一切上がっておらず目撃者もいない。
情報が一切ないらしい。
それならば現行犯で捕まえてしまえばよいとのことだ。
全く頭を捻っていない作戦だが現状だとそれしか取れる手段がない。
「それで、詳しい話はこのお方に聞いてくれ」
ウェガは隣に立っている人物に目配せする。
デルフも先程から気になっていた。
怪しい黒いローブを纏いその隙間から妖艶さを醸しているが妙な魅力がある女性だ。
しかし、どこか不気味であり正直に言うとあまりお近づきになりたくはない。
ウェガは後は任せたぞと言い残して既に講義室から出て行った。
デルフは相変わらず責任感の欠片もない人だなと少し苦笑する。
そこが親しみを持てるのだが。
「
その言葉を聞いた団員たちは小言が騒がしくなった。
それも無理はない。
魔術団長と言えば位で言えば騎士団長に肩を並べるほどの大物だ。
(確かにこんな人に命令されたら断るのは無理だな)
今は微笑んで美しいのだが怒らせたら間違いなくやばいのは分かる。
大声で叫ぶ叱咤よりも冷ややかな視線で責めてくる静かな怒りの方が怖い。
もちろんこの人は後者だろう。
ウェルムの気持ちが少し分かったデルフだった。
「なぜ魔術団長ともあろうお方がこんなことを?」
先輩騎士の一人が我慢できずにそう質問する。
「あら? あのウェガ様に頼まれたら断ることはできませんもの」
クスリと笑ってカハミラはそう答えた。
魔術団は死体の解析や解剖などの調査を行うことも担っているが報告に来るのは下っ端の仕事だ。
魔術団長自らが出向くなど普通では考えられない。
(あの爺さん。魔術団長を顎で使うなんてどんな神経しているんだ?)
デルフはウェガの影響力を少し衝撃を受けた。
「それでは今から現状を説明しますわね」
講義室内は静まり返りカハミラの説明を受ける準備を整えた。
「まず、その殺人事件の犯人は同一人物だと予測できます。被害にあった人たちの傷はどれもが短剣での一裂きでの即死です。とてもじゃありませんが別人だとは考えにくいという意見が多数ですわ。そして早くも五件、被害が出ていますの」
(既に五件も……もはや殺人鬼と言ったところだな)
そして、被害者は全てごろつきや裏道に屯している不良のこと。
恨みを買いやすい不良に対して動機がある人物は溢れるほど存在するためそこから殺人鬼を見つけるのは難しいとのことだ。
「そしてこの事件は全て夜遅くに起きています。そのため夜を中心に今日から警備を増やそうと思いますわ。巡回の順番はそれぞれで話し合って決めてください」
説明は終わったというようにカハミラは講義室から出ようとするが出る寸前で立ち止まった。
「言い忘れていました。一つ言っておきますがこの殺人鬼は傷口から相当の手練れですので見つけても絶対に一人で戦おうとしないでください。必ず複数で対処を」
忠告しましたわよと言って今度こそ講義室から出て行った。
「殺人鬼だなんて怖いわ。でも大丈夫! アリルちゃんは私が守ってあげるわ~」
ヴィールは逃げようとするアリルに素早く抱きつく。
「ひぃぃぃぃ!!」
叫びながらデルフに助けを求めるような眼差しを浴びせてくるが苦笑いをするしかない。
「夜な夜なこそこそと人殺しをするとは卑怯も良いところだ! こんなやつは臆病者に違いない! この正義の味方アクルガ! この名にかけて必ずや引っ捕らえてみせるさ! ハッハッハッハ!!」
アクルガは胸を張って大声で笑う。
その目はやる気に燃えていた。
「いや~しかし、この王都で殺人鬼なんてな。面白そうだ。どんなやつなんだろーな」
ノクサリオはノクサリオで殺人鬼と出会うのを楽しみにしている様子だ。
周りの騎士たちも笑い合って楽観視をしている。
デルフはその光景を見て焦りを覚えていた。
(こいつら、人が死ぬところを見たことがないのか? あまりにも考えが軽い。……不味い空気だな)
しかし、言ったところで無駄だろう。
ここにいる者は全て騎士なのだ。
自分の身を守れない者に他人を守ることはできない。
ここは放っておいて自分でそれを学ぶことに期待するほかない。
だからと言ってなにもデルフは見捨てるわけではない。
自分の手が届く距離ならば全力で援護するつもりだ。
「とにかく、幅広く警備をするため三人一組で動き見つけたら大声を上げるなどをして周りに知らせすぐに駆けつける。取り敢えずはこれでいいか?」
「意義なーし」
確認を取ったデルフは他の組のリーダーたちと相談して巡回の日と時間を決めた。
初日はデルフたちを含めて約十五名が夜に巡回することになった。
その夜、デルフとノクサリオとアクルガの三人は裏道を巡回していた。
本来ならば鎧を付けているところだが生憎予定よりも早く警備についたため鎧の在庫がなくほぼ全員私服での巡回をしている。
しかし、これだと騎士だと分からないので騎士団所属を表す証明証である記章を各自に配られた。
それには自分の名前が彫ってあり偽造はできなくなっている。
「ここが被害者が殺されたってところか。本当に狭い道だな~。こんなところで不意打ちなんてされたらひとたまりもないぜ」
「その通りだな。警戒を強めるぞ」
デルフたちはさらに裏道の奥へと進んでいくと開けた場所に出た。
この場所はまだ裏道の途中なので建物と建物の間に偶然できた空間なのだろう。
もちろん開けた場所だけあって人は誰もいないことはなく目算だけでも十人は軽く超える不良たちが屯していた。
あの殺人鬼は不良たちを標的としていることが分かっているので一応注意しておくことにした。
デルフはその集団のリーダーらしき人物に声を掛ける。
「おい。お前たち、こんな夜遅くまで何しているんだ? さっさと家に帰ったらどうだ?」
「お前らこそ誰なんだ?」
そう聞かれデルフは記章を見せると不良のリーダーはほうと溜め息を零した。
「なるほど。騎士さんか。それなら反抗するのは得策じゃないわな。だけどよそれでも引き下がるわけにはいかねぇのよ」
その言葉から不良の揺るぎのない覚悟を感じた。
「どういうことだ?」
「本当は分かっているんじゃないのか? 恐らくだが騎士がこんなところまで見回っているなんてあのことしかないからな」
この口振りから推測すると殺人鬼の被害に遭った不良やごろつきはこいつの仲間だと言うことか。
そして、その仇討ちをするためここでその殺人鬼を待ち構えているといったところだろう。
そのことを言うと予想通り「当たりだ」と返ってきた。
「あいつらのためにもこのまま引き下がるわけにはいかねぇ。きっちり落とし前を付けさせるつもりだ」
そうは言うが魔術団長のカハミラが言うほどの只者ではない殺人鬼をただの不良たちが倒せるとはとても思えなかった。
ここは優しく止めてあげるべきだろう。
「悪いことは言わない。止めておけ」
隣でノクサリオがあちゃーと額に手を当てている意味は分からないが気にしないでおこう。
「なんだと? お前なんて言った?まるで俺たちが弱いって言い方だが?」
(なぜか大変ご立腹になってしまった。何が悪かったのだろうか……)
デルフは言葉の意味が分からなかったのだろうかと一回咳払いしてもう一度言うことにした。
「だから…………」
「ちょ、ちょいデルフ! その言い方はないだろう。そんなの怒るに決まっているじゃないか。俺に任せておけ」
ノクサリオは面白そうに見守っていたが不味い展開になりそうに感じたのでデルフの言葉を遮って交代する。
「いやいや~。この人、言葉遣い悪くてね~。つまりこう言いたいんだよ。お前たちが殺されると後が面倒くさいから早く帰って寝ろってね。…………あ」
(いや、やってしまったと、目を向けられてもなにもすることはできないんだが)
ノクサリオが大声で言ってしまったためリーダーだけでなく後ろの仲間たちも反応してしまった。
(全く、俺を注意しといてお前も駄目じゃないか)
デルフは溜め息を零してどうしようかと思案するが不良たちの怒りはもはや収まらないだろう。
「スルワリさん。自分たちが騎士だからといってこいつら俺たちを舐めていますぜ。俺はもう我慢ならねぇ!」
「ああ、確かに見た目は若く経験が浅い騎士だなこれは。騎士になったからと言って馬鹿にしやがって」
これは本当に不味い方向になってしまったとデルフは顔を引き攣らせる。
すると、今まで黙っていたアクルガがデルフとノクサリオを横にやって前に出た。
「デルフ。あたしは言葉での説得なんて面倒くさいことできやしないがもっと簡単なことがあるぞ。力の差を見せつけてあたしたちに任せろって言えばいいんだ」
アクルガは自分の背丈の少し上程度の大剣を肩に乗せて言い放つ。
その大剣について聞いてみると私の愛刀だと言われた。
見かけによらず馬鹿力だ。
「なーに。私に任せておけ」
そう言ってアクルガは堂々と前に出ていく。
アクルガの余裕げな言葉にさらに頭に血を上らせたスルワリたちは臨戦態勢をとる。
「お前たちも悪党の端くれだが、まだまだ改心する余地がある! 正義の味方とは悪党を諭すのもまた役割の一つ。あたしの名はアクルガ! 胸を借りるつもりで掛かってくるといい!」
アクルガの上からの言葉でスルワリたちは我慢の限界を超えてアクルガに殴りに掛かった。
一度失敗したデルフたちはもうアクルガに全て任せようとお互い意気消沈しながらとぼとぼと後ろに下がる。
アクルガは迫り来る無数の拳の軽く避けていく。
洗練された動きに加えアクルガは不良たちの攻撃の全てを見切っている。
避けてはいるが全く立ち位置から動いていない。
「なるほど。お前たちは拳で来るか。ならば武器を持つのは卑怯というものだな。デルフ! これ大事に持っておいてくれ!」
アクルガは持っていた大剣をデルフに向けて軽く上に投げる。
デルフは飛んできた大剣の柄を左手で掴むが……
「えっ!? 嘘……だろ!」
その重さにより身体を支える事ができなくなりそのまま大剣と一緒に地面に叩きつけられる。
「本当……どれだけ馬鹿力なんだよ……」
そして隣で倒れてしまっているデルフを見て笑っているノクサリオ。
一発殴ってやりたいがぐっとデルフは堪える。
だが、この気持ち分からせてやりたい。
デルフは含み笑いして全力で大剣を放り投げた。
「おい。ノクサリオ、お前も持って見ろよ」
「ははは。デルフ。俺はお前みたいに貧弱じゃないぜってうおっ…………!」
ドスンと鈍い音が鳴った。
言わないでも分かるだろうがノクサリオはデルフと同じ目にあった。
「くそ! 馬鹿力め……」
吐き捨てた言葉までもデルフと同じだ。
(どうやら俺の気持ちが分かってくれたみたいで何よりだ)
その間もアクルガは不良たちの攻撃は躱し続けていた。
「くそ! 調子に乗りやがって」
スルワリは全く攻撃が当たらないことに嫌気が差してきていた。
「これでわかっただろう。お前たちは私には勝てない。諦めてさっさと帰るべきだ」
「ちくしょ!! 馬鹿にしやがって! お前ら!!」
スルワリがそう言うと不良たちは懐から短刀を取り出した。
「ほう。まだ逃げないか……。ならば、あたしから行くとしよう。これを自分の戒めと受け入れるがいい!」
アクルガは不良たちが短刀を取り出したにも関わらず平然とした様子で話し続けている。
その態度に頭がきた不良の一人はアクルガを突き刺しに走り出した。
だが、アクルガは片手で不良の短刀を持っている手に手刀を当て短刀を落としその流れで顎に正拳を一撃当てた。
その不良はそのまま崩れるように膝を着き倒れてしまった。
意識はあるものの思うように身体が動かず痙攣している。
「安心しろ。峰打ちだ!」
その洗練された動きを見て不良たちはついにその実力差を痛感し走っていた足が固まってしまった。
「何をしている!! お前ら早く行け! 舐められっぱなしで良いのか!!」
「だ、だけどスルワリさん! あれは、化け物だ……」
「しかしだ! しかし………」
突然、スルワリは少し考えたのち冷静になり目つきが変わった。
そして、手下たちを押しのけてアクルガの前に出た。
「わかった。俺が行く。これが大将の務めだ」
スルワリの目は覚悟を決めた男の目になっていた。
決して復讐に燃えていた先程の目とは断然に違う。
デルフはそのスルワリの態度を見て感心した。
(てっきり味方を無理矢理行かせるかと思ったのだが。そこまで根は腐っていなかったか。リーダーの責任は持っているようだ)
それはアクルガも感じたらしく何回も頷いて感心している。
「その心意気お見事だ! 正々堂々と相手しよう」
アクルガはスルワリを認めて一礼する。
そして掛かってこいというように手を振る。
そして、スルワリが動いた。
しかし先程の不良と同じように短刀を落とされ顎に一撃を入れられる。
そして同様に倒れてしまったスルワリだがまだ立ち上がろうと必死に身体に命令を送っている。
立ち上がろうとしてまた倒れるそれを何度も何度も繰り返す。
「ち、ちくしょう! 立て! 立て! 立て立て! ……くそ! なぜなんだ!」
「止めておけ。確かにあたしの拳は顎に入った。立ち上がるのは無理だ。しかしお前は気に入ったぞ。今までの非礼は詫びよう。あたしたちもお前たちが帰ってくれればそれでいいんだ」
スルワリを認めたアクルガは優しく手を差し伸べる。
スルワリは最初は拒もうと顔を逸らしたがその内に何か諦めたような表情をしてその手を掴んだ。
なんとか立ち上がるが手下たちが肩を貸してなんとか立っている状態だ。
「勝負に負けた俺にもう反抗する気はない。この件はお前たちに任せるが必ず、必ず! 仲間の仇を取ってくれ! 頼む……」
「ああ約束しよう。このアクルガの名に賭けて!」
アクルガとスルワリはお互いに握手をする。
「それと何か手伝えることがあれば俺に声かけてくれ。姉御!」
スルワリの輝いた瞳でアクルガを見詰めている。
(ん?姉御)
その言葉を疑問に思ったのはデルフだけではなくアクルガもそうだった。
「お、おい。その姉御とは一体何だ?」
「俺は姉御に手も足も出なく負けてしまった。負ければその軍門に降るのが筋ってもんだ。こいつらはともかく俺は姉御の軍門に降る。それならばそう呼ぶのはなんら不思議はねぇ」
「スルワリさん! 俺らはどこまでもあんたについて行きやすぜ! よろしくお願いします。アクルガの姉御!」
「お前ら……」
スルワリは負けた自分にそこまで慕ってくれる手下たちの気持ちが伝わり思わず涙を流す。
手下たちはスルワリの周りに集まり宥めている。
そして何が何だか分からずこの現状に困惑しているアクルガ。
大笑いしているノクサリオ。
(なんかややこしくなったな)
それでもどこかこの状況を楽しんでいる自分に苦笑するデルフ。
「おーい。姉御!」
ノクサリオがわざとらしくアクルガに言うがげんこつを返されていた。
頭を両手で抑えて涙目になっているがお前が悪いと言うしかない。
取り敢えず、スルワリたちは家に帰らせてから巡回を続けたがこの日は殺人鬼とは出会うことはなかった。
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