第2章 鍛錬の日々
第19話 師匠代理?
すぐ目の前には石造りの家や木造の家が建ち並んでいる光景が広がっていた。
いくつもの分かれ道はどれがどこに繋がっているか予想もできない。
そして、この都市の中心にはデストリーネ王国の象徴である巨大な城が堂々と聳え立っていた。
詰まるところデルフが今立っているこの場所はデストリーネ王国の王都であるライフである。
時間は昼過ぎになっており城にへと続く大通りには大勢の人で賑わっている。
商売している人もいれば傭兵や旅人と見える格好をした者もいた。
村とは活気が全く違う。
(昔、父さんからから聞いた話以上だ。村とは比べものにならないほど全てが違う)
それが王国の城下街を目の当たりにしたデルフの感想だった。
「お前達は先に戻っていろ」
隣に立っているリュースは後ろにいた騎士達を先に命を飛ばした後、デルフに目を向ける。
「ん? …デルフ、王国に来たのは初めてか?」
リュースは人が溢れている光景を見て目を輝かせているデルフを見てそう言葉をかける。
「はい。父さんから話で聞いたことはありましたが思った以上でした」
「ハハハ。これで驚いていたらきりがないぞ。さて、まずは私の家に向かうとしようか」
「わかりました」
ずっと肩にいたはずのルーはいつの間にか地面に降りており走ってどこかに行ってしまった。
恐らく城下街を徘徊しに行ったのだろう。
ほっといてもそのうち戻ってくると思うので構わずにリュースについて行く。
「ここだ」というリュースの声で立ち止まるとデルフは先程と別の意味で驚いた。
(門を出た当たりから薄々そうじゃないかと思っていたけど……)
リュースの家は王都の外れにあった。
というか城下街の中から完全に外に出てしまっている。
木造建築の丸太小屋であり一見するとカルスト村の自分の家と同等ぐらいかそれ以下の大きさに感じた。
壁が所々傷んでおり修繕されていることから建設されてそれなりの月日が流れていることが分かる。
しかし、王国の騎士団の副団長であるリュースの家とはとてもではないが思えなかった。
「驚いただろう?」
「は、はい。立派な家ですね」
「世辞はいいぞ?まぁ見た目の通りボロボロだが私はこれが気に入っている。石造りの家も良いがやはり私は木造の家だな! 見てみろ! 隣には小さな林があり趣深いだろう! この場所に一目惚れしてしまいついついここに家を建ててしまった」
「は、はぁ」
リュースは自分の世界に入って語っている。
また見たことがないリュースの一面を見てしまった。
この後、リュースによる家の自慢話がしばらくの間続いた。
「まぁ住めば都だ。取り敢えず、中に入るとするか」
ようやく話が終わりリュースは家の中に入っていく。
デルフもリュースに続いて中に入った。
入ってみると思っていたよりも広く感じさらには二階に続く階段もあった。
家の中は外見とは違い綺麗に整理整頓されている。。
「あら? お帰りなさい! お父さん! 今回も長かったわね」
家に入ったとき出迎えたのはリュースと同じ薄い茶色の長髪の女性だ。
身長はデルフよりもやや高く歳は同い年か年上に感じられた。
「いや、またすぐに行かねばならない。帰ってきたのは少し用事があったからだ」
「用事?」
そう言い女性はリュースの横に立っていたデルフに視線を向けた。
訝しげにジーッと凝視してきている。
デルフは何か責められていると感じて目線を横に逸らしてしまう。
「デルフ。こいつは私の一人娘であるナーシャだ」
デルフが挨拶しようとしたがナーシャの言葉の方が早かった。
どうやらナーシャは何かを察したらしいのだがデルフには何のことか分からない。
「ちょっと! お父さん!」
ナーシャは不機嫌になってドシドシとリュースに近づいて行く。
それをリュースは宥めるように両手で制す。
「ああ、言いたいことは分かる。お前の思うとおりこいつは今日より私の弟子となったデルフ・カルストという。仲良くしてやってくれ」
リュースはそう言うがナーシャは納得していないらしく文句を言う。
「やっぱり! また弟子? 四人に逃げられてまだ懲りてないのね!」
「い、いや……それはお前が……」
リュースが弁解しようとするがナーシャにうるさいと一蹴され押し黙ってしまう。
「四人目が逃げたときはもう弟子など取らん! なんて言っていたくせに! ……それに殆ど面倒を見るの私じゃない! もう取らないって言ったから言う必要ないと思っていたけど弟子を取るときはちゃんと相談してよね!」
鬼の形相となってさらに迫り来るナーシャにリュースは顔を引きつらせて後退りする。
「あ、ああ……す、すまない」
「別にダメとは言っていないのだから。……はぁ~。だけどもう決まってしまったなら仕方ないわ。で、あんた」
ナーシャはデルフに指を差した。
デルフは自分を指差したとは思わず後ろを振り向いたがやはりそこには誰もいない。
「あんたしかいないじゃない。分かっていると思うけど私のお父さんは忙しいの。だから大体の基礎は私が教えてあげることになるわ。師匠(仮)ってとこね。それでも構わないかしら? それとちゃんとやる気はあるの?」
デルフは無言で深く頷く。
今はまだ弱いままであるが気持ちでは負ける気はしない。
そう明確な自分の心を伝えるようにナーシャを見据える。
「ふぅ~ん。結構、いい目をしているわね。これなら今回は逃げ出す心配はしなくていいかしら」
そしてナーシャから疑いの目はさっぱりと消えてしまいにこっと笑顔を見せた。
「うん! いいわ! 明日から特訓よ!」
どうやらナーシャにデルフは現段階では認められたようだ。
デルフはそのことにひとまず安堵した。
「ふっ。案外、お前たちは良い相性かも知れないな。ナーシャ、私はそろそろ戻るとする。またしばらく忙しくなりそうだ。留守は任せた」
「わかったわ。いってらっしゃい」
去り際にリュースがデルフに近寄ってきた。
囁くような声でナーシャに聞こえないように話し始める。
「一つ言っておくがナーシャは女だからといって甘く見ないほうがいい。はっきり言ってナーシャは騎士になろうとしたらすぐになることができる。それともう一つ。ナーシャの指導はもの凄く容赦がないから覚悟しておくといい」
デルフはリュースの言葉に少し動揺したが覚悟を決めて強く頷いた。
女性が強い?
そんなことカリーナやリラルスを見てしまえば勝手に慣れてしまった。
今更、デルフにとって驚くことではない。
ただ容赦ないという一言は慣れる慣れないの問題ではないので少し身構える。
「ハハハ。そんな固まる必要はない。ただそれで四人逃げてしまったのだが……」
「それって十分、嫌な予感がするのですが……」
「ま、まぁこういうことがあり気を落としたナーシャを思って弟子など取らんと豪語したわけだが……お前は逃げないだろ?」
「もちろんです!」
思わず大きな声で返してしまい怪しんだナーシャが睨んできた。
「ちょっと。二人で何こそこそしているのよ?」
するとリュースは口早に話し始めた。
「と言うわけだが。それに耐えきったら必ず実力が増すことを保証しよう」
そう言ってリュースは逃げるように去って行った。
「ちょ、お父さん!? まだ話しは終わってないのだけど!!」
ナーシャの叫び声が家の中を木霊するがリュースはもういない。
「もう!!」
その後、ナーシャは夕飯の用意を始めた。
手伝おうとしたが初日ぐらいはゆっくり待っていなさいと言うナーシャの言葉に甘えることにした。
「できたわよ」
少し時間が経ちそう言うナーシャの声が耳に入り急いで食卓に着いた。
机に並べられた料理は量が多く豪勢なもので食欲をそそるものだ。
もちろん味はその見た目通り絶品であり次々に手が進んでいきあっという間に食べ終わってしまった。
食後も食卓についており二人でお茶を啜ってゆっくりしていた。
そのときナーシャが口を開く。
「ねぇ、デルフ。あなた何歳?」
「十五」
「ふふ。やっぱり私の方が上ね!」
「そっちは何歳なんだ?」
「十八よ。これから私のことはお姉さんと呼びなさい」
デルフに指を突きつけナ―シャはそう言い放った。
「なんでだよ……」
突然のナーシャの物言いに少し戸惑ってそう呟く。
(こいつ三歳も上だったのか。ん? 待てよ)
デルフは一つの疑問が浮かび即座にナーシャに尋ねる。
「ちょっと待て! ナーシャが十八ということはリュースさんは今何歳なんだ?」
「確か……今年で三十八じゃなかったかしら? ……それよりもナーシャじゃなくお姉さん!」
「嘘だろ? 俺はてっきりリュースさんは二十代だとずっと思っていたぞ!」
ナーシャが最後に言ったことは無視をする。
すると残念そうに「はぁ~もうどっちでもいいわ」と小声で言った。
そして気を取り直してナーシャはそのデルフの反応に頷きながら答える。
「まぁお父さん。若く見えるからね。わかるわ~その気持ち」
その後、二階にある空き部屋に案内された。
「今日からここがあなたの部屋よ。いきなりだったから掃除できていないけどそこは我慢してね」
部屋の中は机とベッドがある普通の部屋だった。
広さも申し分がない。
むしろ一人部屋にしては広い方だ。
ナーシャの言う通りデルフの下宿が突然だったためところどころ埃が積もっており掃除が行き届いていなかった。
(これぐらい我慢するさ)
案内し終えたナーシャが下に戻っていくのを確認してからデルフはドアを閉めてベッドに飛び込む。
すると当然のように埃が周囲に舞い上がる。
デルフは辺りに飛び散った埃を手で払うがそれでも咳き込んでしまう。
「ああ、掃除すればいい話だったな。まぁそれも明日か」
今日は埃だらけの部屋を我慢することにする。
埃から身を守るために毛布の中に潜りそれから目を瞑る。
こうしてデルフの王都での生活一日目が終わった。
そして、今日から王都での暮らしが始まった。
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