第11話「縺」
昼下がり、朱有は杉の木の下に座っていた。いつものように。
だか――彼は強く膝を抱えたまま唇を噛み、じっと眼下を凝視したまま、微動だにしなかった。傍に来た椋鳥にも目を向けず。
行路神の前を、行列が通り過ぎた。
白装束の集団は、捧げ持った棺を守るようにして、粛々と進んでいく。
朱有は何度も、葬列の先頭から後尾まで目を流した。だけど、あるべきはずの村一番の豊満な肉体は、どこにも見つけられなかった。
棺を捧げ持つ若者たちが、心なしかその重さに息を上げているようにも見える。
列を先導するのは、伯父と、従兄。
ではあの棺の中にいるのは――従弟なのか。
まだ
何か事故でも、という思いはすぐに打ち消した。そんなことがあったのなら、もっと大騒ぎになっているはず。誰かがちょっと怪我をしただけでも、皆がそれを話題にするような、平素何もない村なのだ。
「なんで……」いつしか声が漏れていたけれど、その理由を知りたいという思いは、その実、朱有にはなかった。
従弟は死んだ。それが目の前の現実だった。
『私がどうにかしてあげる』
肩越し、ゆっくりと振り返る。
葉佳が立っていた。「よかったわね」隣村の小寺に御座す弥勒菩薩を彷彿とさせる優しい笑顔で、彼女はそう言った。
「うん」頷いた。
その通り、よかったのだ。思い通りだ。人道を外れた連中に、天罰が下ったのだ。当然の報いだ。
だけど。
「よかった」継母のときは、確かにそう思った。「いい気味だ」「ざまあみろ」泣きながら笑い転げた。
だけど胸の奥底に、重く蟠る何かがあるようにも感じていた。
気のせいだと思ったし、そう言い聞かせてもきた。だけど今、「よかった」より強く、それがはっきりと、胸を占めている。
まだ一緒に住んでいた時、自分を「兄」と呼ぶ幼い従弟の、丸い笑顔が浮かんできて、どうしてなのか消えてくれない。
「じゃあ、もう帰りましょうか。さっきとても新鮮な果物を手に入れて――」
「ごめん。もう少しここにいる」
軽やかな葉佳の声を遮るように、咄嗟に声を上げていた自分に、自分で驚いた。
彼女の言葉に否を唱えたのは初めてのこと――たちまち動悸が激しくなるのを、朱有は自覚する。
まるで仮面のように貼り付けられているいつもの笑顔が、にわかに消えた。
息が止まる。
袖の下でそっと握った掌が、やけに冷たい。
朱有は慌てて目を逸らし、突如思い出して、葬列に目を投げた。随分と目を離していたと思っていたのに、墓地まではまだ随分と距離がある。
葬列は粛々と進む。その足音が聞こえてきそうなほどの静寂が痛い。背中に冷たい汗が伝わるのが分かった。
小さなため息。
「分かったわ。遅くならないうちに帰っていらっしゃいね」
葉佳の声は、いつもの柔らかい声に思え、安堵する。だが。
「うん、分かった」
朱有は振り向かないで、小さく答えた。
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