第28話「これからのこと」※遥
修ちゃんの病気を治してあげる。そうは言っても簡単なことじゃない。
修ちゃんのお父さんが亡くなってから4年も愛香ちゃんが頑張ってきたのに、修ちゃんの病気はまだ治ってない。
私にしてあげられることなんて、あるのかなぁ。
私は美里ちゃんに助言を求めることにした。
「ね? 美里ちゃん、具体的にどうしたらいいのかな? だって、愛香ちゃんでも治せなかったんだよ? 私、自信ないよ……」
すると美里ちゃんは顎に手を当ててしばらく考えると、意外なことを口にした。
「私が思うにさー。お姉様ってもう、横峯くんの病気の治し方、知ってるんじゃない?」
「え!? じゃあどうして愛香ちゃんは治そうとしないの?」
「お姉様は、怖いんじゃない?」
「こ……怖い? 愛香ちゃんでも怖いことなんてあるの?」
あの愛香ちゃんが怖がる姿を想像してみた。
まったく浮かんで来なかった。
「まー遥の言いたいことはわかるよ? なんでもできちゃうしさー。でも、横峯くんが傷つくのは、やっぱり怖いって思うものじゃない?」
「……うん」
「横峯くんって、目の前でお父さん亡くなったの見たんでしょ? 病気が治って、横峯くんがそれを思い出して傷ついたり、立ち直れなくなったりするかもしれない。そう考えると病気を治すことに踏み切れない気持ち、私にはよくわかるなー」
「うん……そう言われると私も怖いって気持ちがよくわかる……」
いまは問題なく生活できているのに、治そうとして余計に私生活に問題が起きるかもしれない。愛香ちゃんはそんなことを思いながら、ずっと悩んできたのかなぁ。
「じゃあ……治さない方がいいのかな?」
「もしもお父さんのことだけだったら、そうだったかもしれないねー。でもさ、今回の遥みたいなことで横峯くんの病状が今後どんどん悪化するかもしれないって考えるとさ、そうも言っていられないと思う」
「……怖い……怖いね……修ちゃんがどんどん忘れてっちゃうって考えると……愛香ちゃんはこんなことをずっと背負ってきたなんて……」
「一度お姉様と相談した方がいいと思う。ただね、いまは遥ができることをやればいいんじゃない?」
「わたしに?」
今できることがある。
私は食い入るように美里ちゃんに耳を傾けた。
「とりあえず横峯くんへの態度は昔に戻すとして、今まで遥がしてきたことで横峯くんが喜んでたこと、1個1個やっていくことだね。嬉しかったことをもう一度体験すれば、何か思い出すかもしれないし。だからお父さんの件とは別で考えたほうがいいと思う」
「修ちゃんが喜んでくれたこと……例えばお料理とか?」
「そうねー。この前のゲロまず料理じゃなくて、ちゃんとした料理ねー?」
「ゲロま……美里ちゃんのいじわる」
美里ちゃんが弄ってくる。
この1ヶ月間、美里ちゃんはずっと私のことを心配してくれてたから、弄って来なくなってた。
だから弄られたのと、昔の日常に戻りつつある嬉しさで複雑な気持ちになった。
「ねー遥、今日泊まってかない? 明日の朝ちょっと早起きしてさ、横峯くんにお弁当作ってあげようよ。私も手伝うからさ」
「うん……でも修ちゃん食べてくれるかな? いつも愛香ちゃんのお弁当食べてるし……」
「全部じゃなくてもいいじゃない。ちょっとつまんでくれるだけでもさー。余ったら遥が作ったお弁当って言えば男共が群がってくるから、無駄にならないしさ」
修ちゃんのために作ったお弁当を他の男の子にあげるのは、やっぱり嫌だと思った。
だけど、修ちゃんのために頑張ろう。
「うん……じゃあ修ちゃんが好きなのいっぱい作るね」
「じゃー明日のお昼、私が横峯くん誘うから。でもねー? 私は遥を一番に応援はするけどさ、私はもうひまりのこと、大切な友達だって思ってる。だから除け者にはできないからね?」
「うん、そんなことしちゃだめ……それは修ちゃんが一番嫌うこと。そんなことしたら修ちゃんに嫌われちゃうよ……」
お友達を大切にしないなんて知ったら、さすがの修ちゃんでも怒っちゃうかもしれない。
「でもねー? 真っ向からぶつかるのはいいのよ? もうさ、ひまりには横峯くんが好きだってはっきりと伝えたほうがいいと思う」
ひまりちゃんは私が修ちゃんを好きだって知ったら、どう思うのかな?
ひまりちゃんは、嫌な顔しちゃわないかな?
「うん……明日お話してみるね」
この日、私は美里ちゃんちにお泊りした。ベッドの横にお布団を敷いて寝床に入る。
美里ちゃんは「さきに寝てて」と言ってから、ベッドの上でずっとスマホを操作して何かしてた。たぶん噂のこと、確認してくれてたんだと思う。
私は明日のことが不安で、なかなか眠りにつけなかった。
また泣きそうになってしまう。
そんな私に気づいたのか、美里ちゃんは私のお布団に入ってきた。
美里ちゃんは何も言わずに、私をギュッと抱きしめてくれる。
美里ちゃんの優しさに包まれて、私はすぐに深い眠りへと落ちていった。
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