第7話

聞きに行かない選択肢は美結にはなかった。


漫画みたいに貼り出せれることがあればよかったのに。残念ながらそんな古い文化など残ってない。


烏谷に数少ない友達関係にそれとなく聞いてみたり、噂程度で流れてくる情報によると"そこまで"らしい。英語は誰にも負けないとか数学は赤点ギリギリだったとかあやふやな言葉ばかり。


美結ちゃんには勝ってないと思うよ。


けれど、美結はこの言葉で満足した。


心の中でガッツポーズを決める。本人が目の前に居ればふんっ、と鼻で笑ってドヤ顔決めていただろう。


テストは勉強の成績の結果であり、高校生にとっては一番身近なアイデンティティともなりえるものだからだ。


例えば、美結は揺士に勉強を教える立場を奪われることを恐れていたように。中学から続く立場を守りたいと本人が意識せずとも。


不確定要素のあったテストも終わり、


次のイベントは夏休み。もう少しで七月に入ってくる。その前に


クラス替えによって身内で固まっていたグループは次第に気の合う同士でくっつきだし変化してきていた。烏谷の身の回りにも変化があった。


烏谷に友達が増えた。


"転校生が空気読めよ"みたいな雰囲気は薄れ、烏谷はさっとグループの会話に交ざっていく様子もある。


裏切り者が・・・とかはない。他人の行動まで強制させるほど傲慢じゃない。ちょっとだけ烏谷の学校生活がだんだんといい環境になっていくのはイライラしていく。


ただの良い子ちゃんじゃ私はない。


嫉妬している自分を恥じる気もない。空気が上に行くように私のこの黒い感情は常に頭に浮かんでくる。


許す、けど私は許してあげる。


なんたって私は揺士と一緒に"水族館"に行くんだから。


私のお家と揺士のお家は家族ぐるみで仲がいい。両親学級から保育所、お隣で顔を合わせ続けた結果、ダブルお出掛けをするのが恒例になっていた。


さすがに前々から決まっている予定をすっぽかすことなんてできないでしょ。寝ぼけながら車に乗る姿が目に浮かぶ。


デートの定番、水族館!親同伴なんてデートだったら地獄、ドン引き案件。マザコンなんて断固拒否。


けれど、もう彼女がいるやつと一緒に行ける機会なんて次があるか保証できない。


女性にとっては室内で大体収まるから、メイクも服装もなんでも選べる。ないかもしれない次に賭けるなんてバカなことはしない。


前はまだ幼馴染ポジに甘えていたゴールデンウイーク。今回は心構えが違う。


・・・今から揺士好みの服でも買ってこようかしら。

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