第16話「仮面と男の子③」※ひまり
今日の体育は自由運動で、修くんに訊きたいこともあったからバドミントンを一緒にやろうと誘った。
修くんとの打ち合いは本当に楽しかった。今まで運動した中で一番だったかも知れない。
それと修くんは意外にも運動神経が良かった。
昔サッカーをやってたからなのかな? でも足競技とは全く違うし、何か違うスポーツをやってたり?
二人で休憩して周りに聞かれないタイミングを見計らって、修くんにあのことを訊いてみた。
「ねぇ修くん? 修くんはいま……好きな子とかいないの?」
「えっと、……うん、いないよ?」
先日の生徒会長さんが来た件もあったから、また嘘ついてないか慎重に観察した。
「……ホントに?」
「うん……どうして?」
ずっと修くんを見てきた。
好きな人が居るとは言わないまでも、少しでも表情に出ると思ったけど、そんな素振りは微塵も見えて来ない。
「修くん、何か隠し事してない?」
「え? 隠してないよ?」
本当に何も隠してないように見えた。
どうして? 掛川さんはあんなに落ち込んでるのに。
「私お片付けしてくるねっ、修くんは休んでていいから」
ちょっと考えを整理するために、そう言って私は修くんから離れた。
*****
その日の帰りのHR前に修くんから部活について質問された。
「料理研究部はどう?」
「うん、楽しいよっ! お菓子いっぱい作れるし」
あっ、いけない。
また我を忘れないようにしないと。
「研究ってことは、失敗しちゃったりもするの?」
「う〜ん、基本的に料理が得意な人が多いから、そこまで失敗ってものは……ないと思うよっ」
遥ちゃんのは……ちょっといろんな意味でまずいかも知れない。
「ひまりは料理得意なの?」
遥ちゃんのことが気掛かりだった私は、間接的に探ってみようと修くんにこう提案した。
「自分じゃよく分からないから、今度修くんに判断してもらおうかなっ」
「料理作ってくれた人の前で、おいしくないって言えなさそうだよ僕……」
もしも、もしもだよ?
あれを食べてしまって修くんが何も言えずに食べ続けるのはかわいそうだと思って、釘を刺して置いた。
「修くん? こういうのは早めに
「そうなんだ……」
そうして翌日の放課後、修くんを家庭科室に呼んで二人の様子を見た。
教室よりも人数が少なくて人目も付きやすい状況だけど、相変わらず修くんが遥ちゃんを気にする様子はなかった。
「修くんは好きな食べ物な〜に?」
「ん〜、ハンバーグかな?」
「じゃあハンバーグ作るねっ」
食材は学校の食堂から直接仕入れられるから、よほど変わったものでなければ大抵の料理はすぐに作れる環境にある。
足りなそうな食材を申請書に記入して、顧問の先生にお願いした。
そうして私は料理に取り掛かった。
肉だねに工夫を加え、両面をこんがりと焼いてから一度取り出し、残った肉汁で特製ソースを作ったあとにハンバーグのタネを戻して、フタをして生焼けにならないようにコトコトと煮込む。
空いた時間で人参のグラッセ、ベイクドポテト、ブロッコリーのソテーの付け合わせを作って、ハンバーグをお皿に盛った。
出来上がった料理を修くんに持っていく。
「修くんどうぞ。召し上がれっ」
「ありがとう! うわぁ……美味しそう! いただきます!」
そうして修くんはハンバーグを一切れ口に運んだ。
どうかな? 修くんの口に合うかな?
少しドキドキしながら、感想を待った。
「うん! 凄い美味しいよ! ひまりは料理上手だね!」
「ふふっ、ありがと!」
修くんに褒められて幸福感で胸が締め付けられる。
考えてみたら男の子に手料理を食べてもらったのは初めてだった。
そこへ美里ちゃんがやって来る。
「よ……横峯くーん、良かったらこれも食べてみない?」
み……美里ちゃん。それってもしかして……遥ちゃんの作った料理だよね?
それは……ハンバーグ? なのかな?
「う……うん。いただきます」
修くんがそれを口へ運ぶ。
少し考え、言い
「……う……うん……えっと……神谷さん……その……」
あ……遥ちゃん……ごめん。
私、もしかしてやっちゃったかも。
修くん、それを言うのは今じゃないかも知れない。
「お……おいしくない……かな……ごめん……」
「えぇ〜!?」
遥ちゃんが小さく悲鳴を上げている。
やっぱり修くんに食べてもらいたくて、美里ちゃんに持っていってもらったんだ。
避けている訳じゃないのかな?
私はますます分からなくなってしまった。
*****
4月11日の金曜日。
新学年になって初めての週が終わった。
相変わらず、修くんと遥ちゃんの関係は一向に変わる気配がない。
学校から帰宅した私は自室のベッドで横になり、メッセージアプリで修くんのトーク画面を開いた。
『こんばんは(*≧∀≦*)』
数分経って修くんから返信が来て、ポンポンとメッセージのやり取りが続く。
『こんばんは!』
『修くんは今週楽しかった?』
『楽しかったよ! ひまりは?』
『うん! 楽しかったよ〜(*´∇`*) これは修くんのお陰かな??』
そこから、今週はこんなことがあったねと会話が続く。
私は頃合いを見て、意を決してメッセージを送った。ちょっと真面目に訊きたかったから、絵文字も顔文字も使わずに。
『掛川さんと何かあったの?』
『どうして? 何もないよ?』
送ってから失敗したかなと思った。
メッセージだと表情を見れなかったから。
でも送ってから間を空かずに返信が来たし、嘘はついてないのかな。
『変なこと聞いてごめんね。あともう一つ聞きたいんだけど』
一呼吸置いてから送信ボタンを押した。
『修くんにとって掛川さんてどんな人?』
『幼馴染だよ』
幼馴染。
それって特別って意味なのかな?
でも好きな人じゃないんだよね?
両想いだって思ってたのは、私の勘違いだったのかな?
何だかいろいろ抑えていた想いが溢れるような感覚に襲われた。
『好きにな
私は何を打っているんだろう。
慌てて入力した文字を消した。
一度スマホを置き、ベッドで横になりながら膝を抱えた。
少し気持ちを落ち着かせて、再び物思いにふける。
遥ちゃんは修くんに振られちゃったの?
いいのかなぁ。
遥ちゃんはもう修くんとお話しないの?
いいのかなぁ。
遥ちゃんは今後どうしたいの?
いいのかなぁ。
好きになっても、いいのかなぁ。
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