第21話 マシロとクロエとユーノ

 さて、ユーノの捜索開始だ。

 まずはユーノの家に赴いたが、当たり前のようにいなかった。親御さんも行き先は知らない。


 となると、彼女の行方としての第一候補は森の中だ。


 俺は村を出る前に、見張りをしていたセンリに声をかけた。


「センリ、ユーノを見なかったか?」

「ユーノ嬢なら、先ほどこの先を通っていった。さしずめ、いつもの森に向かうつもりだろう」

「そうか。ありがとう」


 やはり村を出ていたか。

 俺は駆け足に森へと急いだ。

 そして森の入り口に、今まさに入り込もうとしているユーノの姿を見つける。


「ユーノ、待ってくれ!」

「んにゃ?」


 声をかけると、尻尾を揺らしてこちらに振り返るユーノ。

 金と赤のオッドアイに見つめられる中で、俺は彼女の手を取った。


「捕まえた。もうお前を離さない」

「なにそのドラマチックな台詞? お芝居の練習かにゃ?」


 首を傾げるユーノに、俺は事情を説明した。


「ふむふむ、あたしと友達になってくれる二人がいるんだ」

「そういうわけだ。だからこのままお前を二人のいる家へと連れて行く」

「いやだー。あたしはこれから泉で水浴びするの」

「水浴びなんていつでもできるだろう」

「友達作ることだっていつでもできるよ?」


 一丁前に口答えする猫耳っ娘を抱き上げ、肩の上に乗っける。

 

「離せぇ~!」

「離さない。このまま連行だ!」

「今日のリオンは意地悪だにゃ!」

「たまには意地悪にもなるさ。行くぞ」


 俺は肩に背負ったユーノが落っこちないように腕に力を入れて、村へと戻った。

 ジタバタともがく少女を抱えている俺に、村の人々は奇異の視線を注ぐが、気にしない。


 やがてクロエの家に辿り着いた俺は、小屋のドアをノックした。


「マシロ、クロエ。ユーノを連れてきた」

「はーい、いま開けます」


 小屋の中からクロエの声が聞こえ、ドアが開けられる。

 

「リオンさん、早かったですね……ってなんですか、その状況は」


 俺と、抱きかかえられているユーノを見て、クロエがじっとりとした目を向けてくる。

 ユーノの尻はクロエに向けられており、依然としてジタバタと暴れていた。


「いい加減下ろして!」

「分かった、だが逃げるなよ?」


 ユーノを地面に下ろした。

 二本足で立ったユーノは、クロエと視線を合わせる。


「あなたがあたしと友達になってくれる人?」

「は、はい。クロエといいます」

「あたしはユーノ。よろしくにゃ」


 意外と素直に手を差し出したユーノに、クロエは困惑するような表情をしつつも手を取った。

 

「ユーノさん、ひとまず私の家に入ってください」

「そうだね。あ、呼び捨てでいいよ。あたしも呼び捨てするから」

「そうですか。なら、ユーノ。居間を通った先に私の部屋があるから、そこでお話しましょう?」

「あーい、クロエ」


 ユーノはふりふりと尻尾を振って、クロエの家に上がり込む。

 この調子なら、俺はもういなくてもいいかもしれないな。


「リオンさんも、早く上がってください」

「俺はまだ必要か?」

「必要です。さあ、早く」


 そうと言われれば、入るしかなかった。

 ユーノと一緒にクロエの部屋へと向かえば。

 ベッドに座って横髪を指で弄っていたマシロが、ユーノの姿を見てぱあっと表情を輝かせた。


「わあ、可愛い! しかも瞳の色が左右で違う!」

「あなたもあたしの友達になってくれるのかにゃ?」

「そう! 私はマシロ! よろしくね♪」


 マシロはユーノに飛びかかると、猫耳や尻尾をモフり始めた。


「凄い、もふもふでふさふさ!」

「毎日毛並みの手入れをしているからねー」

「そうなんだ、オシャレさんだね!」


 きゃっきゃっとガールズトークをし始めたマシロとユーノ。

 俺はクロエと目を合わせて、お互いに微笑んだ。


「どうやらユーノとお前達は仲良くなれそうだな。じゃあ俺は帰るよ」


 俺が背中を向けると、両腕に重みが。


「リオンさーん? 一人だけ帰るのなんて許さないよー?」

「そうです、私達は友達です。つまり、四人でこれから仲良くお茶会しましょう」


 マシロとクロエが俺の腕にしがみついて離れない。

 なぜか二人にやたらと執着されている俺は、仕方なくお茶会とやらに参加するのだった。


 そして、しばらくの時間が経って。


「ひゃうんっ……リオンさん、そこぉっ……」

「私も、もっと気持ちよくしてほしいですっ……」


 なぜか俺は、ベッドに二人して並ぶマシロとクロエの身体をマッサージしていた。

 どうやら二人の目的は俺自体ではなく、マッサージを欲していたらしい。

 どことなく耽美な息を吐くマシロとクロエを見て、ユーノがごくりと息を呑んだ。


「二人とも、気持ちよさそう……」

「気持ちいいよぉ♡ ユーノも一緒に気持ちよくなろ?」

「そうです、リオンさんの手で、三人仲良く……ね?」


 マシロとクロエは頬を朱に染めて、ユーノを手招きする。

 ユーノは二人の様子に、少しだけ引いているような表情をして、俺をジト目で見た。


「もうすっかり二人はリオンのテクニックにドハマりしてるにゃ」

「若干エロく言うな。さあ、お前も気持ちよくしてやるから、こっちに来い」

「んにゃー……この無自覚スケベは……」


 呆れたように溜息を吐きつつも、ユーノはマシロとクロエと一緒にベッドに並ぶのであった。

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