第41話「消えゆく背中」
★前書き(必ずお読みください)★
今話から一部の読者さんのトラウマを呼び起こす描写が含まれています。
読む際には十分ご注意ください。
シリアス展開を読みたくない方は、今後公開予定の「第48話」まで飛ばしてお読みください。
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会場に入ってから屋台に向かって歩き出す。
所々に案内があったけど、人の流れに沿って歩いていけば大丈夫そうだ。
「それにしてもすごい人込みだね。ここ田舎だけど、スイーツでこれだけ集客できるって何でかな?」
「多分、あれじゃない?」
ひまりが指差した先には2枚の大きなポスターが貼られていた。
超人気アニメの先行上映会。
広大な自然の中に設置された巨大スクリーンで映画が観れるのが見どころらしい。
屋台でスイーツを買ったときにもらえる券を5枚集めると映画会場に入場できるんだとか。
「なんだかうまくできてるね。こんなシチュエーションで甘いものを食べながら観る映画って最高だと思うよ」
「私は甘いものに夢中で映画に集中できないかも……」
「ひまりは映画興味ない?」
「ううん、そんなことないよ。あとで行こ?」
「うん」
ひまりと映画を観る約束をして、楽しみがまた1つ増えた。
屋台に近づいたところで貰ってた案内図を広げる。
「とりあえず最初は珠紀さんのとこ行く?」
「うんっ!」
珠紀さんの屋台は一番奥側。
場所的に悪条件なのかと思ったらそんなことはなかった。
何だろうこの行列……一際賑わいを見せていた。
もう列が蛇のようになってて、一目見ただけじゃ最後尾がどこだか分からない。
「珠紀さんの屋台、すごいね……」
「そうだね……」
最後尾はこちらのプラカードが目に入り、僕たちはそこに向かう。
その列に加わろうとした時にすぐに気づいた。
「え!? お姉ちゃん何やってんの!?」
「あっ、しゅーちゃんだ〜」
プラカードを持ってたのは他でもない、光希ちゃんだった。
「部長、こんにちはっ」
「やっほー、ひまちゃん」
「お手伝いですか?」
「そうだよー、アルバイトしてるの。本当は調理場の方だったんだけど、あまりにも人が多くて列管理に回ったんだー」
「それは大変ですねっ」
「そうだよー、大変なんだよー。いいなぁ〜ひまちゃんはしゅーちゃんとデートして。ひまちゃんあとで代わって?」
「絶対やです」
「ひまちゃんのけちー」
ひまりと光希ちゃんがそんな会話をしてる間にも列に人が加わっていく。
光希ちゃんは距離が離れながらも、お客さんから顔を退けてこっちに話し掛けてくる。
「しゅーちゃん、列に並ばなくてもたまちゃんだったら直接行っても大丈夫だよ?」
「うーん、他に並んでる人に悪いし、このままで大丈夫だよ」
「しゅーちゃんのそーいうとこ好きー」
さすがに距離が離れ過ぎてもう会話ができなくなってしまった。
言ってからあれだけど、確認しなくてよかったかな。
「大丈夫だった? このまま並んでても」
「うんっ! だって並ぶのもデートだよ?」
「そうだね」
「いっぱいお話ししよ?」
それからひまりと話しながら列に並んで進むのを待った。
待ったという表現は適切じゃなかったかもしれない。気付いたら珠紀さんの目の前に立っていた。
「こんにちは、珠紀さん」
「あら、修司くんとひまりちゃん、こんにちは。わざわざ並んで来てくれたの?」
「はい、忙しいと思うので、僕たちのことは気にしないでお仕事頑張ってください」
「ありがとねー。好きなものいくらでも食べてってね?」
「はい、でも他にもたくさん食べたいので、程々にしておきます」
会場限定のパンケーキを1つ頼み、フォークを2つ付けて貰った。
一応会計の人にリストバンドを見せたけど、珠紀さんが会計の人に一言いってたのを見てたから、ここでは見せる意味はなかったかもしれない。
「どこで食べよっか?」
「向こうにいいとこがあるよ」
ひまりは来る前に調べてたのかな?
途中で飲み物を買い、ひまりの案内でそこに向かう。
人込みから少し外れ、木々を抜けたとこで開けた場所に出た。
等間隔に木製のテーブルとイスが設置されていて、家族連れやカップルたちが寛いでる。
そして目の前には、訪れた人を癒すかのように壮大な湖が広がっていた。
「うわぁ〜、すごいね……」
「ふふっ、でしょー」
ニッコリと自慢気な表情のひまり。
まるで地元を褒められて嬉しがる人みたい。
端の方の空いてるテーブルのところに腰掛ける。
正面で湖を眺められるように、ひまりも僕のすぐ隣に座った。
ちょうど木陰ができていて、とても気持ちがいい。
こんなとこでゆっくりしながら食べられるなんてなかなかない。
僕は非日常の中へと放り投げられたかのような不思議な感覚になった。
「帽子取らないの? 木影があるし取った方が風で気持ちいいよ?」
「う、うん……」
ひまりは周りをキョロキョロした後に帽子を取った。
ファサファサと首を横に振り、綺麗な栗色の髪が空をなびいた。
「食べよ?」
「うんっ!」
*****
「はぁ〜、美味しかった〜」
会場限定のパンケーキはとびきりの美味しさだった。
きっとこの景色も関係してるんだと思う。
ひまりもとっても満足そう。
「ほんと、美味しかったね。ひまりは次なに食べたい?」
「ん〜、シュークリームはどう?」
「おいしそうだね。行こっか」
次のお目当てが決まり席を立とうとしたその時、僕たちに聞こえる声で男の子たちの会話が聞こえてきた。
「なぁ、あれって……花菱じゃね?」
「花菱って、あの
「そうそう、俺もめっちゃお世話になったわ」
「髪色違うからよくわかんねーな。引越したって噂あるし、別人じゃねーか?」
「まぁそうだよなー」
「いいなぁ〜、俺もあんな可愛い子とヤりて〜」
次の瞬間、ひまりは突然走り出した。
荷物を置いて、その場から逃げ出すように。
「ひまり!? 待って!」
突然の出来事で僕は反応が遅れてしまった。
すぐに後を追うとひまりは人込みに紛れ込んだ。
この人込みの中、ひまりを見失ったらきっと見つけ出すことはできない。
僕は必死にその後ろ姿を追った。
手を伸ばしても行き交う人の中、引き止めることができない。
『もしつらかったら、すぐに言ってね?』
ひまりに掛けたあの言葉。
きっとそれは、今のひまりの行動に現れてると思う。
ようやく人垣を抜け、追いつけるかと思ったその時──その後ろ姿はどこにもなかった。
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